第6話 「泡沫に消えゆく」
ルドウィック歴1785年6月21日我々は隣国であるドグテニア連邦との交易の為、新しく出来た船エリーゼ号の処女航海を行う事になった。
乗組員は全部で10名、船長は私アスラン•ハワードが務める事となった。船はブリガニア法国の港町ルベンドを出港し目的地であるドグテニア連邦の寄港場所であるオークフォード港へと向かった。片道日数は一ヶ月掛かる船旅になる予定だ。
そしてそこから次のページが解読不能だったため別のページへと移る。
7月28日無事目的地であるオークフォードへと着いた、港に船を着けると私は市内の方へと行きドグテニアの外交官と話をした。
話はまとまり今後も貿易を続ける許可証と関税に関する取り纏めを行い私は船に戻った。
8月1日私達は港を後にして出港した、港町から離れてしばらく航海した時に船倉の清掃をしていた甲板見習いの青年が突然船長室に入って来た。
聞くと船内に部外者が入り込んでいたと言うのだ、私は直ぐに機関長と青年と共に船倉を調べたすると若い1人の女性が居た。
女性に事情を聞くと彼女は故郷に帰る為にこの船に密航したと言う、彼女を降ろそうにも町からは何マイルも離れており引き返すのは不可能だった。
私達は仕方なく彼女を乗組員として迎え航海を続けた、彼女はとても働き者でどんな雑用でも顔色一つ変えずにやってくれた。
そして彼女の美しい容姿も相まって数日後には乗組員全員に愛される存在になっていた。
彼女は歌が上手く私達は夜になると甲板に集まり彼女の美しい歌声を聞き癒された。
8月15日私達は旅の記録として写真を1枚撮った、勿論彼女も加えて全員で撮った、皆良い表情をしておりこの先の航海に向けて何の問題は感じられなかった。
8月20日今日も1人乗組員が消えたこれで5人目だ私は薄々気付いていた犯人は彼女だと、被害者は皆彼女に好意を抱いていた者ばかりだった、最初に消えたのは彼女を見つけた青年、そして次は機関見習いの青年皆彼女に好意を告げた翌日に消えていた。次は誰なのだろうか。
8月30日、もう終わりだ、残ったのは私と彼女だけ私は見たのだ機関長が夜に1人で甲板に出ていくのを、そして機関長は人魚の様に尾ひれがある彼女に抱きしめられ海に落ちた。私は恐ろしくなり部屋に閉じこもった、だが私の頭の中にはあの彼女の美しい歌声が響いてくる、止めてくれ!私の脳に入らないでくれ!私はもうこのままでは駄目だ!私はこれからこの船を止めに行くおそらく私は帰って来れないだろう、これを見た者が入ればどうか頼む、彼女を、、、
そこから先は読めない程傷んでおり読めなかった。
俺はその日記を持って甲板に向かいアリアを待つことにした。
「なるほど、この船の者達は人魚によって死んだのか」アリアは日記を読むとある仮説を唱えた。
「つまり人魚は人に化けて乗り込み乗組員を一人ずつ殺し、最後に残った船長がこの船を座礁させ止めたが、人魚は生きており村で一人夜な夜な歌っていたんだろうな」
「これが人魚伝説の真相ですか思ったよりも残酷ですね」
「事実は小説より奇なりと言うしな、そんなものだろう。」
俺とアリアは洞窟を後にすると村に戻った。
「それじゃあ、私の先祖が歌を教えてもらった人魚は邪悪な存在になるんですか?」
村に戻り俺達はアシュリーを再び訪ね調査結果を話した。
「それはまだ分かりませんがこの日記を読む限りではその可能性が高いですね」アリアは冷静に見解を告げる。
「それじゃあ、やっぱりジムは人魚に取り殺されたの?でも一体何で」アシュリーは困惑した様に言う。
「古い船乗りの言い伝えにこんなのがあります、満月の夜には甲板に出るな満月の夜に人魚が船乗りを引きずり込むために歌を歌うと」俺が昔孤児院で読んだ本の言い伝えを言った。
「博識だなレオ、私も似たような話を聞いた事があるなら今夜辺り彼女が現れるかもしれないな
「アシュリー、貴方は今夜家から出ないで下さい、ここからは私とレオの仕事です」
アリアがアシュリーに言うと。
「頭では分かっています、ですが私は何故ジムが殺されなくてはならなかったのか知る権利があります!なので無理を承知で言います、私も連れて行って下さい」彼女の真剣な眼差しに押され俺達は自己責任と言う事で同行を許可した。
夜になり辺りが静まり返る、住民達は家にこもり鍵を掛けていた。そしてそんな静まり返った村に美しい歌声が響き渡った。
俺達は歌声に誘われる様に足を進めそして目的地であるあの洞窟に着いた。
洞窟の中に入り進むと彼女が居た。
彼女は月明かりに照らされながら難破船の甲板の上で美しくも儚げな音色の歌を歌っていた。
「あら、今日は沢山のお客さんね」彼女の姿は日記に挟んであった写真通りの姿だった。
あの写真から100年経っている筈だが彼女の姿は変わらず、月明かりを背景にブロンドの長い髪を下ろした姿は教会に描かれているフラスコ画の女神の様に神々しく見えた。
「貴方が人魚ね、教えて何で私の恋人のジムを殺したの?」アシュリーが泣き入りそうな声で人魚に問う。
「彼ねごめんなさい、私の歌声に魅了された者は私の意思とは関係無しに皆死んでしまうの」人魚は儚げに答えた。
「そんな理由で彼は死んだの?」アシュリーは膝を着くと泣き出した。
「アリアさんどうします?見た所こちらに危害を加える様には見えないですよ?」俺はアリアに静かに耳打ちする。
「貴方達に危害?そんな事しないわよ」すると遠く離れた甲板に居る人魚が返答する。
「私は貴方に会いたかったの」彼女はそう言ってある者を指差す。
「私?何で?」その指差す先には涙で目を腫らすアシュリーが居た。
「私の歌は呪われているの私は本当は誰一人傷付けたくないでも私の歌を聞いた男達は皆死んだは」
俺達は人魚に招かれ船長室で話をしていた。
人魚の話を聞くとこうだった、彼女は100年前ドグテニアの商人に捕らえられ酷い仕打ちを受けた。彼女は長い間見世物として扱われ精神が壊れかけていた。
そんな時にたまたまドグテニアとの貿易を結びに来たこの船の一団を見つけ、隙を見て逃げ出しこの船に乗り込んだと言う。
彼女は船員達に受け入れられた後自分も船員として働いた。ある時彼女は船員達の為に自分の得意な歌を聴かせた。
船員達はとても喜んでくれ皆がその歌を褒めてくれた、やがて彼女に好意を寄せる男が現れ彼女もそれを受け入れた、そして彼女は自分の本当の姿を明かしたすると男達は目の色を変え彼女に危害を加えようとした。
そして彼女は海へと逃げ、俺達もそれに釣られて海へと落ちていったのだ。
「そして最後に生き残った船長も精神がおかしくなり船を座礁させて私はこの村に流れ着いたの、そして私は全てを失い彼等の追悼の為に入江で一人歌を歌っていたのそして彼女の先祖のあの子に出会ったの」
人魚がアシュリーを見つめる。
「彼女はとても可愛いらしい子で私は彼女と会うたびに傷ついた心が癒されていったの」
人魚は優しい眼差しでアシュリーを見る。
「貴方は本当にあの子に似ているは、私はあの時彼女の為に泣いたあれ程の悲しみと怒りは無かったは、私が唯一自分の意思で殺したのはあの時だけ私はその後村の災いにならない様にこの洞窟に隠れ住んでいたの」
人魚の話を聞き終わり俺達は沈黙していた。
「それでも私のやった罪は消えないは」人魚はそう言うと俺達を見て言った。
「だから私は自分の命で償うは、お願い私を殺して
!」俺達は人魚の願いを聞いた。
「本当にそれで良いのか?」
俺は人魚に聞いた、確かに人魚の呪いで被害者がでているだが人魚の話を聞く限り情状酌量の余地がある様に思えた。
「ふざけないで!それで全部終わりにするの?私は確かにジムを殺された、だけど私は貴方を御先祖様の親友を無くしたくないの!」アシュリーが人魚に言った。
「怒った顔もあの子に本当ににているはね、でもこれは私のケジメなの私はこの罪を背負って長く生きただからそろそろ私は償わなくちゃいけないの」
「でもそれじゃあ貴方が余りにも」アシュリーは言い掛けたが人魚は最後の頼みをする。
「最後に私と歌ってくれる?昔あの子と毎晩歌った様に」人魚の頼みをアシュリーは静かに頷き了承した。
俺とアリアは甲板に出た、すると月明かりに照らされながら彼女達は歌った、その歌声はとても美しく透き通る声だったがその歌声に込められた感情はとても悲しげで切ない気持ちになった。
「レオ、泣いているのか?」俺はアリアに言われ頬を伝う涙に気付いた。
「そう言うアリアさんも涙がこぼれていますよ」
アリアは静かに涙を拭うと静かに聴き入っていた。
歌が終わると人魚はアシュリーにある物を渡す。
「これは私の大事な友達からもらった贈り物なの、これを貴方にあげるは」そう言って人魚は髪飾りをアシュリーの髪に付ける。
「貴方の事は絶対に忘れない、これから先もずっと歌を繋いで行くは」その言葉を聞き人魚は静かにアシュリーを抱きしめると俺達の前に来た。
「これで思い起こす事は無いは」人魚はそう静かに言って向かい合う。
「レオ、辛い役目になる私がやろうか?」アリアが気を遣って言ってくれた。
「いえ、俺がやります彼女の最後の男ですから」
「そう言ってくれるのね、貴方将来きっと良い男になれるは」俺はその言葉を聞き腕を獣化させ人魚の首を切り裂いた。
「今回は本当にありがとう御座いました」
次の日事件の解決を報告し俺達は村長に感謝の言葉を告げられた。
俺達は人魚の亡き骸を丁寧に埋葬した、彼女は俺に首をはねられる瞬間穏やかに笑っていた。
「二人共お気を付けて」村長の家を後にして俺達はアシュリーに会いに家に向かった。
「今回はありがとう御座いました、これで私もジムの魂が浮かばれたと思います」
「これからどうするんですか?」アリアが聞く。
「彼女との約束通りこの村で歌を伝えて行きます、それが彼女の弔いになるので」アシュリーは髪飾りを触りながら言った。
「今回の任務はこれで終わりですね」
俺は帰りの列車の中でアリアに言った。
「すまないレオ、君には辛い役目をやらせてしまったな」アリアが申し訳なさそうに言った。
「大丈夫ですよ、それに俺は彼女の言われた通り良い男になれる様精進します」俺がそう告げるとアリアはそうだなと少し笑って外の景色を眺める。
これから先これよりも辛い経験や別れを繰り返すだろう、だが俺は必ずリサを救い出すまで歩き続けて行く。
第2章 「歌唄いと人魚の涙」 完
次回 幕間の話 数話掲載予定




