精霊魔法というもの ㉕
「お友だち、ですか」
「・・・そ。友だち。テレサからも間違いなく“友だちになれ”って要求されるだろうから、覚悟しておいた方が良いよ」
TPOを弁える必要は有るけど友人関係に身分差は関係ない。
そう伝えたつもりだけど、ケイナちゃんは困惑に羞恥の色を混ぜたような複雑な表情を浮かべた。
「その・・・。私、お友だちというものを、よく知らないのです」
「そうなの?」
ケイナちゃんの返事にルナリアが首を傾げる。
「知らない」ね・・・。
ケイナちゃんが尻込みしているのはテレサとの身分差を気にしたのだと考えたのだけれど、もっと根深いものが有る?
ケイナちゃんは人当たりも悪く無さそうだし、私のように人と話すのが苦手と言った感じでもないよね。
お兄さんなら尻込みの原因を知っているかとレイクスさんに目を向ける。
「・・・ふむ?」
「ケイナと歳の近い者が誰も居なくてね。僕らエルフ族は、もう100人ほどしか生き残っていないんだよ」
「・・・よく分からない、というのは、そういうことですか」
悲しみが雑じった労るような目を妹へ向けるレイクスさんの姿に、溜息が漏れそうになってグッと飲み込む。
神教会勢力による殺戮から逃れたエルフ族は、どこで生き残っていたのか?
ケイナちゃんたちはテツさんと一緒に“魔の森”で現れた。
つまりは、そういうことだろう。
きっと、エルフ族は過酷な森の奥に隠れ住んでいたんじゃないかな。
まだまだ浅い森の入口近くで暮らしていた私だからこそ理解できる。
森での隠棲は想像を絶する過酷さだったはずだ。
種としての個体数が100。
それはもう絶滅段階に入った絶滅危惧種だよ。
ケイナちゃんも“友だち”というものを知識としては知っているけど、友だちに成り得るだけの人の数が居なかったから「知らない」、と。
神教会め。絶対に許さないからな。
お腹の底から込み上げてくる怒りもグッと押し込めて、小さくなっているケイナちゃんに目を向け直す。
「・・・ケイナちゃん? 誰にだって知らないことは有るよ。友だちって、レイクスさんとテツさんみたいな関係のことなんだけどね」
「兄様とテツさんのような関係・・・」
ケイナちゃんが視線を上げる。
身近な具体例でイメージ出来たかな?
レイクスさんとテツさんの間に垣間見える気安い雰囲気は、どう見ても友人関係によるものだろうからね。
お手本が身近に有るのなら、知識に体感が伴えば理解も早いはず。
「・・・知らなければ、これから知っていけば良いんだよ」
「これからは、わたしたちが居るから大丈夫よ!」
ケイナちゃんにニコッと笑い掛ければ、ルナリアもニッと笑って乗っかってくる。
「良かったね。ケイナ。初めての友人じゃないか」
「嬉しくは有るのですが、お二人に加えて王女殿下まで・・・。本当に良いのでしょうか」
レイクスさんの後押しが有ってもケイナちゃんの表情から困惑の色は払拭されない。
これは多少強引に引き込む必要が有りそうだね。
ケイナちゃんの様子にお母様も目を細める。
「気にするな。テレサはルナリアの又従姉妹に当たる。テレサにとっても王都での友人は必要でな。王都で困ったことになったときはテレサを頼ると良い」
「はぁ・・・」
お母様が後押しするなら、王様も王妃様も、カレリーヌ様だってお許しになるだろう。
お母様がお墨付きを出してもケイナちゃんの表情は優れない。
なかなか頑固っていうか保守的な性格っぽいね。
心情で攻めても落ちないのなら、理屈で攻めればどうだ。
「・・・あのね? ドネルク叔父様を通じて国王陛下と接点を持つ以上、円満な関係を構築した方が良いでしょ。取引関係に有る大人同士では言いにくいことやお願いしたいことでも、お友だちなら言いやすいことも、お願いしやすいことも有るんじゃない?」
おかしな先入観を持つのも良くないだろうから、これ以上は言わないけど。
王様も曲者だからね。
テレサの友だちであれば、テレサに弱い王様はケイナちゃんたちに対して無茶な要求を言い出しにくいんじゃないかって読みも有る。
テレサなら私たちの助けが欲しければ頼ってくれるだろうし、割り込む隙間をテレサが作ってくれれば私たちが割って入って防波堤になることも出来るだろう。
「そいつは一理あるなあ」
「そういうものなのですね」
友だちが多そうなテツさんが納得顔で頷いて、ケイナちゃんも納得してくれたみたいだ。
テツさんに対するケイナちゃんの信頼感の強さが凄いね。
ケイナちゃんの問題が決着したと見たらしいお母様が悪戯っ子のように目を笑わせる。
「ところで、さっき気になることを言っていたな。私たちに精霊が付いているとか」
「はい。普通は自分に憑いている精霊しか見えないものらしいのですが、私は他人に憑いている精霊も薄らと見えるのです」
ああ~。なんか、そんなこと言ってたね。
レイクスさんほどは見えないとか何とか。
ケイナちゃんの返事に、前のめりになりながらもお母様が手で制する。
精霊魔法というもの㉕です。
友だち認定!
次回、精霊魔法!?
※ ちょっとだけ遅刻です!




