エンカウント! ⑰
「おはようございます。ご無事で何よりでした」
「おう。ご苦労」
お母様が挨拶に応えた相手は苦笑を浮かべたマリッドさんだ。
周りを固めている騎士様たちもマリッドさん配下のピーシス領軍の人たちで、見覚えの有る顔ばかりだね。
さすがピーシス領民というか、みんな真面目な表情を取り繕っていても口元は僅かに緩んでいて、巨大な“1号”を前にしても、まるで動じていないことが分かる。
「おはよう! マリッド!」
「にゃ」
「はい。おはようございます」
ルナリアとノーアの挨拶にもマリッドさんは柔らかい笑みで応じる。
当然のことながら妹のエゼリアさんよりもマリッドさんは年上だから、ルナリアぐらいの子供がいてもおかしくないものね。
そう言えば、マリッドさんに子供がいるのかは聞いた記憶がなかったな。
まあ、良いけど。
「・・・おはようございます」
「おはようございます。フィオレ様。お疲れさまでした」
「・・・ううん。何もかも任せっぱなしでごめんなさい」
仕事を押し付けっぱなしだったことを詫びればマリッドさんは首を振る。
「何を仰いますか。フィオレ様は働き過ぎなぐらい働いておられますからね。領地の管理ぐらいはお任せください」
「・・・ありがとう。マリッドさん」
思ってもみなかった労いに、驚くと同時にちょっとウルッと来た。
私って基本的に褒められ慣れてないからなあ。
頑張ってきた自覚は有るけど、体を張ってウォーレス領とピーシス領を守ってきたベテランにも認めて貰っていることに胸の中が熱くなる。
領民たちに会話内容を悟らせないためか、和やかな表情を崩さないお母様が状況を訊く。
「その後、問題は?」
「領内においては移民の流入以降も大きな混乱は起こっていません。住居建設などで仕事が増えましたから、旧領民も落ち着いたものです」
マリッドさんがちょっと気になる言い方をしたけど、私が心配していた新旧領民同士の軋轢は特に起こっていないらしい。
現状、流入側のエクラーダ系領民は新築した仮設住宅に入居を始めていて、リテルダニア系の旧領民は元からの自宅に住み続けている。
住居地が分かれていることと、まだ日にちが浅くて両者の接点が少ないのが理由だろうけど、一先ずは胸を撫で下ろす。
「・・・そっか。良かった」
「それにしても、こんなものを欲しがってどうするんだ?」
お母様が背後の“1号”に目を向けて、マリッドさんも“1号”を見上げる。
「欲しいと最初に言い出したのは旧領民のなのですよ」
「・・・えっ? そうなんだ」
おや。意外。エクラーダ系の領民が言い出したものだと思ってたんだけど違ったらしい。
「フィオレ様がスライムを討伐しているところに偶然居合わせたそうです。自分たちと同じ最辺境だと思っていたウォーレス領が、王国中の耳目を集めて活気に満ちていることを目にしていますからね。取り残された気分になっていたのでしょう」
「ああ。それはちょっとだけ分かるかも」
こっちも意外なことに、眉根を寄せたルナリアが同意する。
アレかな?
王宮貴族に田舎連呼されたときのことを思い出したのかな?
かなり怒ってたものね。ルナリア。
「フィオレ様は自分たちの領主だという目に見える証が欲しかったのかも知れません」
「・・・そっか。隔意を持ってたわけじゃなかったんだけどなあ」
そう言うってことは、マリッドさんも「アイツ、帰って来ないな」と思ってたんじゃないかな・・・。
ほんと、申し訳ない。
反省している私の内心を見抜いてのことか、優しい目でマリッドさんがクスリと笑う。
「旧領民にとっても、新領民にとっても、フィオレ様は希望そのものなのですよ」
「前領主がアレだったからな。無理からん」
「全くです。お陰で施策に対する反発が起こらず助かっていますが」
嫌そうな顔で肩を竦めるお母様にマリッドさんが苦笑する。
私も今は亡き旧領主たちの顔を思い出してうんざりする。
だからって、ちょっと言い過ぎじゃないかな。
「・・・旧領民も、って言うのは大袈裟じゃない?」
「そうでも有りません。フィオレ様に暴力を振るった熊人族が居たでしょう」
「・・・熊? あー。そんなのも居たっけ」
真面目な表情で首を振るマリッドさんに言われて思い出す。
ワールターさんが苦役を課して鉄鉱山に送った熊獣人のことだよね?
私の背中を蹴り飛ばしてくれた奴。
どうでもいい奴のことだから忘れたままにしておきたいんだけど、またアイツの話か。
「あの商店は道具類を取り扱う店だったそうなのですが、例の熊人族がフィオレ様に害を為したことが旧領民たちの間に知れ渡ったことで爪弾きにされたようで、店を畳んで領外へ逃げました」
「・・・ええ・・・。折角の労働力なのに」
マジかぁ。他の領民たちから私刑を食らったの?
むしろ税金を毟り取れる方が私の溜飲は下がるんだけど、なんで追い出しちゃうかなぁ。
「フィオレ様に希望を抱く他の旧領民からすると、許せないことだったようです」
「・・・そういうの、嬉しくないんだけどなぁ」
ついついボヤいてしまった私にマリッドさんが首を振る。
「それだけフィオレ様に向ける期待は大きいのです。許してやってください」
「・・・マリッドさんがそう言うなら。でもそうなると、やっぱり手を打っておきたいな」
終わったことをグズグズ言うよりも今後のことだ。
領民たちの私に対する関心が想定以上に高いのなら、私がレティアから離れない現状が悪い方向に働き兼ねないよね。
敏感に反応したマリッドさんが首を傾げる。
エンカウント!⑰です。
私刑!?
次回、異変!?




