精霊魔法というもの ㊱
「罠か・・・。直ぐに覚えるショージョーには、確かに効果が薄いだろうね」
私の答えにレイクスさんも頷く。
みんなが口を揃える「すぐに覚える」というショージョーが持つ知能の高さが、致命的にワナとの相性が悪いんだよ。
ワナは固定された仕掛けであって、人間が手に持つ武器のように獲物の動き合わせて照準を動かすことが出来ないからね。
「テツ殿はショージョーを倒したのだろう? どうやって倒した?」
「石を投げただけだぜ。昔から百発百中でな」
何のこともない風にテツさんは言う。
私も日本で狩猟を始めた初期の頃に、鳥や小動物に小石を投げて獲れないものかと頑張ったことは有るよ。
結果、そんなに簡単に投石が当たれば苦労はしない。
練習して命中率を引き上げるなら弓矢の方がハードルは低かったよ。
何せ、弓矢は矢が向いた軸線上にしか矢が飛ばないからね。
重力や空気抵抗に運動エネルギーが削られて矢の勢いが落ちるから、弾道軌道で着弾点が下がるせいで真っ直ぐに鏃を向けても矢は当たらない。
それでも、全く目安がない状態の投石よりも、軸線上という目安が有る矢の方が照準を調整しやすいんだよ。
「・・・投石かぁ」
だからと言って、投石が侮れないのは確かだ。
人類最古の攻撃手段だからね。
人類じゃない動物園のチンパンジーやゴリラでも使う攻撃手段が投石だよ。
よく「ウ〇コを投げてくる」チンパンジーやゴリラが話題になるでしょ。
あれって、小石が手元にないから小石の代わりにウン〇を投げてるんだと思う。知らんけど。
ドッジボールでもそうだけど、狙って飛んで来るものを避けるのは意外と難しいんだよ。
テツさんのことだからパワーでゴリ押ししたのだろうけど、有効では有るんだよね。
たかが投石。されど投石だよ。
投石器を使って弾速を上げれば、もう簡単に避けられるようなものではなくなるのが投石というものだ。
投石器じゃなく、手で振り回すスリングの方ね。
あのスリングだって、照準点と振り回す円軌道が同軸上に有れば射出するタイミング次第で命中するから、弓矢ほどじゃなくても練習すれば命中率は上がるものなんだよ。
私が攻撃手段の是非について意識を飛ばしている間にも、お母様は次の段階へと話を進める。
「重ねて言うが、集落を丸ごとレティアの町へ移してはどうだ?」
「郷へ持ち帰って皆と相談するよ」
お母様のお誘いに、ついにレイクスさんが頷いた。
おお。さすがお母様。
エルフ族保護に1歩近付いたよ。
少し目元を緩めてお母様も頷き返す。
「そうすると良い。エルフ族の喪失は人類の損失だ」
「必要とされるのは有り難いことだけど、大袈裟じゃない?」
苦笑を返すレイクスさんに、お母様は明確に首を振る。
「何を言う。今、この場においても私たちに新たな知見をもたらして見せただろう」
「・・・そうだよ。お互いの知識と技術を教え合って全体を底上げすれば、もっと強くなって、みんなの生存率が引き上がる。みんなで生き残るんだよ」
ここで乗っからねば! と私も追従すれば、レイクスさんが真剣な目を向けてくる。
「本気で神教会勢力を打ち破るつもりなんだね」
真意を問う段階は過ぎたということだろう。
今、見定められているのは覚悟―――、いや。決意と言った方が良いのかな?
私たちは本気も本気。
向こうが攻めて来ないので有れば勝手にどこかで生きていれば良いけど、攻めてくる気マンマンなのだから容赦はしない。
張り倒して踏み潰して地上から消し去ってやる。
その覚悟をキメた上で勝つための準備に全速力で突き進んでるのが私たちだ。
「当然だろう。“ウォーレスは王国の盾。ピーシスはウォーレスの剣”と言ってな。“王国最強”は伊達ではないのだぞ?」
「そうよ! テレサとも一緒に勇王を倒す約束をしているんだから!」
お母様が好戦的に口角を引き上げ、大人しくしていたルナリアも断言する。
この場には居ないけど、王妃様が元気になったから、王都でテレサも王妃様から本格的に“勝つため”の教育を受けているはずだ。
自分1人でもコツコツと目的に向かって頑張れるテレサだもの。
遠くに居ても、きっと頑張っていると信じられる。
お母様もルナリアもテレサも、王妃様も王様も、ウォーレス家のみんなも、ドネルクさんたちも、私だって気持ちは同じ。
「・・・大切な人たちを守る為に、私たちは絶対に勝つよ」
「大切な人たちを・・・」
宣言すれば、ケイナちゃんが噛みしめるようにしている。
私たちの思いが伝わってくれれば良いな、とケイナちゃんの様子を見つめていると、視線を感じた。
そっちへ目を向けてみれば、真剣な目でテツさんが私を見ている。
「勝つために地球の知識を用いることも躊躇わないと?」
「・・・うん。どんな手でも使うし、どれだけ敵の命を奪うことになっても躊躇わない」
テツさんの言いたいことは分かるよ。
こっちの世界の技術で、どこまで再現できるかは未知数だ。
けれど、エルフ族やドワーフ族の協力を得た私やテツさんが自重を投げ棄てるというのなら、きっと私たちが振り撒く死と破壊は桁違いなものになるんだろう。
恐らく、それを実行する私は血も涙もない悪魔のように言われるのだろうけど、大切なもの、大切な人たちを守るためなら、その程度の悪名を背負うことなんて私は屁とも思わない。
じっとテツさんの目を見返していたら、テツさんは根負けしたように椅子の背もたれの体重を預けて天を仰いだ。
精霊魔法というもの㊱です。
悪名を背負う覚悟!
次回、思い!?




