エンカウント! ㊴
「い、一体何を・・・!」
「・・・そんなのどうでも良いから手伝って!」
「「「「は、はい!」」」」
動揺が収まっていない男性たちを一喝して怪我人の破れた衣服を引き裂かせる。
傷口が見えないと治るイメージがしにくいからね。
「・・・これは酷いな」
顕わになった傷は噛まれたものではなく爪で裂かれたものだったみたい。
2人とも結構深い傷で、片方の人はへし折られた鎖骨の断面が傷口から飛び出している。
もう片方の人は胸まで続いた傷口からは抉られた大胸筋の底に白い肋骨が覘いてしまっている。
この場合、どうするか。
治癒魔法による外傷の治療は、傷が出来上がるプロセスを遡って時間を戻すか自然治癒の時間を進めるかの二択だと私は考えている。
私が結論に至る前にイディアさんの警告が森に響いた。
「敵、接近!!」
「防御術式を展開しろ!!」
お母様の指示で複数の魔力が動いたのをアクティブソナーが捉える。
目は向けていないけど、急速接近してきた複数の反応がお母様たちの反応と重なる。
ザザザッと葉擦れの音が響くと同時に獣たちの唸りが耳に届く。
「ガアアアアアアアッ!」
「殴れ―――っ!!」
お母様の叫びに隠れて、ゴスッ! と重い音が重なる。
つい目を向けてしまうと、接敵した瞬間、かなりの速度で駆けてきたバンダースナッチの群れが見えない壁にぶつかって急停止していた。
「ギャンッ!?」
「ガフッ!?」
接敵直前に防御術式を発動したことでバンダースナッチは止まりきれなかったんだろう。
さらには、体勢を立て直して立ち上がるよりも早く追撃が入って、バンダースナッチの群れが揃って地面に叩きつけられた。
なるほど。あれは防御術式というよりも魔力の手だな。
防御術式で壁を作って突進を止めた上で、振り上げた防御術式を上から叩きつけて殴ったんだろう。
あれならバンダースナッチの突進を止めた上で動きを奪うことも出来る。
とはいえ、この群れの個体は全体的に体格が大きいね。
救出作業のときは怪我人に意識を集中していたから気付かなかったけど、採掘場に出たボス犬と体格が変わらないように見える。
これが東部地域から北に棲む魔獣のサイズなのかも。
「突撃ッ!!」
「「「「「うおおおおおおおおっ!!」」」」」
間髪入れず、武器を振り翳したドネルクさんたちが群れの中へ斬り込んでいく。
大丈夫。お母様たちは危なげなく敵の急襲を撥ね除けてくれた。
私も負けては居られないよね。
防御術式の強度を確かめるのに採掘場で犬パンチを受けてみたときの光景を思い出す。
私の顔よりも大きなバンダースナッチの前脚が頭上から叩きつけられて、鋭い鉤爪が私の目の前で押し留められたんだよ。
頭上から降ってくる前脚は若干内側へ向いた袈裟懸けの軌道を描いていたように思う。
脳裏の残った犬パンチの光景と怪我人の傷口を重ね合わせて、鉤爪がどう肉を裂き、傷口を生み出したかを想像する。
イケるかな? イメージ出来たんだからイケるはず。
魔力の手を傷口へ伸ばして魔力の質を似せる。
「・・・戻って」
脳裏の光景を逆再生して、線ファスナーを閉じるように傷口を塞いでいく。
傷口の終端からグググと肉が寄せ合わさって幅が狭くなり、傷の延長が短くなっていく。
筋肉組織と皮膚の一部が抉り取られているせいか、結構、体内魔力を持って行かれる。
体内保有魔力量の減少を示して、胸の中に在る熱の塊が温度を下げる。
どうしても埋められない欠損部分の筋肉や皮膚は、魔力消費で代替して生み出しているのかな。
「「「「おお・・・」」」」
わけも分からず見守っている男性たちの口から驚嘆の声が漏れた。
情報統制が利かない他領の領民たちの前で魔石使用法を見せたくなかったからね。
自前の体内保有魔力を使ったせいで消耗感が大きい。
魔力の消耗で下がった胸の中の熱量がジワジワと上昇に転じるのを感じ取る。
体内保有魔力量が増えたと言っても、消耗すれば体内に感じる熱が温度を下げる現象そのものは変わらないんだよね。
1人の出血が止まって2人目の治療に取り掛かる。
解放骨折した鎖骨の位置を魔力の手の指先でグリグリ直すと、よほど痛かったのか意識が無い怪我人の口からも呻き声が漏れる。
おかしな引っ付き方をすると後遺症が残るからね。
痛くても我慢して貰うよ。
「・・・戻って」
魔力の質を似せて体内側から時間を巻き戻せば傷口が閉じていく。
再び男性たちの間で驚嘆の声が上がった。
魔力の手で治癒魔法なんて滅多に見られないというか、治癒魔法術師が居ないせいで見たことがなかっただろうからね。
今までだって治療できる人が居れば助かる命も有っただろうに、神教会が技術を秘匿してきたせいで治る怪我も治らなかったんだよ。
腹立つなあ。神教会の存在自体が世界にとって害悪だよ。
魔力の消耗が止まってホッと息を吐いた。
これで大きな出血は止まったはず。
怪我人2人の呼吸も落ち着いたみたいだから、生命の危機は脱しただろう。
後は意識が戻ってから回復薬を飲ませれば良い。
「・・・ヨシ。お母様たちの応援に―――、ふぇっ!?」
立ち上がってバンダースナッチ狩りに参戦しに行こう考えたタイミングで、アクティブソナーが新たな反応を拾った。
何!? この反応!!
バンダースナッチよりも遙かに反応が強い!
私が挙げた大きな声にルナリアたちも反応する。
「何!? どうしたの!?」
「・・・敵!! 別の魔獣が急接近してくる!! しかも速い!!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
ルナリアだけでなくミセラさんたちも驚いている。
何なのコレ!? この間から、こんなのばっかりじゃん!!
エンカウント!㊴です。
さらなる敵!?
次回、お代わり!?




