生態系の覇者 ㊷
「完全に手の上ね!」
「上手く扱うものだな」
「幼くともウォーレスの女か?」
ルナリアとバルトロイさんとドネルクさんが口々に感想を述べる。
それは私とアスクレーくんのことかな?
褒められてるんだよね? それ。
「当然だろう。私の娘だぞ」
「「なるほどな」」
お母様がドヤ顔でドーンと大きな胸を張り、ドネルクさんとバルトロイさんの声がハモった。
本当に褒められているのか疑念が残るけど、お母様に似ているという意味での納得なら、嬉しいからヨシ!
「・・・こんなものかな?」
出来上がった足場の形状は、野球場なんかで“コ”の字の出入口が観客席に食い込んでいるような感じで、その出入口部分にデッカい尻尾の先っぽがドデンと横たわっているような格好だ。
これで良い? とアスクレーくんに目を向けると、アスクレーくんはドネルクさんに向き直った。
「お願いして良いですか?」
「おう。任せろ」
アスクレーくんに男臭くニッと笑い返したドネルクさんは、“コ”の字の縦線部分に正対する位置に立った。
斜面の下方向に剣を向ける立ち位置だね。
鞘から引き抜いた両刃の直剣は両手剣と呼ばれる類いのもので、お母様のサーベルは元より、お父様やマルキオお爺様が愛用している剣よりも明らかに長い。
私の身近に居る人で同じ部類の長剣を愛用している人と言えば、ハインズお爺様ぐらいだよね。
そう言えば、ドネルクさんはハインズお爺様の弟子なんだっけ。
左足を前へ大上段に剣を構えたドネルクさんの全身に魔力が満ちるのを感じる。
これって身体強化魔法だよね?
ピーシーズやエゼリアさんたちが使っている姿は日常的に見るけど、肌の表面にピリピリと感じるほどにドネルクさんが発している魔力は濃密で強い。
フィジカル最強がどんな感じなのかと魔力の手を伸ばして探ってみれば、驚いたことに構えた剣の先にまで同じだけ濃く強い魔力が纏わり付いている。
大昔の勇者さんが広めた“クツキ”って技術だっけ?
何度か見せて貰う機会は有ったけど、ここまでハッキリと魔力が剣にまで伝わっている人は見たことがない。
これはもう“身体強化”じゃないよね?
だって、剣は道具であって人間の体の一部じゃない。
よく技術の熟達を「道具が体の一部になるまで」なんてフレーズで表すけど、ドネルクさんの身体強化魔法は本当に愛剣が体の一部になってしまっている。
それがどういうことかと言うと、ドネルクさんの剣は私の魔力の手と同じように“剣の長さ”に囚われないんじゃないだろうか。
あくまで私の経験を基にした予測だけど、ドネルクさんは剣の長さよりも大きく長い斬撃を蜻蛉の尻尾に与えるんじゃないかな。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
右足を1歩踏み込むと同時に裂帛の気合いを乗せてドネルクさんが剣を振り下ろす。
“引き斬る”日本刀に対して西洋剣は“押し斬る”ものだと聞く。
その言葉を体現するように、ドネルクさんが振り下ろした剣は撫でるような円軌道を描くものではなく、斧のように真っ直ぐに叩きつけるような直線軌道を描いていたように思う。
これがマンガのような絵に描いたものならば、「スババ―――ッ!!」とか効果音が付いていただろう。
“2号”まで叩き斬りそうな勢いで振り下ろされた剣先は、“2号”に激突する寸前でピタリと止められている。
「「「「「おお~!!」」」」」
さすがに拍手喝采まではしないけど、見守っていた全員から感嘆の声が上がった。
もう、ビックリだよ。
剣の刃渡りは1メートルちょっとぐらいのはずなのに、5メートルを超える辺りまで尻尾の先が2つ割にされた。
これが王国最強と呼ばれたフィジカル最強の男かあ。
魔獣の体を真っ二つにするぐらいだから、人間の体なんて甲冑を着ていても真っ二つに出来るんだろうね。
「相変わらず見事だな」
「全盛期のお義父上殿に較べれば、まだまだだ」
お母様からの称賛にも、フッと小さく笑ったドネルクさんは首を振る。
謙遜って感じじゃないな。
お父上殿ってハインズお爺様のことだよね? お義父上殿かな?
正式にエゼリアさんとの婚約を結んでから、ドネルクさんはハインズお爺様のことを、そう呼んでるし。
お爺様たちは一騎当千と呼ばれる猛将だとは聞いているけど、若かった頃のお爺様たちを知るドネルクさんが「まだまだ」って言うぐらいだから、全盛期って本当に強かったんだろうね。
ドネルクさんの答えにお母様も首を振る。
「時は移ろいゆくものだ。ここまで“クツキ”を使いこなす者は大陸中を探しても他におらんだろう」
「そういうことにしておこう」
肩の力を抜いて魔力を霧散させたドネルクさんが血振りをした剣を鞘に収め、早速とばかりにアスクレーくんとバルトロイさんは尻尾に取り付いている。
私も見に行こうっと。
縦割りにされた斬り口をエウリさんたちが押し広げて、尻尾の先は“Y”の字になっている。
さらに濃厚になった甘い匂いに糖度計が欲しいと考えていると、体組織の断面からポッタポッタと落ちる液体が目に留まった。
「・・・これって血だよね」
赤血球が含まれているから恒温動物の血は赤いけど、蜻蛉の断面から滴っている血―――、体液は僅かに黄ばんだ透明の液体に見える。
やっぱり甘い匂いの元は、この体液っぽい。
結局、前世では虫を食べるのは諦めたけど、それは日本に棲息する虫では食べ応えがないことが主な理由だった。
自力でお肉が取れるようになったお陰でも有るけど、虫の可食部に十分なボリュームが有ったなら、私は気にせず食べていたと思う。
タラバガニを食べるんだから、食べられる部分が有れば蜘蛛だって食べるでしょ。
そして、この蜻蛉には十分なボリュームが有る。
「・・・どれどれ?」
ちょっと失礼して、っと。
手のひらに体液の滴を受け止めて、舌先でペロリと舐めてみる。
「・・・甘っ!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
私が取った行動に驚きの声が上がるけど、ちょっと待って欲しい!
今、それどころじゃないから!
スイーツだよ! スイーツ!!
生態系の覇者㊷です。
野生児の本能的行動!?
次回、支部!?




