第3話「内なる獣2」
「君は、レベッカなのか?それともシルベットなのか?」と立ちすくむ彼女に対して教官が語りかける。「教官、大丈夫です今の私は、レベッカ•ハーストです」と彼女は答えた。
「覚えているのか?君がシルベットと入れ替わった時の記憶が」と質問すると。「はい、全部覚えています、そして、謝らなくてはありません、私が未熟なばっかりに」とレベッカはしおらしく言った。
「気にすることは無い、君の力を見せろと言ったのは私だ、それに君の力を授けた人物もわかった。」
「教官はシルベットを知っているのですか?」とレベッカが聞くと。「昔の文献で少し見た程度だがな」
「君のその力の主シルベット•ハースト、またの名を
冷血の君主シルベット•ハースト、最初の12人の中でも特に残忍な人物と伝えられている」と語り説明してくれた。
シルベット•ハースト、彼女はドグテニア連邦の辺境伯
フランツ•ハーストの娘として産まれた、彼女は産まれた頃とても身体が弱く、父親のフランツは娘の為にありとあらゆる治療を施した。
だがシルベットの身体は良くならずただ死を待つのみだった。そんな時にあの戦争が起こる、ドグテニアの最前線にあったハースト領をそして、愛する娘を守る為にフランツ伯は戦った。だが次第に戦火が広がり
そしてフランツ伯は敵に討たれたのだ、そしてハースト領は領主を失い、敵国の勢いは止まらず、とうとうシルベットが居る領内にまで敵が攻め込んできた。
彼女が外を見ると、そこは地獄の様相だったと言う。
敵の兵士は民衆を広場へ集めると、首をはね、その首を噴水に投げ込み血の池を作り、そして女は皆服を裂かれ陵辱の限りを尽くされ、最後は腹を裂かれその臓物を壁に打ち付け、その女の旦那や恋人に見せつけ絶望の表情をする男達を嘲笑い首を跳ねる。
そして子供達は兵士の玩具となり、手足を生きたまま切り飛ばされ、そのままの状態でどれぐらい長く生きられるか賭けを行って盛り上がっていた。
そして、シルベットも例外では無かった彼女の屋敷も突破され、使用人やメイド、飼っていた愛犬まで惨殺され、彼女自身も男達に陵辱の限りを尽くされた。
全てが終わった後、遊びに飽きた兵士達は簡易的な処刑台を作り、もう既に壊れた彼女を連れていき首を吊ろうとした、だがその時に奇跡が起きた。
彼女は絶望の中で神との対話を行ったのだ、その時に彼女は人である事を辞めた。
彼女の受けた傷は全て治り、そして彼女は全てを奪った兵士やその国を怨み、神との対話で手に入れた力を使い自分の一族が治めて来た土地ハースト領全域を一晩で凍らせた。そして彼女は領内に近づく者全てを凍らせ殺した。そんな彼女に人々は畏怖と尊敬の意味を込めてこう呼んだ。
悲しき冷血の君主シルベット•ハーストと。
「これが私の知るシルベットに関する文献だ」と静かに答えた。
あまりにも恐ろしくも悲しき彼女の物語を聞き、俺達3人は何も話せなかった。
「私は物心付く前から自分の中で誰かの声が聞こえていました。そして力に気付いたのが2年前、10歳の誕生日の日に私の力が覚醒しシルベットが現れたんです。幸いシルベットは自分の血筋には手を出す事がなく、その場で治まったのですが、もし今見たいに皆の前でまたシルベットが出てきて、そして皆を傷付けたら、そう思ってここで力の制御を学ぼうと来たんです。」とレベッカが言った。
「心配いらない、そう言った者達の受け皿として我々は存在している、仲間達と共に克服しよう」と教官は力強く言ってくれた。
「次はロバート、君の番だ」
「分かりました!レベッカ程すごい能力じゃないですが、やってみます。」
「鋭き爪よ、鉄をも切り裂け、鋭き牙よ全てを喰らいつくせ!」そうに言った瞬間、ロニーの身体も膨れ上がっていきその身体には硬い鱗が生えていき、そしてロバートは2足歩行で立つ爬虫類の姿になっていた。
「一応意識は保てます、だけど体温の調節が難しくって、今レベッカの冷気で冷え込んじゃって眠気がすごいです」と流暢に人語を話した。
「なるほど、君の能力は、サラマンダーだ、まだ本来の力を出せていない様だが、鍛錬を積めばあの英雄に並ぶかもな」と教官が言った。
「サラマンダーの英雄って誰なんですか?」とロバートは期待を込めて言う。
「君と同じ能力を持った英雄、それは」と一拍置き
「高潔なる騎士エリアス•キャンベルだ、」と答え説明した。
高潔なる騎士エリアス•キャンベル彼はブリガニア法国のスラムで産まれたと言われている。
幼少の頃から、彼は母親から父のような立派な騎士になる様に言いつけられ育った。彼の出自を辿ると彼の母親はブリガニア法国の貴族令嬢だったと言う、しかし物心付く前に彼の母親の家は権力闘争に破れて没落した。そして彼女はブリガニアの騎士の家にメイドとして雇われた。
だが、その騎士は女癖が酷く自分の使用人にも手を出す程だったと言う。そして若く美しき彼女も例外ではなく、彼女もその騎士の毒牙にかかり望まれない子を授かってしまった。当然その騎士がメイドとの子を認める筈がなく、彼女と腹の子を捨て屋敷からおいだしたのだ。
そして彼女はスラムへと流れ、エリアスを一人で産み落とし、そして女手一つで彼を育てた。
彼はいつも自分達を捨てた、父親の話を母親に聞いたが、彼女は我が子に残酷な事実を聞かせたく無いと彼の父親は立派な騎士で、戦場で戦死した事にしていた。
そして月日は流れ、エリアスは15歳になると首都マラシアへと行き、そこで兵士として従軍し様々な武功を立てた。そして彼はスラム街の貧民の出でありながら、騎士の称号を賜りそして騎士団長にまで任命された。
だが下賤な者を騎士として認めようとはしない者達も居た。そしてその者達は彼の弱味として彼の母親を当時戦争中だった、フリガルシアの手先の犯行に見せかけて殺した。
彼は最愛の母を奪われ、自暴自棄になり単身でフリガルシアの拠点に乗り込んだ、彼は獅子奮迅の如き暴れっぷりを見せたが、多勢に無勢彼はたちまち捕らえられ拷問を受けた、そしてかつての英雄は見せ占めに処刑されようとしていた、だがそれでも彼は己の運命を受け入れられず呪いの言葉を吐いた。その時に彼にも神が舞い降りた。彼は自分の全てと引き換えに神と取引を行い母親の死の真相とそして力を授かった。
彼が神から授かりし神託を言うと、彼の体は肥大して行き見上げるような怪物になった。
その姿はまさに伝説の怪物サラマンダーだったと言う。
彼はその力を使いフリガルシアの半分を焼き払い、焦土化し、そして彼の母親を殺した、ブリガニアの貴族達も領土事焼き払ったと言う。
復讐を終えた彼はブリガニア、フリガルシアの討伐隊に討たれた。そして人々はこの一連の悲しき事件を知り彼の墓標にこう刻んだ。
高潔なる最優の騎士エリアス•キャンベルと。
そう言って教官の説明が終わった。
「それが、俺のご先祖様になるんですか?」とロニーが静かに聞いた。
「我々教会に残る記録ではそう伝えられている」
「そんな、立派な人だったんですね、俺とは正反対だ、俺もこの力に目覚めたのは最近何です、いきなり頭の中で今の言葉が溢れてきて、その言葉を試しに言ったら、この姿になったんです、俺も最初は驚いたけど、この力があれば一生金に困らない、そんな軽い気持ちでここに来たのに、そんな悲しい話があったなんて」と言うと、ロニーの目から涙が溢れていた。
「どんな理由があっても、君は今ここに居るそれだけで十分君は正しい道を歩んでいる、それは先祖に対しても誇りにもっていい」と教官が言った。
ロニーの番が終わり最後は俺の番が来た。
「では、最後にレオナルド見せてくれ」と教官が言った。
だが、いくら出そうとしても、俺は能力を出す事が、あの獣を出す事が出来なかった。
第3話 「完」
第4話に続く