精霊魔法というもの ②
「へぇ。カネを払って買い集めた魔石を畑に蒔いちまうのか?」
「・・・必要経費だよ。農地が増えて農家さんの収穫が増えれば、最終的には税収が増えるからね」
この人、斜め上で常識外れな脳筋なのかと思えば、意外とまともな思考回路をしてるっぽい。
私の答えを聞きながら考える様子を見せたと思えば納得顔で頷く。
「ははぁ。公共事業ってヤツだな」
「・・・そういうこと。ケイナちゃんも詳しいね」
テツさんが導き出した答えに頷き返しながらケイナちゃんに話を振れば、照れくさそうに笑みを浮かべた。
うん。可愛い。
拒絶される感じでもなさそうだし仲良く出来れば良いな、なんて考えていたら、ドネルクさんが嫌そうな顔をしている。
「死霊系の魔石で農作物に悪いものが憑いたりしないのか?」
お婆様たちと同じ反応だな。
やっぱり心証は良くないのか。
魔石の属性かぁ・・・。
私は大した問題じゃなさそうだと思ってるんだけど、実験もこれからだし、安全性が確かめられたわけじゃないしなぁ。
そこでハッと思い付く。
あっ。魔力?
この場には魔力に詳しそうな人が居るじゃん。
「・・・どう思います?」
「何で僕に訊くの?」
所見を訊いてみれば、ターバンの人が不思議そうに首を傾げる。
この人、魔力が見えるのだったら、魔力に対する興味も強かっただろうし、私たちよりも深い知見を持っている可能性が高いよね。
“見えてたよね?”という確認を視線に籠めてみる。
「・・・詳しそうだな、と」
「面白いね。キミ」
「・・・いやあ。そうでも無いですよ」
どうやら視線の意味を正しく受け取ったらしく、ターバンの人は楽しそうに目を細めた。
本人が分かってくれたのなら他の人に悟らせない方が良いんじゃないかと、私も笑って誤魔化す。
魔力が視覚的に見えるなんて話はお母様からもお婆様からも聞いたことがないからね。
恐らくは普通のことじゃないんだろうし、魔力の手を封じられるとただの小娘になり兼ねない私にとっては天敵のような人だ。
出来れば敵に回したくないし、私たちが持っていない知識を持っている人なら味方に付けておきたい。
どこまで分かってくれたのかは自信が無いけど、私に敵対の意志がないことを分かって貰えれば、今はそれで良い。
楽しそうな笑みを浮かべたまま考察する様子を見せたターバンの人が結論を口にする。
「僕の予想だと属性による影響は何も出ないだろうね」
「・・・魔力はただの魔力だからですか?」
私の仮説をぶつけてみる。
魔石を作りだした本人―――、人じゃないけど、当の魔獣が死んで所有者がいなくなった魔石は、魔力の質を似せれば誰にでも使えるようになる。
それは、私が魔石の使い方を教える際に言っているように、魔力は魔力に過ぎないことを証明している。
元の持ち主のクセが付いているだけじゃないのかな?
だったら、その魔力が何らかの属性を帯びていたとして、その属性が影響を及ぼすことが出来るのか?
それはないんじゃないかと私は感じている。
なぜなら、魔法が発動して魔力が効果を生み出すには、明確なイメージの他に、もう1つ、“発動する意志”が必要になるからだ。
ストッパーにトリガーを引っ掛けてワナが動作準備を終えたとしても、トリガーが引かれなければワナは作動しないものだよ。
私の問いに、不思議そうにパチパチと瞬いたターバンの人は、納得したように頷く。
「魔力? ああ、魔素のことだね」
「魔素・・・?」
ターバンの人が口にした“まそ”―――、“魔素”かな? その単語を耳にしたお母様が僅かに表情を変えた。
ん? どういうことだろう?
聞き慣れない単語だけど、魔素と魔力が同じものを指しているんじゃないかという予測には簡単に至る。
お母様の様子も気になったけど、今はターバンの人の見解を聞いている最中だ。
私の心中にまでは気付いていないだろうけど、ターバンの人は生徒を褒める教師のように、口元に笑みを浮かべてゆったりと頷いた。
「正解だよ。魔石の属性は魔獣の生態に関連すると考えられていて、魔素の性質的には属性に偏りが出るけど術式で効果を定義しない限りは単なる魔素でしかない」
「・・・だから農作物に影響は出ないと。なるほど。参考になりました」
ヨシ。仮説の補強が出来た。
なら、先入観による嫌悪感の払拭に努めれば良いだけだね。
術式と魔石の属性を一致させれば威力が上がることは実証済みだし、属性が違っても術式自体は問題なく発動するものだ。
単なる魔石のクセだと捉えれば、何の問題も無いよね。
魔法の理解が一歩進んでホクホクしている私を他所に、お母様が咳払いをして意識の変化を促す。
「いつまでも立ち話をしている必要も有るまい? 討伐が終わったなら、サッサと処理を済ませて町へ戻るとしよう」
「・・・あっ。そうだよ。血抜きしなきゃお肉が臭くなっちゃう」
すっかり忘れてた。
腰のナイフを抜こうとしたらお母様に手で制される。
「バンダースナッチの処理もしたい。向こうまで運べるか?」
「・・・うん。両方とも私が運ぶよ」
あっちも有ったね。
怪我人を動かせないからミセラさんたちを残してきたのだろうし、早く戻らないと今度はミセラさんたちが危険な状況になっちゃう。
「任せる。―――、テツだったな。お前たちも来ると良い」
テツさんたちに声を掛けたお母様は颯爽と背中を向けて元来た方向へ戻って行く。
お母様の背中を見送ったテツさんがクイッと片眉を上げた。
精霊魔法というもの②です。
魔力考察!
次回、校舎裏!?




