幼女サバイバー ①
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・・・・・、かはっ」
プールの底から顔を出したような息苦しさから解放されて、貪るように空気を吸い込む。
寒い・・・。
冷たい空気を吸い込み過ぎたのか、ケホケホと小さく咳き込みながら、自分の肩を摩る。
寝てた・・・?
地面が固く、冷たい。凄く眠くて、ずっしりと体が重い。
残業続きで寝不足の夜の寝入り端に叩き起こされたかのように、瞼が開かない。
土の感触じゃないなあ、などと思いながら、やっとのことで怠い身を起こした。
どこ・・・? ここ・・・。
薄暗く湿っぽい石壁の隙間のような場所で、見上げれば細い棒状の空。
「・・・路地裏・・・?」
日陰で少し湿気っているけど、どこか早朝っぽい澄んだ空気の匂いがする。
はっきりしない頭で茫洋と壁に背中を委ねていたら、くー、と、小さな音が聞こえた。
「・・・・・おなかすいた・・・」
それに、とにかく寒い。ぶるりと体が震えて、自分を抱きしめるように両手で肩を摩る。
全身の力が抜けるような飢餓感と寒さ。久しぶりだな、この感じ、などと考えてしまう。ネグレクトを受けていた子供のころ以来だ。
「・・・あれ?」
細い。
記憶にある自分の腕よりも、明らかに細く骨ばった感触。
「・・・・・何これ?」
見下ろした自分の両手がカサカサの皮膚でガリガリに骨が浮いたものになっている。
それに・・・小さい?
手のひら、手の甲、と、繰り返し眺めるも、痩せた子供の手のように見える。そして、延びた爪の中まで、手垢が詰まったように酷く汚れている。
視界の端に入る胸元にまで無造作に垂れているぼさぼさの髪は、脂ぎって白っぽく粉を吹いたように絡まっていて、いつだったか、どこかの駅で見掛けた浮浪者の髪のように汚れている。
「・・・裸足・・・」
どういうこと?
投げ出された両足は靴も靴下も履いておらず、両手と同じように延びた爪の中まで黒く汚れが詰まっていて、垢が張り付いたように肌が黒ずんでいる。
腕や手と同じように痩せて骨ばった脚は細く、やはり、小さい。
「汚ったな・・・」
状況がよく分からないけど、とにかく汚い。私は潔癖症なんてことは無かったけど、清潔さと身だしなみには、人並み程度の配慮を払ってきた。
家に放置されていた幼児期が過ぎて以降は、清潔さと身だしなみさえキッチリとしていれば、人目に留まることもなく、目立たずに済むことを経験で学んだからだ。
何とか羽織っているような状態のごわごわとした襤褸切れは、服・・・?
一応は膝下丈のワンピース的なもの、みたいだけど、いつ洗ったんだよ! ってぐらい、元の生地の色が分からないほど汚れていて、端々が擦り減って、破れている。
衣服の上から自分の体を弄ってみて、気付いた。
「・・・・・・・穿いてない・・・?」
マジかよ! ショーツも、ブラも、・・・ブラジャーを着けるような胸は無いな。
チラリ、と、衣服の裾を捲ってみる。
「・・・やっぱり、ノーパンじゃん・・・」
ヒグマに奪われたか? レディーのパンツを盗って行くとは、許されざる変態熊だな。
そこまで考えて、ハッとした。
「そうだ!! 熊!!」
身構えようとしたけど、空腹で体が動かなかった。
周囲をよく見回して、ヒグマっぽい熊に襲われた山中ではないことを再確認する。
背負っていたはずの私のリュックサックも無くなっているし、リュックサックが無くなっているなら常備していた非常食のチョコレートバーも無くなっているわけで、万一の遭難に備えて携行していた十得サバイバルツール(商品名)も無くなっているわけで。
なにこれ・・・? マジで。
あのドイツ製のサバイバルツール、消費税別で19800円もしたのに。
とりあえず緊急の危険は無さそうだと判断して、緊張を解く。
熊に食われて死んだはずの私が、ぴんぴん・・・とまでは行かなくても、生きている。
1メートルほどの幅で私を挟んでいるのは少し粗さが残る質感の石造りの壁で、地面もタイルやモルタルセメントではなく石畳に見える。
やっぱり、どう見ても、どこかの路地裏っぽいよね。
「・・・とりあえず、助けを求めよう」
近所の人に警察―――、あるいは救急車を呼んでもらって、遭難届を出せば、一先ずは助けて貰えるだろう。
よっこらせ、と、壁に凭れかけていた怠い体を転がるように起こして、四つん這いから力が入らない両手両足を全力で使って、漸く立ち上がる。伝い歩きで、明るい方へ向かう。
道路工事でもしているのか、ガラガラと何かが転がるような音が聞こえて、表通りは賑やかだな。
ふらふらと定まらない足取りで、ごつごつとした石壁に手を突きながら路地裏から出た。
本編開始です。
Wordで2ページずつぐらいのボリュームで掲載していこうと思いますので、お付き合いください。




