第2次領有宣言 ⑳
「・・・さて。いよいよ上着だよ」
「なんか、格好良いわね」
ジャケットは返しが付いた詰め襟で、私が落書きの襟に階級章まで描き込んでしまったせいか、階級章っぽく色違いの布切れで飾りまで付けられている。
よく分からないなりに、私の落書きを忠実に再現しようと努力してくれたんだろうね。
ジャケットとパンツはベースカラーが同色に統一されていて黒に近いグレーかな?
袖に腕を通してジャケットの上から剣帯を締め、左腰に大型ナイフを佩く。
剣帯の後ろ腰にはフタ付きの小物入れも付けられている。
邪魔にはならないし、これなら魔石の出し入れも支障なく出来るだろう。
姿見に全身を映してみれば、これはアレだ。
ベースカラーが濃いグレーなせいで、チョビ髭オジサン系の軍服に似てるかも。
これが暗灰緑茶色や泥濁色だったら、兵士が畑で採れる系や旧バンザイ帝国系のイメージに近くなったのかもね。
裾や袖口やボタンホールの前合わせ部分は私の髪色のイメージからか鮮やかな青色の縁取りがされていて、この縁取りのお陰でチョビ髭系とは違った印象に仕上がっている。
ルナリアのジャケットは青色部分が鮮やかな赤色に変更された色違いで、こっちは赤色が大好きなルナリアの嗜好に合わせたみたい。
軍服は軍服なんだけど、全体のイメージとしてはちょっとだけ可愛い。
「どうっ!?」
「・・・うんうん。カッコ可愛い」
ジャジャーン! と大の字に手足を広げて感想を求めるルナリアに頷いて返す。
「かっこかわ?」
「・・・格好良くて可愛い」
「そうね! フィオレもカッコ可愛いわ!」
新たなスラングを習得したルナリアが全身から喜びを発散してニッと笑う。
着付けをしてくれているメイドさんによると、それぞれの軍服と同色のマントも用意されているらしい。
ルナリアもアスクレーくんもお母様も私と同じ意匠の軍服ってことは、これはもう制服になるのかな?
ピーシーズや新人さんたちも制服で揃えても良いかな。
新しい制服に袖を通すときって、期待感というか、ヤル気の充実っていうか、身が引き締まる感じがするよね。
2人で褒め合っていると、衣装部屋の扉がノックされた。
私たちの支度が仕上がっていることからメイドさんの手で扉が開けられて、お母様とアスクレーくんが入室してくる。
「ほう。なかなか似合ってるじゃないか」
ルナリアと2人でぐりぐりされる。褒めてくれているお母様もメッチャ似合ってるよ。
お母様のパンツは私たちのものよりもお尻から腿のラインがスリムな感じだけど、違いはそのぐらいかな。
ああ。もう1点、違いが有るね。
お母様のジャケットは色付き部分が純白に変更されていて、アスクレーくんはダークグリーンだ。
「お母様もカッコ可愛いわ!」
「そうかそうか」
上機嫌なお母様にルナリアとダブルでぐりぐりされる。
お母様の鮮やかな金髪と相俟って配色も格好良い。
黒、白、金の組み合わせって大人っぽくて纏まりが良いよね。
黒、赤、金のルナリアも纏まりが良いし、アスクレーくんの黒、緑、金も悪くない。
こういうの、パーソナルカラーって言うんだろうか?
ルナリアなんて赤だから、3倍速く動きそう。
「・・・アスクレーお兄様も似合ってますよ」
「そ、そうかな。ありがとう」
はにかむアスクレーくんの顔を見ていて気付いた。
何でアスクレーくんがダークグリーンなのかと思ったら、目の光彩と同じ色なのか。
誰が決めたのかは知らないけど、その配色センスを私は支持するよ! GJ!!
思う存分、私たちの軍服姿を堪能したお母様が、ニヤリと笑う。
「ヨシ。見せつけに行くぞ」
「「「はい!」」」
領主執務室に戻った私たちは随分と褒めそやされ、お父様とハインズお爺様によるルナリア争奪戦が勃発することとなった。
騒がしい晩餐で幕を閉じた昨日から一夜明けた翌朝、レティアの南門からほんの300メートル離れた土塁の上から見下ろすナーガ川の流れは、波頭に白んだ空を映して瞬いていた。
地球から遠く、古代インド神話に伝わる蛇神の名を冠した大河の暗く深い色の川面は、それそのものが持つはずのない生命の脈動を感じさせる。
何て言うんだろう。
何かが潜んでいそうな得体の知れない生命感が有るというか、ここから先は人間が生きる世界の外側だと考えるから無意識下で不安感を覚えているのかも知れない。
今から私はお母様とたった2人で人類棲息域の外へ再突入するんだから。
日本の冬なら最も冷え込む早朝は川面に朝靄が掛かったりするけど、温暖な王国の気候では水温を大きく下回る気温まで冷え込むことがないせいか、朝靄が発生することはないらしい。
というか、乾燥気味で雨が少ない気候だから霧が出ることもないからね。
いやまあ。レティアの町周辺までの森の外では発生しないってだけで、森に入れば霧や靄が掛かる可能性は有るのかな?
ナーガ川自体が水源だから局地的な風の発生とかで気温が変動すれば、ガスが発生することは有るのかも知れない。
もうちょっと気象学? なんかも勉強しておけば良かったな。
「やっぱり朝は少し冷えるわね!」
「・・・そう? このぐらい―――、いや。そうだね」
ルナリアの肌感覚に首を傾げそうになって、即座に自分の肌感覚を修正する。
日本の冬だとか早朝の空気を思い出すから、こんなのぜんぜん冷える内に入らないと感じるだけで、王国の気候を思えば「冷える」部類なんだろう。
「おーい、フィオレ! 行けるか!?」
「・・・あ。はーい!」
何やらお父様たちと打ち合わせを行っていたお母様に呼ばれて、ルナリアと2人でパタパタと駆け戻る。
第2次領有宣言⑳です。
あの軍服!
次回、偵察!?




