エンカウント! ⑮
「ウォーレス領と新領地を一体のものとして扱うと? 関所というものは、禁輸品の流通や犯罪者の移動を阻止するためのものでも有るんだぞ」
噛み含めるように言うお母様の言葉の裏に、「お前もそのお陰で命拾いしただろう?」という意味を感じ取る。
それは分かってる。
半ば統治を放棄していた隣領のせいで、ウォーレス領は多大な迷惑を掛け続けられてきたからね。
ウォーレス領が治安システムを維持し続けたお陰で犯罪抑止効果が何とか働いて、結果論だけど特務魔法術師の強権をもってお母様がフレーリアに活路を与えてくれた。
最終的にフレーリアは助からなかったけど、ウォーレス領とお母様のお陰で今の私が有るのは間違いない。
それでもだ。
領民が大量に増えて町から作り直す機会だからこそ、治安システムも根底から見直したい。
「・・・その辺りは領内の巡回や駐在所の設置で防犯効果を高められるよ」
「ちゅうざい? 駐在か。それはどういうものだ?」
駐在所だと駐留するってことだから、派出所の方が正しいのかな。
駐在所だと駐屯地を小さくしたイメージに受け取られるかも。
言い方を変えた方が良いな。何て言い換えれば良いんだろう?
詰所かな? これで行こう。
「・・・小さな詰所だね。街のあちこちに詰所を置いて、身近に守備兵の姿が見えるようにするだけでも犯罪や問題の抑止効果が有るんだよ」
「監視の分散配置か。人員の数が必要になるな」
私の思い付きにも真面目に向き合ってくれるお母様が想像力を働かせてくれた。
最初に私が言った「駐在所」の言葉通りに想像したらしいお母様のイメージに修正を加える。
「・・・1ヶ所に留まって監視するんじゃなく毎日必ず立ち寄るように巡回させれば良いんだよ。詰所を巡回する守備兵の休憩所として使わせれば、実数よりもたくさん居るように見えるだろうし」
「巡回監視・・・。城内の警衛みたいな配置か」
「・・・あっ。そうそう。そんな感じ」
レティアの領主館にも居るけど、警衛って施設内の警備を専門の任務にしてる人たちだ。
定期的に施設内を巡回して、不審者の侵入監視や異変を早期に発見するのがお仕事だったはず。
都市内の警備だけじゃなく軍事行動全般にも動員される守備兵の人たちよりも、任務の幅が狭いらしいんだよ。
私が提案したいのは一般的に“お巡りさん”と呼ばれる日本警察の巡査みたいな職務で、日本のお巡りさんだって「武装勢力と戦え」なんて危険な現場へ突入させられたりはしない。
武装立てこもり犯や暴徒鎮圧なんかの危険な現場には、専門の訓練を受けた戦闘員が対応したはずだ。
重要なのは浅く広く全体をカバーして抑止効果を持たせることと早期発見すること。
問題を発見した後は戦闘力を持つ領軍が出張って対応すれば良いんだよ。
事実上の同一領内であるピーシス領とウォーレス領の領境に関所を置く意味がどれだけ有るのかと言えば、極めて疑問だと思う。
ピンポイントなフィルターの働きしかしない領内の関所は、それほど重要ではないんじゃないかな。
「兵たちの負担だけでなく経費が増えそうだが、そうすることで得られるものは何だ?」
「・・・物理的な垣根を取り除くことで不公平感を無くすだけじゃなく、治安組織側と領民側の距離感を近くすることで外からの浸透を防いで分断工作が阻止できると思う」
私が提案する後半部分にお母様の目が鋭さを帯びる。
「外からの・・・。狙いは間諜―――、いや。神教会対策か」
お母様の理解に頷いて返す。
間諜対策は懸念事項だったし、今後はもっと間諜が増えるだろうから、何らかの手を打っておく必要が有る。
まあ、それだけじゃないんだけどね。
「・・・危険は小さいけど手間の掛かる仕事と、危険は有るけど出動が少ない仕事に分業するのはどう?」
「警戒監視と制圧戦闘の人員を分けるということか?」
さすがお母様。理解が早い。
現状の治安システムは領軍が全ての任務を総合的に担っていて、戦争にも動員される領軍の仕事は広範にわたる。
これって地球で言えば、軍事政権下や紛争地帯で軍隊が防衛任務と治安維持を一手に握っているような状態だよ。
小さな犯罪の取り締まりや住民トラブルに軍隊を動員するのは過剰戦力だし、現に軍事行動が近い状況になると、毎回、人員の捻出にお父様たちが頭を悩ませている。
餅は餅屋で、警察の仕事と軍隊の仕事を専門分野で分業してしまうのも1つの方法じゃないかな。
「・・・体力が衰えても勤められる職場が有れば熟練の兵士さんたちも長く働けて雇用対策にもなるし、分業してしまえば軍隊は防衛任務や訓練だけに集中できるよね。多少の経費負担を増やすだけの価値は有るんじゃないかな」
怪我や加齢で領軍を辞めるベテランが減れば、人員不足が埋められるだけじゃなく若い人たちの教育を任せられる。
技術や教訓の継承は組織の能力底上げになるだろうし、頑張って働いてきた人たちの生活を保証するものになる。
社会保険制度なんてものが無い世界だからこそ、長く働ける社会システムは領民に安心を与えてくれるはずだ。
為政者に対する領民の支持もまた、外部からの干渉を防ぐ防波堤になる。
だってさ。自分たちの生活を脅かしかねない工作員なんて領民自身が侵入を許さないと思うよ?
情報収集や工作活動を行う間諜なんて簡単に見破れるものじゃないだろうし、日常生活の中でボロを出す瞬間を待つ方が効率的に思える。
数カ所しかない関所よりも、領民全体が参加する監視網の方が、よほど機能するんじゃないだろうか。
地球の実例で言えば、日本の“隣組”制度や冷戦期の共産社会主義国が敷いていた密告制度に近いかな。
個人の権利が強化された現代の価値観で言えば眉を顰める古い制度かも知れないけど、現代の通報制度だって相互監視の本質は何一つ変わっていない。
違うのは、国家権力が強制力を持たせたか、国民の自由意志によるものか、だけだよ。
エンカウント!⑮です。
社会システム!?
次回、オラが村!?




