生態系の覇者 ㉕
「そっち、行ったわよ!」
「うわわっ! 手が回りません!」
「数が多すぎる!」
1本しか手がなけりゃ、そりゃあ回らないでしょ!
1匹も飛ばすわけには行かないから私も必死に処理してるけど、さすがに追い込まれてきた!
「・・・みんな手は2本有るでしょ! 有ると思えば有る!」
「「「「ええっ!?」」」」
「手は2本手は2本手は2本手は2本」
複数の驚く声に雑じって1人だけ、ネイアさんが鬼気迫る血走った目で念仏のようなものを唱え始めている!
頑張れ! 誰もが通る道だ、知らんけど!
「ホントに出た!?」
「「「「―――、!!」」」」
執念の勝利か喜色に満ちたネイアさんの声が上がり、他のピーシーズが驚愕の目をネイアさんに向ける!
「私たちでもできるの!?」
「私も!!」
「「「「手は2本手は2本手は2本手は2本」」」」
「ムリじゃね?」などという甘えた考えが仲間の成功で否定されれば、生来、負けん気が強い脳筋のピーシーズだ!
追い込まれた必死さも手伝ってか、念仏を唱え始めていくらもしないうちに続々と魔力の手を2本に増やして見せた!
よくやった! 感動した!
「両手」が使えるようになれば回転率も爆上がりする!
出来るならサッサとやれ! と言いたいところだけど、追い込まれた状況が重要だったんだろう!
私のときも追い込まれた状況で「手」の数が増えたからね!
追い込みゃ出来ると分かった以上、今後は覚悟しておくといいよ!
4本までは問題なく増やせるはずだから!
5本まで増やせれば空中戦闘だってできる!
「叩け、叩け!!」
「毟れ、毟れ!!」
「1本も残すな!!」
そこ! オヤジ狩りギャルみたいなこと言わない!
ツッコみたいけどツッコんだら色々とバレるからツッコめないのが辛い!
それと、羽根の数え方は「枚」だからね!?
頭皮や髪の話じゃないんだから誤解を招くセンシティブな表現は避けるように!
目が回るような忙しさを乗り越えて、亀裂を中心としたドーナツ状に蜻蛉の死骸が積み上がった頃、ようやく這い出して来るペースに陰りが出て来た。
ひと山超えたことだけは間違いないはず。
あと一息! と自分に言い聞かせつつ、押さえ込んで毟って張り飛ばし続ける。
「・・・そ、そろそろ終わりかな?」
慣れない魔力の手の2本使いでピーシーズは肩で息をしているし、新人さんたちも相当に疲れたのか、座り込んでまではいないものの槍を支えに立っている子たちや膝に手を突いて呼吸を整えている子たちの姿が目立つ。
また1つ対魔獣戦闘というハードルを乗り越えたことで、みんな自分たちに自信を持ってくれることだろう。
「殺ったか!?」的なことを考えてしまったのが次のフラグになるなんてことはないと思うけどね。
今度こそ無いはずだ! 誰か、無いと言って!
「・・・お母様たちは―――、居た」
結局、新人さんたちに混じって雷蜻蛉を倒してたんだね。
包囲陣を見渡せば、その一角でお母様たちは血振りした剣を鞘に収めているところだった。
ドネルクさんとバルトロイさんも剣を抜いて討伐に参加してたっぽい。
目の前に王国の三大戦力が集結しているのだからルナリアも安心していたんだろう。
ノーアと一緒にお母様たちの後ろで戦況を見届けていたらしい。
「・・・さて。魔獣の襲来が終息したことだけは、ちゃんと確認しておかないとね」
地下空間に向けて「足」を地中に伸ばしてみる。
アクティブソナーがほぼ効かない状態だから、「足」での手探りだ。
「足」なのか「手」なのか? どっちでも良いんだよ。
河岸に防塁を築くという最低限の使命は果たしたものの、監視・兼・防衛用拠点の建物を建てなきゃいけないから、今日はこの場所で野営することになるんだろう。
いや。野営は無理かな。
小さくてギュウギュウになったとしても、壁・床・天井の有る建物は必要だろう。
こう何度も襲撃を受ければ防衛拠点の中でもなければ、さすがにおちおち休憩も取れないし。
まだまだやることが残ってるなあ、なんて油断をしていたら、また見付けてしまった。
「・・・まだ来るの!?」
「「「「「ええっ!?」」」」」
私の大きな独り言に、お代わりの到来を察したピーシーズが悲鳴のような声を上げる。
地中に伸ばした「足」に触れたのは、さっきまでと同じく“他者”の魔力。
魔獣が通ってきた穴を押し広げながら地上を目指して上がってくるものなんて、魔獣の他には有り得ない。
数は1つ。
問題はその魔力の反応が非常に強いことだ。
「・・・なにこれ!? 大きい!!」
経験上、魔獣の強さはどれだけ多くの体内保有魔力量を持っているかに比例する。
逆説的に大きく強い魔力の反応がある魔獣はそれだけ強い個体だと判断できる。
生態系の覇者㉕です。
また新たな敵!?
次回、最終決戦!?




