エンカウント! ⑦
ルナリアから聞いている限り、貴族の子女って苦労を知らずに甘やかされて育ってるらしいから、学校みたいなものは存在していてもおかしくないな。
むしろ、手間暇が掛かる子供の教育を他人任せに出来るのだから、領地経営すら他人任せにしている貴族もいる現状で学校が存在しない方がおかしい気がする。
でもまあ、他所様は他所様でうちにはうちの家庭事情が有るってもんよ。
ウォーレス領のやり方を他領でも踏襲してシステムを導入できるなら、王国全体で教育水準の底上げが出来るかも知れない。
国民の教育水準って要素は国家の発展にとって極めて重要で、欧米列強が地球全体に植民地支配を広げて争い合っていた時代に250年間も続いた鎖国政策を解いたときに、なぜ日本が植民地化されなかったのか。
江戸幕府支配が始まる250年前の戦国時代にも某一神教の宣教師をどんどん送り込まれていた日本が、どうして某一神教に浸透されなかったのか。
欧米列強の植民地支配が世界中を覆い尽くした明治時代に、どうして日本だけが一気に工業化を成し遂げて列強国の一角に食い込むことができたのか。
世界中で色々と議論されていたみたいだけど、総じて挙げられる要素に“国民の教育水準”というものが有る。
日本全国津々浦々に僧侶や神職という知識層が必ず居て地域の住民に教育を与えていた、日本が独自に築き上げていた社会システム。
500年近く前の戦国時代でも某一神教の宣教師に騙されず、戦争がなくなって独自文化が熟成した江戸時代の識字率は世界屈指の水準だったらしい。
私は研究者じゃないし、ネットの記事を読んだだけだから詳しいことは知らん!
知らんけど、史実として日本という国は他国による文化破壊や軍事侵略に対抗して植民地にならず、独立を守り切ったわけだ。
だったら私は偉大なる先人たちに学ぶ。
王国民の知識レベルを引き上げて西方からの侵略に対抗する。
それを可能にしてくれるのがウォーレス領にも居る先人たちの存在だ。
「・・・学校の責任者に任命される予定の人がシェリアお婆様から教育を受けた元女性騎士で、今は孤児院の院長なんです。院長の助手をしている子も治癒魔法術師を目指してくれますから、子供たちの面倒を見る人員を新たに用意する必要はないんですよ」
「騎士候補の教育もするんだったな。騎士団から教師を出すのか?」
自分の成果でもないのにドヤっと胸を張る私から、ドネルクさんがお父様たちへと視線を移した。
お父様とお母様も余裕の表情で迎え撃つ。
「戦傷で引退した暇な元騎士や子育てを終えた元女性騎士が山ほど居るからな」
「ロアーナとリエンナも教師として復帰する予定だ」
お母様が挙げた名前にドネルクさんとバルトロイさんが目を丸くする。
「お義母上殿もか」
「そうなのか?」
ロアーナさんはエゼリアさんのお母さんで、リエンナさんはアンリカさんのお母さんだから、ドネルクさんとバルトロイさんにとっても他人事じゃないからね。
「あの二人も強いぞ。昔はよく絞られたものだ」
「母の組み討ち術は芸術の域ですよ」
「力では今も母に勝てませんからね」
懐かしそうに目を細めるお母様の言葉をエゼリアさんとアンリカさんが追認する。
そう言えば私、ピーシス領で料理を振る舞ったときの騒ぎでロアーナさんがキメたバックドロップを“2号”で真似たんだよ。
ロアーナさんのバックドロップを見ていなかったら、“2号”での格闘戦でバックドロップは思い付かなかっただろうね。
リエンナさんのパワーに勝てないことはアリアナさんもよく言ってたし、アンリカさんたち姉妹だけでなく末弟のアインスくんが立派な脳筋に育ったのもリエンナさんの影響らしいんだよ。
つまり、血気盛んで体力が有り余っている騎士候補の少年少女たちを黙って従わせるだけの実力を、ロアーナさんとリエンナさんは今でも維持してるってこと。
そして、あの2人の姿は未来のエゼリアさんとアンリカさんの姿を暗示するものでも有る。
「お、おう」
「そ、そうか」
恐るべきウォーレス女性の代表格を奥さんに迎えることになっている新郎2人が動揺を見せる。
それを言ったら私たちも他人事じゃないんだよね。
ロアーナさんもリエンナさんもシェリアお婆様と一緒にセリーナお婆様の側近を務めていた人だから、私たちのお目付役を務めてくれていたアレーナさんと同じように、復帰後もセリーナお婆様とシェリアお婆様の指揮下に入ることは明らかだもの。
私たちにとっては、やらかしたときの目撃者が2人増えるってことだし、お婆様たちの目が届く範囲が広くなったってことだからね。
他の場所で暴れまくっていてバックドロップを見ていなかったルナリアが首を傾げる。
「あの2人って、そんなに強いんだ?」
「・・・そうだよ。私たちも怒らせないように気を付けないと」
「わ、分かったわ」
上達したヒソヒソ声で訊いてくるルナリアに、私も声を潜めて答える。
私の危機感を感じ取ったルナリアが真剣な表情で頷いた。
お母様が「絞られた」っていうぐらいだよ?
純粋な物理攻撃はお説教や正座と同じぐらい恐ろしい。
訪れるかも知れない未来に戦慄していると、お母様が話題を変えた。
「フィオレ。王都へ派遣する部隊の段取りは終わったのか?」
「・・・今日中に交代部隊を指名するつもり。支給する甲冑って納品されてるんだよね?」
「おう。領軍の倉庫で保管して有るぞ」
お母様が目を向けると給仕に付いていてくれたミセラさんが無言で頷いた。
ミセラさんが把握してくれているなら大丈夫だな。
新人さんたちは朝からジアンさんと一緒に採掘場へ行ってるんだっけ。
もう3時間もすれば帰ってくるはず。
エンカウント!⑦です。
絵に描いたようなウォーレス女性!?
次回、命名!?




