精霊種 ㊺
「これは・・・。魔素が集まってきているね」
「・・・集まって来る?」
ぐるりと採掘場の景色を見回したレイクスさんが観測結果を教えてくれる。
脳裏に思い浮かぶのは、囲いの底に漂っている光の粒ではなく、ご祈祷のときに飛んで行った光の粒だ。
慰霊碑前から飛んで行ったゴール地点が、この採掘場ってことだろうか?
あのとき、飛んで行く光の粒を追い掛けるまではしなくても、どっち方面へ飛んで行くかぐらいは確かめておけば良かったな。
まあ、ただでさえ精霊関係者扱いされて観衆に拝まれたのだから、あのとき宙に浮いたりすると取り返しが付かないレベルで勘違いされたと思うけど。
自分だけ魔力が見えているレイクスさんは、1人で感心しながら観測結果の実況をしてくれている。
「自然の魔素としては、凄い濃さだよ」
その「自然の魔素としては」って前柄置きが気になるんだけど、レイクスさんは、もっと濃い魔力を視たことが有るってことだろうか。
それは横に置いておいたとして、言っていることを総合すると、結論かな?
「・・・つまり、この採掘場は迷宮だと?」
「そう考えて良いだろうね。昼間に視たときには、ここまで濃くなかったんだけど、夜に魔獣が活性化することを思えば、この時間の魔素が濃くなっている理由と考えても良いのかも知れない」
ふぅん? 魔力も夜行性?
「・・・ははぁ。だから、夜の間にシカが増えてたんですね」
「何て名前だったっけ。“嘆きの祠”? あの死霊系の迷宮よりは随分と薄いけど、魔素の集まり方はそっくりだよ」
ほう? これはレイクスさんにしか観測できない事象だね。
「・・・迷宮って魔力を集めるんですか?」
他の人では目に見えなくて、証明することも検証することも出来ないから俗説扱いされるかも知れないけど、いつの日か、レイクスさんの名前で発表すれば、ダンジョン研究者として後世に名前が残るんじゃないだろうか。
今の時点でレイクスさんの名前を出しちゃうと、神教会を呼び寄せちゃうだろうから名前は出せないんだけど。
「少なくとも、“嘆きの祠”はそうだったよ。周囲から流れ込んでいく感じ?」
「・・・へぇ。そんなことまで視えるんですね」
なぜか栓を抜いた浴槽のお湯が排水口に吸い込まれていく様子を思い出した。
それとも、魚を焼いたときの煙が換気扇に吸い込まれていく様子かな?
掃除機の「驚きの吸引力!」 ってキャッチコピーは少し違う気がする。
「視えるというのも良いことばかりじゃないんだけどね。今もテツなんてギラギラピカピカ光っていて目がチカチカするよ」
「縁起でもねえ。人をハゲ親父みてえに言うんじゃねえよ」
思ってたのと違う!
そんな風に見えるのか。
レイクスさんの横で聞いていたテツさんが嫌そうに反論している。
私たちが見ている景色に色の付いた魔力が重なって見える感じの視界をイメージしていたけど、太陽を直視したときのレンズフレアみたいに魔力が光って見えるなら、「目がチカチカする」ってレイクスさんが言うのも分かる気がする。
「ツルツルとは言ってないよ?」
「俺はまだフサフサだからな?」
まだやってるのか。
誰も毛根の話とは言ってないのに。
「・・・そんなに嫌なんだ?」
「ヒナに嫌われたらどうすんだよ。毛根なんて殴って解決できるもんじゃねえしよ」
ああ。そっち。
「・・・そういう問題かぁ」
一人娘に髪が薄くなったから嫌いって言われたら、そりゃあショックだろうね。
毛根なんて個人の体質の問題で、自分の努力で何とかなるものじゃないだろうし。
幽霊が苦手って人が、苦手な理由に似たようなことを挙げているのを聞いたことが有るね。
そんなことよりもだ。ものすごく気になることに気付いちゃったよ。
「・・・でも、迷宮だとすれば、どうして岩塩の採掘ができるんでしょう?」
「んん? どういうこと?」
レイクスさんとテツさんが揃って首を傾げる。
「・・・ナーガ川の上流で見付けた迷宮は干渉できなかったんですよ。魔獣の討伐に使ったゴーレムが魔力の制御下から離れた途端、ゴーレムが迷宮の一部になりました」
「迷宮の一部になる?」
「どういう状態だ?」
今の説明じゃイメージ出来なかったか。
「・・・迷宮の構造体―――、壁や天井を壊せないっていうか、そんな感じ」
「ほほう」
“破壊不能オブジェクト”っていうんだっけ?
ゲームなんかで固定された地形データをイメージして伝えれば、ゲームをプレイしたことが有るだろうテツさんは理解してくれたっぽい。
レイクスさんには別の形で説明し直した方が良いね。
え~っと。どう言えば良いんだろう?
あっ。アレだ。
「・・・制御を奪われると迷宮の魔力に染められて、“他者の魔力には干渉できない”ってあの感じになるんです」
「それは興味深いね。そこって砂糖が採れるって迷宮のことだっけ?」
上手く伝わってくれたようで安心しつつ頷いて返す。
「・・・泊まり込んでの探索もできるように防衛拠点を作ってから帰ってきたのですが、私たちは他の案件が山積みになっていて探索しに行けないんです」
「それでドネルク殿に探索依頼を出したんだね」
「・・・はい」
納得顔で頷いたレイクスさんがテツさんへ視線を向ける。
精霊種㊺です。
破壊不能オブジェクト!
次回、サンプル!?
※ すみなせん!
遅刻です!




