精霊種 ⑧
「そうですね。近い部分は有りと思います」
具体的に怪我や病気が治るイメージが出来ないと発動しないのは他の魔法と同じだし、治癒魔法は時間を戻したり進めたりで自然治癒を促進するものに思える。
いや。“促進”と定義するのはおかしいかな?
壊れてしまった細胞を元に治すのは“促進”じゃなく魔法のファンタジーパワーとしか表現しようがないし。
どちらかといえば治癒の道筋を具体的にイメージできる医学や生物学の知識の方が重要で、超常現象とも言えるファンタジーパワーは補佐的な位置付けになるんじゃないだろうか。
私たちの会話内容が気になったのか、魔法が使えないというテツさんも参入してくる。
「神教会の資金源、ってのは?」
「・・・神教会関係者の他に治癒魔法術師がほとんど居ないことは知ってる?」
「そうなのか? 実際、一度も見掛けたことはなかったが」
だろうね。
ケイナちゃんなら兎も角、熊に殴り勝つテツさんが治癒魔法術師と接点を持つ必要が有るとは思えないもの。
探したこともなかっただろうしね。
こっちの世界の怪我や病気の治療にまつわる現状を、テツさんもエルフ族も知らないのだろう。
「・・・ちょっとした怪我を治療して貰うだけで金貨を何枚も取られるんだって」
「ほほう? 医療を―――、いや。市場を独占して、ボロ儲けしてるってことだな」
人命に関わる医療業界の独占が許される時点で、人道やモラルの観点が未発達なんだよ。
侵略戦争バンザイ! なんて考え方が罷り通ってるしね。
そりゃまあ、地球だって「人道ガー!」なんて言い出してモラルが発達し始めたのは第一次世界大戦当時に毒ガスや銃火器が発達した頃のことだし。
産業革命以前の中世では、医療や知識を特権階級や特定の宗教が独占し続けていたからね。
その「人道ガー!」だって、片方の陣営が強力な武器を発明して、劣勢になった側の陣営が「あまりにも残忍で人道的じゃない!」って言い出したところから戦争のルールが取り決められたらしいよ?
いや。知らんけど。
そんな新兵器がゴロゴロ開発されたとミリオタさんが言ってた。
第一次世界大戦からほんの20年ほどしか経っていなくて人口も経済も回復しきっていないのに第二次世界大戦で再び人が死にまくった上に、どこかの島国が植民地の人たちに知識を与えて欧州の先進国が現地人の反発を抑えきれなくなるまでは、地球人類だって侵略戦争バンザイだった。
本当に知識って大事なんだよ。
知識が有ってこそ、それまでの常識が塗り替えられて新しい常識が醸成される。
「・・・情報が無さ過ぎて治癒魔法は光魔法だと思い込んでいる人が多いから、光魔法に関する知識を神教会が独占している以上、逆らえないよね?」
「ははぁ。何でカルト宗教のキチ〇イ教義に迎合する連中が多いのか不思議に思っていたんだが、そういう理由か」
テツさんが無精ヒゲを剃ってツルツルになっている自分の顎を撫でる。
いち早く知識の重要さに気付いた神教会も、上手く重要な知識を囲い込んで自分たちに都合の良い常識を作り上げたってことなんだろう。
囲い込みに成功すれば、思想の押し付けに強制力を持たせることも可能になる。
「・・・たぶんね。高いおカネを取られたとしても、怪我や病気を治して貰えた人や治して貰いたい人はどう考えると思う?」
「家族の命が掛かってるとなれば、背に腹は代えられねえよ。疑問は抱いていても連中の教義に従うだろうな。そりゃあ強力な影響力だ」
子持ちのテツさんも納得顔で頷く。
一体、誰が光魔法や治癒魔法の”知識の独占”なんてことを考えたんだろうね?
どうにも、その裏に勇者の影を感じてならないんだよ。
時代で言えば、神教会がメチャクチャなことを始めた500年前だと地球でも中世だよね。
欧州なら特権階級や宗教が知識を独占して、一般民衆に圧政を敷いていた時代じゃん?
日本では大航海時代の流れで欧州から宣教師やら何やらが入り込んできた頃だよ。
時代で言えば、戦国末期の頃かな?
その頃の日本は、すでに一般民衆も識字率が高い人が多く居て、場末の農民ですら論理的思考をするものだから、宣教師が民衆を騙して教化することも出来ずに欧州へ逃げ帰っていたらしい。
そういった意味でも、神教会って日本人とは毛色が違う感じに思えるんだよね。
そして、その時代にも神教会は召喚魔法を持っていた。
中世欧州の辺りから、知識の独占による支配体制構築のシステムを知る勇者が入って来ていない?
言っちゃ悪いけど、そんな時代の欧州人が入って来ているなら、神教会の変貌にも説明が付いてしまう気がする。
だって、その頃に神教会は自分たちが信じる主神すら変えちゃってるじゃん。
まさに「変貌」だよ。
たまたまなのか、望んでのことか、地球の“そういう知識”を持った勇者を拉致しちゃったんじゃないかな。
有害な形に変貌した以上、私はスッパリと“病巣を切除”するべきだと考えている。
こっちの世界に死と破壊を振り撒く病巣―――、神教会の排除だ。
ケイナちゃんが深刻な表情で私に視線を向けてくる。
「治癒術式を広めることで神教会の力を削り取る、ですか・・・。フィオレたちは本気で神教会を倒そうと考えているのですね」
「・・・行く行くはね。でも、先ずは勇王だよ。神教会の手先だから勇王国とぶつかる方が先になるだろうし、勇王国との戦争に楽々で勝てるぐらいに、人も物も強くするよ」
過去の勇者が世界を狂わせてしまったのなら、勇者と同じ知識をもってその狂気を排除するのも有りじゃないかな。
私は勇者じゃないけど、勇者と同じ世界の知識は持っている。
“世界を正気に戻す”ために、その知識を使ったところで構わないんじゃない?
正直、「私が世界を救うんだ!」みたいな考えは、微粒子1個分も私は持っていない。
私は私の大切な人たちを失いたくないだけだもの。
それが間違いだというなら、どうぞ私を止めに来れば良い。
止められるものなら止めて見ろ。
これは私自身のための戦い。
私は自分の手を汚すことも躊躇しないよ。
私が持つ全てを振り絞って、全力で返り討ちにしてやる。
精霊種⑧です。
勇者vs勇者!?
次回、源泉!?




