エンカウント! ⑫
「重要な技術検証だぞ? ゴーレムが馬の代わりに成り得るのか。もしも代替し得るのならば戦争の在り方が根底から変わる」
「馬の代わりねぇ?」
「・・・馬の代わりかぁ」
ピーシス隊の騎馬部隊をゴーレム部隊に置き換えて、何百体、何千体もの“獰猛くん”に戦列を組ませて攻め込むの?
何? その地獄絵図。
そんなビジョンは私にも無かったなあ。
セリーナお婆様はまるで信じていない様子だし、シェリアお婆様も呆れた表情で首を振ってるよ?
お父様とお爺様たちは諦め顔で首を振ってるし、ドネルクさんは絶望的な表情で遠い目をして虚空を見上げてるし、バルトロイさんは頭痛を堪えるような表情でこめかみをグリグリしている。
なお、隣り合って席に着いているルナリアとノーアはとっくに食事を終えていて、退屈なのか伝説の暗殺拳伝承者みたいな高速手遊びでスパパパパッと遊んでいる。
「勝った!」って顔で大きな胸を張ってるお母様も即興で屁理屈を捻り出して言い返しただけで、実現できると考えての反論じゃなかったのだろうけどね。
ピーシス領軍の大多数が呼吸するように魔石の魔力を使うことに慣れて、魔力の手を10本ぐらい生やせるようになれば、実現できてしまいそうなところが恐ろしあ。
「可能性だ。可能性」
本気にするなとばかりにヒラヒラとお母様が手を振れば、あちこちから上がった溜息が食堂内を支配した。
脱力した空気になったけど、私は一緒になって溜息を吐いてはいなかった。
「・・・ふむ?」
突拍子もなくて非現実的なバカ話に思えるけど、実現性は有るんだよなあ。
“獰猛くん”は飛び道具を持っていないから宇宙世紀的な感じや装甲騎兵的に咽せる感じにはならないだろうけど、もっと現実的に戦車のようなものだと仮定しよう。
弓矢やヒョロい魔法を食らった程度で“獰猛くん”はビクともしない。
数百トン、数千トンもの質量そのものを武器とする “獰猛くん” が踏み散らかして、軍隊の規律と統制を維持できるものだろうか?
普通に考えて阿鼻叫喚だよね。
敵軍を掃討しに突撃すれば友軍も一緒に踏み散らかされるだろうから、どう連携すれば良いのか想像も付かないけど。
うーん。考えさせられるなあ。
でも、今は考えるだけ無駄だな。
魔力の手が4本ぽっちだと直立させるだけでも大変なんだし、みんなが“4本の壁”を越えるまでは実現性が低いもの。
戦象みたいな四つ足のゴーレムなら「手」が4本でも操縦できるだろうけど、身体強化魔法が当たり前な戦場で鈍足な四つ足なんて大きな的にしかならないんじゃないかな。
川幅300メートル以上も有るナーガ川の対岸から防衛陣地まで投擲槍が届くって聞いたから、身長50メートルの“獰猛くん”の頭に乗っていても集中砲火を浴び兼ねないんだし。
そう考えると、対人戦がメインの戦場では高さを利用した偵察ぐらいにしか“獰猛くん”の使い道は無さそうだな。
巨大魔獣を相手にした格闘戦でしか“獰猛くん”が輝ける場面は無さそうだと結論に達したところで晩餐は終わった。
「・・・んじゃあ、行くよ―――ッ!!」
17階建てビル相当の高さから見下ろして叫べば、指示を受け取った小隊長のメリーナさんが地上から手を振り返してくる。
メリーナさんたちも、新人さんたち―――、ピーシスガードも、しっかり休んで体調を整えていたようで元気いっぱいだ。
「出発!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
第1次交代部隊に選出されたピーシスガードの気合いが入った返事を耳にしてから、立ち上がらせた“獰猛くん1号”の右足を、ズシン! と踏み出す。
“1号”は新たな赴任地へ向かう第1歩だし、ピーシスガードも正式任務の赴任地へ向かう第1歩だ。
北門の城壁外まで見送りに出てきているウォーレス家の面々とドネルクさんとバルトロイさんが、しばしの別れを告げて手を振り合っている。
遠くまで見渡せる“1号”を先頭に、馬列が進み始める。
軸足に体重移動して1歩を踏み出す度に、ググーッと大きな横揺れから体を後ろに持って行かれるような急加速を感じて、ズシン! と次の1歩が大地を踏むと同時に前方へ体が放り出されるような急制動が掛かる。
予想以上の揺れに、魔力の手でしっかりとみんなの体を支えて固定する。
逆向きの横揺れから急加速して急制動。
また逆向きの横揺れから急加速して急制動。
縦揺れまで加わると乗り物酔いが早くなりそうだから、そろりそろりと忍び足で歩かせようと頑張ってもコレだよ。
「うーむ。この揺れでは馬の代わりにはならんな」
「・・・だよねえ」
うん。知ってた!
どっかりと胡座をかいて下界を覗き込んでいるお母様が腕組みで唸って、反論しようがない事実に同意を返す。
揺れても落っこちないようにガッチリと体を固定しているけど、絶叫コースター並みの揺れにも動じないお母様の肝の据わり具合が凄い。
柔軟体操みたいな体勢で開いた両足の間にノーアを座らせて背中から抱きしめているルナリアも、眉を寄せて首を傾げる。
「ほんと、揺れるわよね」
「にゃ」
「・・・まあ、こればかりは仕方ないなあ」
巨大スライム戦のときにも多少は揺れた記憶は有るけど、ほんの1歩2歩動いただけで同じ場所からほとんど動いてなかったからね。
「・・・尻尾を付ければ多少はマシになるんだろうけど、尻尾を引き摺って歩いたら街道が抉れて無くなっちゃいそうだし」
「あの尻尾って、そんな役目が有ったのね」
城壁外へ移動させたときのことを思い浮かべているのだろうルナリアが感心を顕わにする。
エンカウント! ⑫
大揺れ!?
次回、スケール感!?




