精霊魔法というもの ⑳
「・・・魔獣から採れるから、安全な討伐方法や効率の良い採取方法を確立する必要が有るんだけど、採れば採るだけ儲かるだろうね」
「魔獣の体液から砂糖を作るのか・・・」
嫌悪感とまでは言わないけど、テツさんが微妙そうな顔をする。
なに言ってんの。
「・・・ハチミツだって蜂の唾液―――、体液入りだよ?」
「そりゃまあ、そうだな。その魔獣ってのは何の魔獣なんだ?」
私の指摘にテツさんもすんなりと納得した。
ヨシヨシ。
同じ基礎知識を持っていると、余計な疑念や根拠のない迷信的な嫌悪感が入り込む余地が無くて話が早いね。
実務の話なら事前情報を出しておいた方が良いかな。
「・・・蜻蛉だよ。結構、大きいけど」
「デケえ蜻蛉かぁ・・・。中生代? いや。古生代か? まあ良いや。その蜻蛉は安全に獲れるのか?」
“メガネウラ”とか石炭紀のオオトンボを想像したのかな?
大きさなんかの詳細情報は要らないな。
ナーガ川でヤゴでも釣って実物を見た方が早いでしょ。
それよりも先に伝えておくべき重要な情報が有るからね。
「・・・ドラゴンフライって名前の魔獣なんだけど、昔の勇者さんが“雷蜻蛉”って名前も付けててね。雷撃を使うからその対策は必要だね」
「感電対策か。てことは、ゴム手袋に長靴だな?」
思案顔で腕組みしたテツさんが独りごちる。
“絶縁体=ゴム”っていうのは一般的な発想だよね。
地球では、だけど。
「・・・雷撃を通さない素材を作れれば、だね」
ドネルクさんたちも聞いているから言葉を選ぶ。
私から返ってきた言葉に何度か瞬きしたテツさんは、余計なことを言わず身を乗り出してきた。
「体液を入手してるってことは倒したんだよな。どうやって倒したんだ?」
「・・・そこは取引だね。教えても良いけど、私も教えて欲しい魔法が有るし」
2人で睨み合って、フッフッフと笑い合う。
「“教え合い”と言っていたヤツだよね? ふぅん。面白そうだ」
黙って話の行方を見守っていたレイクスさんも参戦してくる。
私が知りたい情報をたくさん握って居るであろうレイクスさんも当事者だからね。
レイクスさんも加えた3人で改めてニンマリと笑い合う。
「砂糖、ですか・・・」
ピンと来て居なさそうなケイナちゃんが呟く。
お? 興味ある? じゃあ、ケイナちゃんも嵌めちゃおうか。
「・・・果物よりも甘いお菓子が作れるよ?」
「果物よりも甘いお菓子・・・!」
ヨシ! 落ちた!
パァッとケイナちゃんの表情が輝いている。
ずっと森の中で暮らしていたなら食べたことが無いだろうね。
エゼリアさんたちも目を輝かせていて、ミセラさんたちはウンウンと納得顔で頷いている。
ケイナちゃんが期待しちゃった以上、テツさんもレイクスさんも取引に乗るしか有るまい?
テツさんたちの反応を前向きなものと判断したのだろうドネルクさんが、実務へと話題を戻す。
「王国への技術の提供という条件はどうする?」
「・・・まさか、タダで寄越せ、なんて1国の王様が言いませんよね?」
「言うわけが無いだろう。適正な対価で買い取る」
軽く煽れば、“止めろ”と言わんばかりにドネルクさんがパタパタと手のひらを振る。
テツさんたちとウォーレス家が同意しても王国が被るリスクは残り続けるからね。
矢面に立つ王様やドネルクさんにも利益が無いと丸く収まらないだろう。
王国のリスクを引き下げつつ恩恵を享受する方法?
そんなの答えは簡単だよ。
「・・・ウォーレス領を間に挟んで魔法道具を冒険者ギルドか王宮へ納品すれば良いじゃないですか。何なら、ウォーレス家の紋章を付ければ良いんです」
「ふむ・・・」
紋章と聞いてお母様が思案顔になる。
ちゃんとした紋章じゃなくても、ウォーレス領が現物の出所だと分かるマーク―――、ブランドエンブレムでも入れれば良いんだよ。
植民地時代の伊万里焼だって東インド会社のマークを入れて輸出していたし、現代地球の工業製品にだってメーカーロゴは入っている。
「・・・レイクスさんたちの協力が得られれば王都騎士団が要望していた魔法道具の複製品も作れるようになるでしょうし、以前から複製の依頼が有ったことは王宮内でも知られていますよね? 魔法道具の研究について、私が報奨で国王陛下からお許しを得たことは多くの貴族家当主が自身の目で見届けたわけですし」
私の指摘にドネルクさんも騎士団の要望を思い出したようだ。
「あの件も有ったな。で? 紋章を使わせてまでウォーレス家を間に挟む理由は?」
「・・・製造方法や製造者を教えろ、なんてウォーレス家に訊くんですか?」
どうよ? ぐうの音も出まい?
納得顔でドネルクさんが笑う。
「それも“煙幕”か。訊ける度胸が有る貴族家も商人も居ないだろうな」
「・・・国王陛下も“知らない”の一点張りで構いませんし、テツさんたちが王都の拠点で製造した魔法道具は冒険者ギルドへ納品すれば良いんです。すぐ裏手なんですよね?」
ドネルクさんに答えつつテツさんに目を向ければ、テツさんが頷く。
「裏口の斜め向かいだな」
「・・・納品者の名前だけ帳簿上でウォーレス領にすれば、製造者の顔も名前も表からは見えませんよ」
「見られたとしても、惚ければ良いんだな?」
テツさんの問う視線に頷いて返す。
人の多い王都で活動する以上、人目に触れることも有るだろう。
だからこその隠れ蓑―――、表向きのブランドというものが活きる。
藪を突っついてウォーレス家という特大サイズの大蛇を出す度胸が有るなら突っついて見れば良い。
そこまでの度胸を見せるなら見どころも有るってもんだよ。
「・・・ウォーレス領から納品を請け負った、で良いんじゃないですか?」
「そりゃあ助かる」
納得顔でテツさんも笑って頷いた。
精霊魔法というもの⑳です。
煙幕!(ドロン!
次回、片道切符!?




