エンカウント! ㊳
「・・・お母様たちに迎撃準備をしておいて貰って正解だったね」
「本当に付いて来てるの?」
首を傾げるルナリアに頷いて返す。
「・・・来てるよ。地上へ戻ったら私は治癒魔法に取り掛かるから、応急治療が終わるまで守って貰って良い?」
「任せなさい! ちゃんと守ってあげるわ!」
頼もしいルナリアの返事が心強い。
「・・・頼りにしてる」
じゃあ、地上へ戻ってもうひと頑張りしよう。
再びの急降下で緑の海へ再突入だ。
「・・・下りるよ! 真下に防御魔法を展開して!」
「「「「「ぎゃあああああああああっ!?」」」」」
襲って来た玉ヒュンに絶叫の大合唱が上がる。
ちょっとぉ! 今の今まで格好良かったのに、なんでルナリアも一緒に悲鳴を上げてるの!?
絶叫系を完全克服したんじゃなかったんかい!
バキボキと枝葉をへし折って突き抜け、地上へ帰還する。
音に気付いたお母様たちが着地した私たちのところへ駆け寄ってくる。
「フィオレ! ルナリア!」
「・・・お母様! 迎撃態勢を!」
「バンダースナッチが追って来てるわ!」
頭上へ落ちてきた太めの枝をベシッと「手」で弾き飛ばしながらルナリアと2人で報告する。
私たちの着陸地点は察知されているだろうから、バンダースナッチの群れが押し寄せて来るまで猶予はないはず。
敵の襲来を知ったお母様が将の顔になる。
「数は分かるか!?」
「・・・8頭か9頭! 北から来るよ!」
「ヨシ!」
急速に迫ってくるバンダースナッチの方角を指せばお母様が身を翻して迎撃に向かう。
「・・・ピーシーズは小隊を率いてお母様の指揮下に!」
「「はっ!!」」
指示を待っていたネイアさんとオーリアちゃんが、ピーシスガードを引き連れてお母様を追い掛けていく。
治癒魔法をお母様に任せるか私が受け持つかで、ちょっとだけ迷ったんだけどね。
エゼリアさんたちも居るんだから、部隊を率いての組織戦闘はお母様に任せる方が良いと思ったんだよ。
伝えられるだけの技術は伝えて有るし、剣を振るよりも安全な魔獣への対抗手段を個々が身に付けている。
だったら、この場は部隊指揮の経験が豊富なお母様にお願いするべきだと判断した。
お母様たちと入れ替わりに、少し離れた場所にいたドネルクさんがガシャガシャと甲冑の音を響かせて駆け寄ってくる。
マリッドさんが一緒に走ってきたところを見ると、新領地のピーシス領軍はドネルクさんの指揮下で動くっぽいね。
「嬢ちゃん! 被害者はどうなった!?」
「・・・一応、全員救出しました! 今から治療に当たります!」
私たちが仕事を果たしたことを告げると、ドネルクさんが左の手のひらに右拳をバシリと打ち付けた。
「なら、ここからは騎士の仕事だ! バンダースナッチは任せろ!」
「・・・お願いします!」
ピーシーズも迎撃に向かって、私たちの傍に残ったのはミセラさんたちとサーシャさんたちだ。
「あなたたち! フィオレの邪魔をさせないように守るわよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
ルナリアの指揮で戦闘メイド姿の8人が私たちを背中に庇って戦闘に備える。
諜報任務が主体でも、ミセラさんたちだってロス家配下の騎士爵を与えられた戦闘要員だからね。
鍛えられ捲ったサーシャさんたちも自分たちの身ぐらいは守れるだろう。
お母様が構築した防衛ラインへとドネルクさんが大股で歩み寄っていく。
「フレイア! 手筈通りで良いんだな!?」
「私たちが出鼻を挫いて勢いを殺す! 追撃は任せる!」
「引き受けた!」
ドネルクさんが腰の剣を引き抜くと、マリッドさんたちもドネルクさんに倣って剣を抜く。
でも、「出鼻を挫く」って、どうやるんだろう?
お母様が採る戦術が気にはなるけど、私には別の仕事が有る。
自分のすべきことに集中しろ。私。
歴戦の騎士様たちばかりなんだから、あっちはお母様たちに任せておけば良い。
アクティブソナーは発動したまま残しておくけど、これで私は治療に専念できる。
救助してきた怪我人たちに目を向け直せば、いくらかの傷を負っている男性4人が横たわったまま意識の無い仲間の体を揺すっている。
「おい! しっかりしろ!」
「・・・退いて!」
男性たちの間に割り込んで押し退ける。
発見時にはすでに倒れていたから詳しい状況は分からないけど、怪我人の体を強く揺するのは褒められた行為じゃない。
「えっ!? は、はい!」
「・・・良かった。まだ息がある」
血と土に塗れた負傷者の首に手を当てれば、2人とも指先に脈が感じ取れる。
目視で外傷を探すと、目立つものは片口から胸元に掛けて衣服を染めている鮮血だね。
意識が無いときに回復薬を飲ませるのはNGだと言うし、治癒魔法で出血を止めるのが最優先かな。
バンダースナッチの爪か牙か、引き裂かれて血に濡れた衣服を指先で摘まんで内側を覗き込んでみる。
陰になって傷口がよく見えないな。
エンカウント!㊳です。
それぞれの仕事!
次回、接敵!?




