精霊魔法というもの ⑱
「考えは纏まったか?」
「・・・あっ。はい。・・・もしかして、みんな私を待ってたの?」
お母様たちだけでなく、テツさんたちも生暖かい目を向けてきていて、急激に顔が熱くなる。
うおお―――っ!! 恥ずかしい―――っ!!
正式なお客様の前だよ!? しかも相手はエルフ族の王族!! 何やってんの、私!!
両手で顔を隠して身悶えしているのに、お母様が容赦なくツッコんでくる。
「何か思い付いたのだろう? 構わんから言ってみろ」
「・・・ああ・・・。は、はい」
逃げ出すわけにも行かないから、恥ずかしくても耐えるしかない。
シャキッとしろ、私。
コホンと咳払いして姿勢を正し、無理やり体裁を整える。
「・・・テツさんたちって、王都に拠点を構えてるんですよね?」
「ああ。冒険者ギルドの直ぐ裏手にな」
私の問いにテツさんが頷く。
へぇ。癒着しているギルドの至近距離に拠点ねぇ。
ドネルクさん、癒着を隠す気ある? テツさんもだけど。
まあ良いや。王都がその状態なら、基準を合わせておいた方が良いね。
「・・・レティアの町にも拠点を構えてください。出来ることなら、レティアでも領主館の隣か裏手か、すぐ傍が安全でしょう」
「土地なら私が手配してやる」
「そりゃあ構わねえんだが・・・」
テツさんたちを逃がす気が無いらしいお母様が即断で頷いて、テツさんが困惑を顕わにする。
次はギルド内部の小細工だからドネルクさんへの注文だ。
「・・・レティアに構えた拠点を登録上の本拠地として、王都の拠点は予備のものと冒険者ギルドに登録してください」
「そっちは俺が手配しよう。だが、なぜだ?」
困惑する様子を見せながらもドネルクさんは了承してくれた。
「・・・ウォーレス領を煙幕とするためです」
「煙幕? いや。隠れ蓑か」
テツさんの解釈は正しい。
「煙幕」―――、”スモークスクリーン”を日本語に意訳すると、「隠れ蓑」だよ。
騎馬戦闘や歩兵戦術が主流の戦場でも煙幕なら分かるだろうと言葉を選んだんだけど、意味が伝わるか懸念していたテツさんが真っ先に理解してくれたことは、手間が省けて助かる。
ここからは想定問答―――、仮定の話だ。
「・・・テツさんたちは冒険者ギルドの仕事を請けにウォーレス領から来ただけで、国王陛下はテツさんたちのことを知りません。そこへ神教会から何らかの要求が来たとしましょう。国王陛下は、“知らない”と答えますよね?」
「そうなるだろうな」
だよね。じゃあ、次。
「・・・正規の手続きでは、その後、陛下はどうされますか?」
「正規の、か。先ずは王宮の官吏に確認して、官吏も知らなければ王宮を通じて冒険者ギルドに問い合わせることになるだろう」
ここも予想通り。
問答無用で突っぱねるつもりでも無ければ、王宮内での確認作業が行われて、それでも情報が無ければ王宮外の当事者―――、冒険者ギルドへ訊くのが普通だろう。
でも、王宮って10人や100人の組織じゃないからね。
1000人単位で人が居るんだよ。
「・・・その時点でも、数日程度は確認に時間が掛かるのではないですか? その上で、冒険者ギルドは何と回答するのでしょう」
「ウォーレス領の冒険者だからよく知らん、だな」
ここまで来ると私の言わんとするところを分かってくれたようで、ドネルクさんがニヤリと笑う。
「・・・そこから片道に数日間掛けてウォーレス領へ問い合わせたとしましょう。ウォーレス領は何と答えますか?」
「よく知らんなあ、か」
お母様も私の意図が見えたようで口元がニヤけている。
喧嘩を売りに来ている敵に、何でまともに取り合ってやる必要が有るの?
日本が誇るお役所仕事の、“必殺・タライ回しの刑”で十分じゃん。
「・・・ダラダラトロトロと何度も王都とのやり取りをしている内に、数ヶ月間やその程度の月日は過ぎますよね。冒険者は仕事であちこちへ向かうものでしょうし、確認が取れなくても普通でしょう」
「調べてみたが拠点に誰もいなかった、と答えるもの有りだな」
おっと。お母様が悪ノリを始めちゃったよ。
いつでも喧嘩を買ってやるつもりなんだから、“無敵の人”だよね。
神教会を虚仮にするなら私も一緒になって悪ノリしたいけど、ふざけた態度は献策の信用度を下げちゃうから我慢だ。
大真面目な顔を取り繕ってドネルクさんをじっと見る。
「・・・即答さえ避けられれば、何とでも答えられますよ」
「直接、ウォーレス領へ調べに来るんじゃないか?」
天井のシミでも数えているのか、宙へ視線を彷徨わせたドネルクさんが首を傾げる。
ほほう?
「・・・神教会の人間がですか? ただでさえウォーレス領で神教会は嫌われていたのですが、今のウォーレス領もピーシス領も、西部地域からの移住民や旧エクラーダ王国からの難民だらけなのですよ。神教会勢力に故郷を奪われた人たちですから、みんな神教会が大嫌いです」
あ~。言ってて腹が立ってきた。
数え上げれば、私自身―――、フレーリアも含めて神教会に酷い目に遭わされた人たちばかりだ。
独善的な宗教も、宗教を都合良く利用する連中も、盲目的に蛮行を正当化する連中も、ロクでもない連中ばかりじゃん。
どいつもこいつも、そんな連中が身勝手な価値観を押し付けて恥じることがない。
私だって宗教そのものを否定するつもりはないよ。
誰だって死ぬのは怖い。
私なんて熊に丸囓りされたからね。
苦しい生活や辛い人生に救いを求めることも有るだろう。
人生観は人それぞれだし、死生観も色々だろう。
宗教観だって千差万別に決まってる。
何を信じるかは個人の自由だよ。
好きにすれば良い。
ただ、くだらない欲を出して私の大切な人たちに手出ししようって言うなら話は別だ。
まとめて薙ぎ倒して灼き尽くしてやる。
精霊魔法というもの⑱です。
オレサマ、オマエクウ、アタマカラマルカジリ
次回、儲け話!?




