観覧車はキレイでした
(注意)お酒は20歳になってから。
ジムでのトレーニング終わり。
散歩していると、見慣れた道に辿り着く。
昔使っていた通学路だ。
大学生活最後の年。
デッキブラシでプール掃除をしているところに、デカめの紙飛行機が飛んできた。
ベシャリと濡れたソレは役目を終えたカレンダーで作られており、俺は周りを見渡す。
視界の隅。学生寮の3階から手を振る人がいた。──あんな遠くから良くここまで飛ばせたなぁと、関心する。
ルームメイトなのか、続々とベランダに出て「邪魔してごめんなさーい!?」と律儀に謝ってきた。
「気にするな〜!」
手を振り返し、倉庫から引っ張り出して来た応援用メガホンのクソデカボイスをお見舞いする。
流石に、水と洗剤を吸って汚れてしまった紙飛行機は処分する旨を伝え、再び掃除に戻る事にした。
「つきあってくだひゃい!」
「とりあえずお茶を飲みなさい」
「あ、えっと。ありぁとございマス? ングごきゅ、ンン、ごきゅっ。ぷはぁ〜……」
真っ赤な顔に呂律の怪しい小動物。──じゃなかった。女の子。
手渡した冷たい烏龍茶を飲み干し、向けられる笑顔の眩しさに、目が潰れそうになる。
卒業間近の大規模な飲み会で公開処刑と言う名の告白を喰らった俺。
2人分の料金をテーブルに叩きつけ、彼女の手を取り、ヤジの多いその場から走り出した。
「──えっとそれでですね。優しそうで、その時に声がかっこいいなって思って気になって」
「うん」
「ずっとお話ししたいなって思ってたんですけど」
「うん」
観覧車が遠くに見える夜景が綺麗な公園。
告白して来た真希ちゃんの明るい声に、俺は頭を抱えたままひたすら頷く。
どうも、プール掃除の時、友達が紙飛行機を飛ばしたみたいで、あの時に居合わせた1人らしい。
「連絡先だけでも交換出来ればって……ダメ、ですかね?」
「駄目ではないよ。ただ──」
昔に想いを馳せていた意識が、浮上する。
お弁当用の食材片手にマンションの鍵を開けた。
ガチャッ
真希と子ども達の寝顔だけでも見ようと、ソッと寝室を覗く。
大胆な寝相に毛布を掛け直してやれば、ムニャムニャと寝言が聞こえた。
『駄目ではないよ。ただ──、ぶはッ! ……くくっ酒が抜けてから話し合おうな』
油性ペンで猫の髭を生やされ、鼻を黒く塗られた真希の顔。当時、相当飲んでいたのか、告白するには台無しの顔面を思い出して、苦笑いが込み上げてくる。
酒は飲んでも呑まれるな。
シラフに戻って平謝りする真希を笑い飛ばしたのは、今ではいい思い出だった。
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