精霊魔法というもの ㊳
「ビジネスライクな―――、浅い取引関係は損得勘定で簡単に切り棄てられる」
「・・・ふむ?」
もう一声。
その言い方じゃ伝わらないよ? と首を傾げて親切な説明を要求すれば、お母様の目を真っ直ぐに見たままテツさんは要求に応えてくれる。
「取引ではなく、良き隣人、良き友人で在ってやってくれ」
「む・・・」
目を見開いたお母様が言葉を失って口を噤む。
これがエルフ族に対するテツさんの思いか。
ああ言えばこう言うお母様を黙らせるなんて、ヤルねぇ。
「・・・テツさんの言いたいことは分かったよ」
「分かるのか?」
視線を移してきたお母様に頷き返す。
お母様には、こう言った方が真意を分かって貰いやすいだろう。
「・・・親友や家族を切り棄てられる?」
「なるほど。そういうことか」
私の解釈を伝えれば、お母様も頷いてくれた。
例えば、王妃様やエゼリアさんたち。
情に篤いお母様にとって、親友や家族は簡単に切り棄てられるものじゃない。
そんな真似をするぐらいなら、自身が傷付くのも怖れずに敵中突破で活路を切り開きに行くのだろう。
エルフ族に対しても同じようにしてやって欲しいと。
「・・・親友や家族になれそうかどうか、自分たちの目で確かめれば良いよ」
テツさんの要求は、どこに視点を置いてエルフ族と接するのかを問うものだ。
エルフ族が持つ技術に焦点を当てるのか、それとも親しい1人の人間として見るのか。
たぶん、神教会勢力との決着を付ける日に、テツさんはこっちの世界に居ないだろう。
テツさん自身も、そうなると考えているから、エルフ族と共に戦うことになるので有ろう相手への要求水準が高くなるんだろうね。
ケイナちゃんやレイクスさんのことが心配なのは分かるけど、私たちを侮って貰っちゃ困るよ。
「エレえ自信だな?」
「・・・そりゃあ、もちろん。初代レティア様の頃からウォーレス血統の人々は、そうやって王国と王国民を守ってきたんだから」
私の返事にテツさんが私をじっと見てくる。
「ふむ・・・」
「・・・何?」
私が問い返せば、テツさんは言葉を飲み込むように首を振る。
「いいや。この場で訊いて良いのか迷っただけだ」
「・・・訊く? 私に?」
何の話? 言いにくそうな感じに見えて余計に気になるよ。
お母様も同じように感じたようで、テツさんに追撃を加えに行く。
「フィオレに訊きたいことが有るなら、私に構わず訊けば良い。何か本音を隠している相手とは付き合いにくいことは誰でも同じではないか?」
「そりゃそうだな。じゃあ訊かせて貰うとするか」
お母様の了解を得て1つ息を吐いたテツさんが、覚悟を決めたような目で私の目をじっと見てくる。
ただならぬものを感じてドキッとした。
「・・・な、何?」
「俺は必ず日本へ帰ると決めているわけだが、それが実現するとして、嬢ちゃんは日本へ帰りたいと思うか?」
ん? 日本へ?
あっ。そういうことか。分かっちゃった。
テツさんの質問の真意に気付いてクスッと笑いが漏れた。
この人、危なっかしいし変な人だけど、本当に良い人なんだな。
自分が悪者になるかも知れないのに、それでも他人の心配をするんだ?
自分だって追い込まれて一杯一杯なくせにね。
エルフ族の人たちが信頼を置いて、ケイナちゃんが懐くのも分かる気がするよ。
私の返事次第ではテツさんが私を連れて行こうとしたと感じたのか、ルナリアがバッと立ち上がった。
「ちょっと!!」
「・・・まあまあまあ。ルナリア。お母様も落ち着いて」
急いでルナリアとお母様を宥めに掛かる。
ほらぁ。お母様も目を怒らせちゃってるじゃん。
「・・・テツさんは私が元日本人だと知って、娘さんを残してきたテツさんと同じように、私にも向こうに残してきた人たちが居るんじゃないかと心配したんだよ。私の意思を確認しただけで、無理にどうこうしようってわけじゃないと思うよ。―――けどね、テツさん。私を気遣ってくれたことは分かるし、その気持ちは有り難いけど、私は帰らないよ。私の“家族”はここにしか居ないから、私はどこにも行かない」
「フィオレ!」
ルナリアが首っ玉に抱き付いてきて、お母様が息を吐いて肩の力を抜く。
そもそも、日本人の私は死んだって言ったよね?
普通のご家庭でも死んだはずの娘が、外国人―――、じゃないな。
いい歳こいた行き遅れだったはずの娘が異世界人の幼女になって、ジャングルの奥地に潜伏していた兵隊さんみたいに「お恥ずかしながら帰って参りました!」とか戻って来たら、扱いに困るんじゃない?
テツさんたちには詳しい私の身の上まで話していないけど、日本における私のご家庭は頭のおかしいロクでもない無責任女しか居なかったしね。
あの女が老後を押し付ける相手の嵌め込みに失敗して独居老人になったら、散々な目に遭わされた私のところへ社会から責任を押し付けられたのかと想像するだけでゾッとする。
避妊に失敗した上に製造者責任を放棄した製造者の社会的責任を、放棄された被製造物の私が押し付けられるなんて、おかしくない?
やっと最初から腐りきっていた腐れ縁が完全に切れて、晴れて身も心も赤の他人になれたのに、そんな場所へ帰るわけないじゃん。
断固、お断りだよ。
精霊魔法というもの㊳です。
否決!(AA略
次回、進捗!?




