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蒼焔の魔女 ~ 幼女強い 【感謝! 7000万PV・書籍版第1巻2巻2026年1月10日同時発売・コミカライズ企画進行中!】  作者: 一 二三


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流通阻害無効化作戦 ⑪ ※アンサンブルキャスト面

「ハロルド。そう、険しい顔をするな。この程度で腹を立てていると、早死にするぞ」

「・・・・・分かっているさ」


 唾棄すべき腐敗への怒りを何とか呑み込んで返事をしてみれば、諫めたフレイアの目に在るのは氷よりも冷たい侮蔑の光だった。

 フレイアは、こんな塵屑どもの血に塗れる役目を背負わされているのかと思うと、また別の怒りがこみ上げてくる。


 誰も彼もが私利私欲で権力にしがみつき、悪事に手を染める。

 こんな国を守る為に500年も戦い続けて来たのかと思うと虚しくもなってくる。


 従姉のアマリリアは毒殺され掛け、その夫の国王陛下は息を潜めるように凡愚を演じ、従兄の騎士団長閣下や親友のアレイオスたちによる滅私の働きが在ってこそ、ギリギリのバランスが保たれてきた。

 王都とは、そんな魔窟だ。


 現・騎士団長ドネルクの前任者であるハインズがウォーレス領に引っ込んで以来、王都へ寄りつこうともしないのも、この腐敗臭が鼻につくせいだろう。


 王城を右手に見ながら第1街区を半周する。

 第1街区を抜けて王城の裏手門を潜れば、王都騎士団の精鋭たちが整列をもって出迎えている。


 罪人を入城させるのに大手門の通行を許すことは無い。

 栄誉、云々などの理由も有るには有るが、現実的に王城内の牢獄や刑場は華やかさとは真逆の裏手門周辺に設えられている。

 罪人の死体を城壁外の焼却場まで搬出するのに効率が良いのが裏手門なのだ。


 “魔の森”に対峙する人類棲息域の最前線として生まれたリテルダニア王国の場合、本来の大手門に当たるのは東門だ。

 東西南北のそれぞれに城門を持つ王都に於いて、東門以外は裏手門に当たり、牢獄や刑場は北門近くに固まっている。

 今回の場合は、城壁の南門から王都に入って西門側を回って北門から入城したことになる。


 粛々と刑吏に罪人の引渡しを終える。

 ミリアや方面隊隊長たちとは、ここで別れる。

 本来、貴族家当主の夫人でしか無いミリアが許可も無く入城できてしまうはずが無いのだが、社交界を締めているミリアの権勢が窺える。


「ウォーレス卿、ピーシス卿、クローゼリス卿。こちらへ」

「うむ。手間を掛ける」


 王都騎士団から王城内の警備を統べる近衛騎士団に案内役が代わり、先導される。

 バルトロイにとっては勤務先に戻ってきただけではあるが、今から私的に謁見する相手が王国最高権威を体現するお方ともなれば、近衛の案内に従うことになる。


 荘厳では在れど華美では無い王宮の回廊を歩く。

 歴史在る王城にしては質素な佇まいは「人類の盾」を務めて来たリテルダニア王国の国風によるものだ。


 そこに勤める多くの痴れ者たちを軽蔑すれど、遠い祖先の気骨を感じさせるこの城の雰囲気がハロルドは嫌いでは無い。

 王国の長い歴史の中で、出入りする人間だけが腐ってしまったのだ。

 早く確実に病巣を取り除かなければ、と、強く思う。


 近衛騎士が両開きの扉の前で足を止め、扉の両脇で護衛に立つ騎士たちへ到着の報を告げると、護衛の一人が扉をノックする。

 張りのある男声が応えて扉が開く。


「ウォーレス卿、ピーシス卿、クローゼリス卿が、到着されました」

「入れ」

 先ほどの応答とは違う静かな男声が許可を下ろし、近衛が扉の脇へと道を譲る。


「ウォーレス侯爵ハロルド、まかり越しました」

「うむ。大義であった」

「は」


 膝を突き、頭を垂れるハロルドに掛けられた声は、2年ぶりに聞く義理の従兄のものだ。

 労いを受けてもハロルドは頭を上げない。

 ハロルドの両脇には、フレイアとバルトロイも膝を突いている。


「其方ら、護衛は良い。下がれ」

「はっ。・・・しかし」

「良い。ここに居るは、王国最強の騎士団長に、王国最強の軍団長に、王国最強の術師に、特務魔法術師ぞ。この世界に、これ以上、安全な場所がどこにある?」


「失礼を申し上げました」

「うむ。良い」

 近衛騎士が退室して扉が閉まった。


「もう良いぞ。よく来た、ハロルド。フレイアもバルトロイも、ご苦労だった」

「お久しぶりです。陛下」


 立ち上がったハロルドはニコリと笑みを浮かべる。

 目の前の豊かな髭を蓄えた温厚そうな(おもて)に笑みを湛えた五十絡みの男が、リテルダニア王国・現・国王オーグストだ。


 ガッシリと手を取り合いハロルドは握手を交わす。

 ほんの数年、会わなかっただけなのに、義理の従兄弟は手が少し薄くなった気がする。

 陛下の心労が忍ばれて、呑み込んだはずの怒りが、またふつふつと湧き上がってくる。


「話を始める前から、そんな顔をするな。ハロルド」

「ドネルク閣下も、お久しぶりです」


 年上の従兄弟の苦笑に、波立ったハロルドの胸中が幾らか凪ぐ。

 大柄で筋骨隆々な体躯の精悍なこの偉丈夫こそが、王国の武の頂点を務める従兄、王都騎士団団長ドネルク。

 壮齢になっても衰えを知らず、王都リテルを中心とした王国中央地域に睨みを利かせる男だ。


 成人して以来、爵位を継ぐためにウォーレス領へ帰るまでの日々を、この従兄には本当に世話になった。

 その隣には、西部方面隊隊長を務める初老の男の姿も有る。


「久しいな。ハロルド」

「ハウマン隊長も、お元気そうで何よりです」

「娘御が無事で本当に良かった」

「お気遣い、ありがとうございます」


「皆、まあ掛けよ」

 広々として、質素にして良質の品質で揃えられた国王執務室に、嫌みなく据えられているソファーへと、オーグストが誘う。


 一人掛けが2脚、三人掛けが2脚。

 ローテーブルを挟んで、それぞれのソファーが向かい合わせに置かれている。

 一人掛けにオーグストとドネルクが、三人掛けにハウマンとバルトロイ、ハロルドとフレイアが対面して腰を下ろす。


 音も無く現れた女中2人が飲みかけのティーセットを下げ、手際よく新しいティーセットをテーブルに配る。

 女中たちが下がって余人が居なくなった途端、フレイアがどっかりと背もたれに身を預けた。


塩と干し肉作戦⑪です。


国家の中枢! 重鎮、勢揃い!

次回、情報共有!

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― 新着の感想 ―
権力は腐敗する、例外はない。 なら問題は腐敗した状態をどのように対処するかだ。
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