エンカウント! ㉙
「専業というのは、猟師なら猟師で農家なら農家で、という意味か?」
「・・・はい。兼業よりも育成の効率が良いからですね。専業で働ける環境を作ってしまえば、領主が主導しなくてもより良い生活を得るために領民自身が頑張ってくれますし、採算が取れる構造なら産業育成のための予算を割く必要も有りません。特に狩猟のコツを教え込んで生業として成り立たせてしまえば、勝手に実戦経験を積んで魔獣討伐の専門家が育ちます」
ふむ。と思案顔で唸ったドネルクさんが核心部分の答えに辿り着く。
「肝になるのは採算性か?」
「・・・儲かる仕事なら携わる人が増えるものですよね? 1つの仕事で食べていけるなら領民の負担も軽くなります」
「確かにな。官吏のような―――、いや。商人のような考え方だな」
私は普通のことしか言っていないと思うけど、カレリーヌ様にも同じようなことを言われたっけ。
私の考え方は普通じゃないんだろうか?
いやいや。そんなことはないはずだ。
公共事業だって採算性とは無縁じゃないんだし、地場産業の育成なんて採算は最優先事項じゃん。
「・・・領地経営って商売のようなものでは? とはいえ、領主の仕事は商売だけでは有りませんし叔父様はギルド長の仕事も有るのですから、領民たちの手で産業を自立させられるように採算性を確立しないと、叔父様と叔母様の身がもたないと思いますよ」
「そうだな。肝に銘じておく」
苦笑で返してきたドネルクさんは、それでもしっかりと頷いた。
デキる女のエゼリアさんが付いてるのだから上手く領地経営とギルド管理を両立するとは思うけど、育成教育に協力が必要ならウォーレス領で人材を預かって研修させても良いんじゃない?
エゼリアさんを助けるためのことだから、お母様はもちろんのこと、ハインズお爺様もお父様も反対しないと思うし。
「フィオレ様!」
「・・・お~。早かったね」
突入地点に戻って森を出ると、待たせていた馬たちと一緒に何台もの荷馬車が私たちの帰還を待っていた。
「他でもないフィオレ様がお呼びとあらば、飛んで来やすって」
「・・・ふふっ。ありがと」
猟師さんたちがニカッと笑って、私の口からも笑い声が漏れる。
「・・・採掘場の方は?」
「ガキどもも仕事の手順を覚えやしたから、任せてきやした」
それは猟師さんたちに預けたエクラーダ系の子たちのことで良いのかな?
ここのところすることが多くて様子を見に行けていなかったけど、みんな頑張ってるっぽいね。
兵士や騎士を目指してる子たちが多かったはずだけど、腐らずに自分を鍛えていてくれているらしい。
「・・・そっか。上手く伸びてくれれば良いんだけど」
「そりゃあ心配無用ってもんですぜ。必死さが違うというか、なあ?」
自分の子供を自慢するような口調で猟師さんたちが顔を見合わせる。
みんな仲良くやれてるっぽいね。
「姫様に恩を返すんだって―――、おっと。こいつは禁句なんでしたっけね」
「・・・無理を言って付き合わせるんだから、今日のところは目を瞑っておくよ」
「「「「「わはははは!」」」」」
気心の知れた仕事仲間は良いものだね。
勝手が分からない新たな敵を迎え撃たなきゃいけない状況だけど、きっと何とかなると信じられる。
猟師さんたちと一緒になって一頻り笑い合った後、ポンと1つ手を打って私は表情を改める。
次の仕事に取り掛かろうか。
「・・・さて。じゃあ領主館で作戦会議をするよ」
「後に付いて行きやす」
仕事人の顔に戻った猟師さんたちとピーシスガードを乗せた荷馬車を後ろに引き連れて、私たちの馬列は領主館へと戻る。
領主館に到着したら、猟師さんたちとピーシスガードは門扉のない門前で荷馬車から降りさせて前庭へ集まるように指示を出す。
馬から下りて兵士さんに手綱を預ければ、明日の準備を進めてくれていたミセラさんたちがスススと私たちの背後に付いた。
前庭から領主館を見上げた面々は、ゴテゴテと飾り立てられて品のない領主館を見上げて眉を顰めている。
質実剛健を具現化したようなレティアの領主館を見慣れているウォーレス領民の目には、防御力の欠片もない建物が領主館というのは奇っ怪なものに見えるんだろうね。
「以前から聞いては居やしたが、随分とレティアの領主館とは違うんですねえ」
「・・・町の位置そのものを移すつもりだから、新しい領主館を建てるまでの仮本陣みたいなものだよ」
リフォームして何かの施設として再利用できれば良かったんだけど、現物を目にして再利用する気はなくなった。
ピーシス血統の感性には合わないし、何より縁起が悪いからね。
「取り壊すんですかい?」
「・・・たぶんね。残しておいても土地と木材の無駄だし」
私の言い草に笑い声が上がった。
みんなの笑い声を背にミセラさんへ目を向ける。
「・・・書き出しておいたものって用意できてるかな?」
「すでに調達できています」
淀みなく返ってきた答えに頷いて返す。
指示を出してから数時間しか経っていないのに、さすがミセラさんたちだ。
「・・・みんなに新しいワナを教えるから、前庭へ運んでくれるかな」
「承知しました」
返事を返したミセラさんがアイコンタクトで合図を送ると、ミセラさんたちの後ろに付いていたサーシャさんたちがサササと散る。
あっちも、さすが忍者。
足音も立てず静々と歩いているように見えるのに、駆け足ぐらいの速度で去って行った。
あの歩き方、真似ようとしても真似できないんだよね。
ロス家方式の再訓練を受けて技量が上がったのか、ミセラさんたちが8人に増えたみたいだよ。
エンカウント!㉙です。
採算性!
次回、攻撃型!?




