精霊魔法というもの ㉛
「ふむ・・・。しばらく摂取を続けると魔力の活性化が起こらなくなることは?」
「さらに強い魔獣の血を飲めば続くぜ」
「はい。実証済みです」
レイクスさんに代わって答えたのはテツさんとケイナちゃんだ。
そう言えば、2人は冒険者ギルドの仕事を請けているから、血を飲んだことの有る魔獣の種類は私たちよりも多そうだよね。
2人の答えに頷いたお母様が質問を重ねる。
「体内保有魔力―――、魔素量が増えることは?」
「魔素の活性化が感じられる間は魔素量も増え続けるね。僕らは数日前まで郷を出たテツとケイナに会えていなかったんだけど、しばらく振りに会ってみれば驚くほどにケイナの魔素量が増えていたし」
次の質問に答えたのはレイクスさんだ。
レイクスさんは魔力を視覚的に見ることが出来るから、私たちよりも明確な見解を持っているはずだ。
そのレイクスさんが「そうだ」というのなら、体感で測るしかない私たちの見解よりも信憑性が高い。
これは朗報だよ。
「・・・予想通りだね。まだまだ体内保有魔力量を増やせそう」
「そのようだ」
お母様へ目を向ければ、お母様も頷き返してくれる。
分かって居なさそうな表情を装ってテツさんが首を傾げる。
「魔素の量が何かに関係するのか?」
「・・・それはテツさんが一番強く体感してるでしょ」
分かってるくせに、よく言うよ。
この人の“強さ”は異質なものだと私は感じている。
デッカい熊にドカドカと殴られまくって平気な人間なんて普通じゃないもの。
わざと熊に殴られている感じもしたから、ダメージを測ってたんじゃないかな。
つまり、この人は自分の強さを認識している。
まだ惚けるつもりのようで、テツさんは情報を小出しにしてくる。
「体が強くなるってことか」
「・・・魔法もだよ。術式に籠められる魔力量が増えるから一撃の威力が上がるし、スタミナというか、持続力も上がる。体内保有魔力量が少なくて魔法術師の道を諦めていた人が魔法術師になれることも有るし、もしかして、イエーティに殴られても平気なぐらいに防御力が上がったりもするのかな?」
ストレートに訊いてみれば、テツさんはニヤリと口角を引き上げた。
「犬っコロに囓られても平気な程度にはな」
「・・・犬っコロ?」
囓られるという意味の分からない表現は横に置いておいたとして、何の魔獣のことを言ってるんだろう?
意味不明なテツさんの証言を通訳してくれたのはケイナちゃんだ。
「バンダースナッチのことです」
「待て。バンダースナッチにわざと自分を囓らせてみたことが有るのか?」
理解に苦しむようにお母様が眉根を寄せている。
魔力の手の防御力を確かめるのに、私もバンダースナッチの犬パンチを受け止めてみたことは有るけど、自分の手足を囓らせてみようとまでは考えなかったな。
「おう。今日は熊パンチを受けてみたぞ」
お母様の怪訝な目を平然と受け止めてテツさんがニッと笑う。
ね? 意味不明でしょ?
「・・・平気な顔をして殴られてたよ」
「ほう?」
ルナリアもコクコクと頷いていて、目撃者の証言に呆れ顔だったお母様が好戦的な目をテツさんに向けた。
あ。剣で斬れるか斬れないか実験してみようと考えてる?
不穏な空気を察知したらしいテツさんが笑みを引っ込めて嫌そうに首を振る。
「おおっと。止めてくれ。俺は平和主義なんだ」
「・・・ウォーレス領では、模擬戦が挨拶みたいなものだからね?」
「マジかよ」
お母様を誤解されるのも嫌だしフォローを入れれば、テツさんが呆れた顔をする。
言っちゃ悪いけど、ウォーレス領はテツさんほど変じゃないと思うよ?
平和主義者っていうのも疑義が有るんじゃない?
好戦的だとまでは言わないけど、熊を狩ったときの様子を見た限り、戦うこと自体に嫌悪感は持っていないはず。
「ま。兎も角、お前が以前言っていたように、全ての領民に血を飲ませるべきだな」
手を伸ばしてきたお母様にぐりぐりされる。
体感と推測から領軍と猟師さんたちを中心に推し進めてきた領民強化計画だけど、私たちの判断は間違っていなかった。
テツさんほどじゃなくても体が強くなるなら領民の死亡率が下がる。
戦死者が減るならオーリアちゃんたちのような孤児が減る。
戦争での後遺障害が残る負傷者が減るなら領軍の損耗が減る。
後遺障害が残っても、ジアンさんのように社会復帰できるなら労働力の低下を避けられるし、負傷者や家族の人生にも大きな負担を掛けずに済む。
悲しみや苦しみを減らせるなら、多少、領民たちに強制してでも、このまま突き進むべきだ。
使命感に燃えていたら、レイクスさんに首を傾げられた。
「領民全て? どのぐらいの人が居るのかは知らないけど、そんなに魔獣は狩れないんじゃない?」
「・・・バイコーンなら毎日100頭以上獲れますよ? ちなみに、ウォーレス領と、このピーシス領を合わせると領民は50万人ぐらい居ます」
テツさんとケイナちゃんは感心するような表情をしたけど、レイクスさんをはじめとしたエルフ族の人たちはギョッとした表情で固まった。
「100頭も・・・? 毎日?」
「無限と思えるほど増えていてな。ウォーレス領ではバイコーンの肉が売るほど獲れる」
レイクスさんたちの表情にお母様が苦笑する。
領民の数はスルーされたな。
いち早く復帰したレイクスさんが身を乗り出してくる。
精霊魔法というもの㉛です。
血の効果!
次回、過去!?




