第9話「野外任務」
ファーストの解放訓練から2カ月が経った。
「よし、大分安定してきたな、これで次の課題に進めそうだな」と教官が訓練中の俺達を見て言った。
この2カ月間俺達3人は、ファースト解放後の安定感を掴む訓練を行った、と言ってもやり方は簡単でファーストの変身後どれだけ維持出来るか時間を測定すると言ったものだった。
最初は個人差はあれど平均して一度の変身した際の時間は、5分程度だった、そこから毎日変身を行い1週間経つ頃には1時間変身を維持しても平気になっていた。
そして、次の訓練が能力の行使と開発だった、これは個人別々の訓練になり、俺は教官と体術訓練を行った。
俺のファースト状態は半獣化つまり、人の状態のまま獣の姿に変われると言うものだった。
その特性は身体能力が格段に上がると言った、シンプルなものだったので、他の二人とは違い、教官の指導の下体術訓練を行い身体の使い方を覚えていた。
シルベットは特別講師としてベテラン狩人が指導したらしく、毎日かなり疲れた顔をしていた。
そんなシルベットも最初の事件の後は安定しており、多彩な技を会得したと言っていた。
ロニーは学長であるマルコムが指導を行った、普段からは想像が付かないが、マルコムも昔は狩人として多くの任務に従事しており、その経験から教官をしており、今の教官ジェロームを指導したのもマルコムだったと言う。
マルコムは普段老紳士と言った、出で立ちだが教官としての彼は紳士とはかけ離れた熱血漢であった、ロニーは毎日会うたびに傷が増えており、その度にマルコムの治療を受けていた。
ロニーも以前よりも能力を使いこなせる様になっていて、今では炎ですら自在に扱える様になっていた。
「君達の教練の成果を見せてもらおうか」
そう言って、教官のジェロームが朝から広間に俺達3人を集めて言った。
「まずは、ロバート君からだ」と教官がロニーを指名した。
「はい!それでは行きます!」そう言った後ロニーが言葉を唱える。
「力強き翼よ我が身に宿れ」そう唱えた瞬間ロニーの背中から羽が生えた。
その羽はコウモリの羽の様に外骨格があり、その羽は鱗で覆われており、伝説上の竜の翼を彷彿とさせた。
「素晴らしい、短期間で身体の仕組みを理解したみたいだな、他にも見せてくれ」
「それではこれを」と言いつつロニーが手をかざす。
「火の精霊よ我に力を付与せよ」そして、ロニーの手が赤く光りそして、「フレイム•バレット!」そう唱えると、炎の弾丸が散弾の様に飛び散った。
「まだ、制御が甘いが及第点だなよく頑張ったな」
そう言って、教官は壁に開いた無数の穴を見て言った。
「ありがとうございます!学長との訓練の成果が出ました」と嬉しそうに答えた。
「次はシルベット、君の成果を見せてくれ」
「わかりました!」そう言ってシルベットが唱えた。
「冷血なる君主よ、我に力を与え給え!」そう唱えると、シルベットの髪が美しい水色へと変わるそして、彼女は冷気を纏いながら唱えた。
「妾の呼び掛けに応えよ!」
「氷雨」そう唱えると、漂っていた冷気が一気に氷柱へと変わり、彼女の指差す方向へと一斉に襲いかかった。
「これは、一種のアートだな」そう言って教官は大量の氷柱が刺さった、広間の彫刻を見た。
その彫刻は広間の中央にある神の姿をかたどった物だったのだが、シルベットの「氷雨」により元の原型が分からない程氷柱が刺さっており、全く違う形のオブジェになっていた。
「どうやら、あいつの指導が良かったみたいだな」と教官が感心して言った。
「あの人は、人としては最低ですけど、師匠としては最高の人でした」とシルベットが嫌々ながらに言った。
「まあ、それがあいつの良いところでもあるんだがな」と教官が苦笑しながら言った。
「それでは、最後にレオナルド、君の力を見せてくれ」と教官が言った。
「はい、教わった事をやってみます」そう言うと俺は詠唱無しで、半獣化した後、シルベットが作り出したオブジェの前に立つ。
そして、腰を落とし構えた、「破砕拳、一の技」
「波心掌!」そう言って、俺は獣の手で拳を作り勢いよくオブジェに叩き付けた。
すると、オブジェに振動が伝わり内部で破壊が進み粉微塵に崩れた。
破砕拳、それは極東にあるとされる国から伝わりし体術である、仕組みとしては人や物にある核つまり、身体や形にある芯を捉えて、そこに衝撃を加えて破壊する技である。
教官のジェロームは破砕拳の達人であり、最初の訓練として、まず芯を知覚するトレーニングを行った。
「この世界に存在するもの、つまり万物にはその形を創り上げる器が存在する、我々はそれを芯と呼んでいる」とジェロームが言った。
「すいません、抽象的過ぎて理解が難しいですと」俺が言うと。
「すまない、説明が複雑過ぎたな簡略的に言うと、急所と呼ばれる場所だ」と答えた。
「急所?と言うと、頭や心臓、もしくは男なら金的ですか?」と聞くと。
「そうだな、そしてそれらを総括して極東では人間の身体を真正面に見た時に、頭から喉そして丹田と呼ばれる腹の中心、そして最後に金的、それら全てを真っ直ぐな線で繋ぎ、浮かび上がる線を正中線と呼ぶ」
そう言って教官が俺の身体に触れた。
「そして、全ての物資にも綻びがある、それを見抜き衝撃を加える事で、とてつもない破壊力を生む」
そう言って、教官は俺から離れると近くにあった、柱の前まで行くと。
腰を深く落とし、拳を固めそして「は!」そう掛け声を上げ、柱の中心を拳で突くすると、3メートルはある石造りの柱にたちまち亀裂が入りそして、粉微塵に砕けた。
「君にはまず、芯を捉える訓練を行ってもらう」と静かに言った。
1週間経ったが俺は苦戦していた。
訓練内容はシンプルで岩を半獣化状態で砕くと言う物だったのだが。
「違う!それではただ力任せに殴っているだけだ、拳を見てみろ」
そう言われて見てみると俺の拳は真っ赤に染め上げられていた。
「その血は拳をただ打ち付けているからそうなるんだ、芯を捉えて砕けば血の一滴も出ない理想は血の一滴も出さずにその岩を砕くんだ」と教官が言った。
そう言われてみたのだが、原理が上手く掴めない教官と同じ構え、そして同じ場所を殴って見ても表面は割れても、あの時の様に粉微塵に砕けはしなかった。
「今日はここまでだ、厳しい事を言う様だが他の二人に比べて君はかなり苦戦している、このままでは彼等に置いていかれるぞ」と教官がいつもより強い口調で言った。
「そんなのは俺が一番分かっている、それに今のままじゃリサを助ける事も出来ないんだ!」
そう、俺は悔しさを滲ませながらその日は終わった。
そして、更に2週間経った。
「よく集中できているな、今ならいけそうだ」そう、ジェローム教官が俺を見て言った。
俺はこの2週間がむしゃらに岩を砕くのを辞めた。
その代わりにその岩を観察することにした、一概に岩と言っても様々な形があることに気づいた。
そして、それを考えて行くと、岩によって芯の位置が変わって行くと考えた、そして俺は一つの答えを見付けて今それを試す所だった。
俺は岩の前に立ち、教官の構えとは違い腰を落とさず真っ直ぐ達、そして、思いっきり突いた。
岩に拳が触れた瞬間、今までとは違う感覚を覚えた今まで岩に触れた感覚は見た目通りの堅い感触だった、だが今芯を捉えた感触はすんなり拳が岩の中にまで入って行く様な感覚になっていた。
そして、突いた後に岩を見ると教官の時は亀裂が入り粉微塵になったのだが、俺の時は違い亀裂が入るよりも前に岩が粉微塵になっていた。
「今まで、見た中で素晴らしい突きだ!」と教官が驚きながら言った。
「俺なりに考えた構えでやってしまいました、せっかくの教官の教えに背いてしまいすいません」と俺が謝ると。
「謝る必要はない、寧ろ私は君の成長曲線に驚いている」と教官が言った。
「2週間前の君はただ力任せに、私の真似をしているに過ぎなかった、ただそれだけでは君の成長を促す事にはならなかった、だがここで私が指摘しても君自身の自主性を潰してしまうと思っていたんだ」
「だが、君は自分なりに考えそして、破砕拳を自分なりの解釈で習得した、君のその努力と才能は私以上だ」と最高の賛辞を送ってくれた。
その後、俺は教官の元技を会得し、そして今回その中の一つを披露したのだ。
「これで、全員の課題が終わった、そしてこからが本題だ」と教官が言う。
「この課題を通して、君達はそれぞれ自分の能力の活かし方を学び、そして技えと昇華した、よって次の課題へと進む準備ができたと判断した」と教官が言った。
「次の課題ってなんですか?」と俺が聞くと。
「次の課題は君達に足りていない、経験を積んでもらう」
「足りていない経験?」
「君達には実戦を経験してもらう詳細は明日伝える、今日はこれにて解散だ」そう言って、課題授業が終わり次の課題である実戦を考え嫌な予感がしていた。
第9話 「完」
第10話に続く




