三つ子の魂百まで
「ねぇ、彼とは昔から知り合いなんでしょ?」
また聞かれた。いい加減正直に言おうかどうか迷うけど隠せと命令、いや頼まれたしな……。
「違うよー。ここで初めて会った人。面倒押し付けやすかったのか、目をつけられてさー。正直困ってるの」
後半は嘘ではない。小さい頃からのれっきとした事実だ。まさか社会人になってからまたこうなるとは夢にも思わなかったけど。
真実を少し混ぜると嘘を信じてもらいやすいらしいし、ちょっとは愚痴りたかった気持ちがあるのも事実。
しかし彼女の納得がいく答えではなかったようだ。
「えー? でもなんか、目が」
「目?」
大体男と固まっているあいつが話しかけてくる女はいつも私だけとか、何かと頼みごとをされている……実際は押し付けられているだけなのだが……とかそれらのせいで周りから不要な興味や敵意の目を向けられた。
確かにあいつは背も高いし、爽やかそうだし、ぱっと見顔も悪くないイケメンである。
しかし、あいつの中身はなにかにつけて親分になりたがる幼稚な、小学生と大差ない子供だ。幼き頃からの元子分であり、再び子分に復帰させられた私が断言する。私に恋愛感情はない。
あくまで親分と子分。親分気質のせいで今でも同期のリーダー格のあいつと同じく、今でも子分気質でおとなしく従ってしまう自分。
三つ子の魂百まで、というものだが本当にその通り過ぎて辛い。だけど、あいつの目が理由? どういう事?
「もうね、言っちゃ悪いけど……あなた鈍いわ」
「……私、鈍い?」
不思議そうな顔をしていたのが相当だったらしい。ため息をつかれる。そういえばまだ付き合いは浅いけど、普段からこの人は鋭い洞察力を垣間見せていた。もしや、私たちの過去を感付かれたの?
他の人にはしない雑で冷たい目をしたあいつや、脅迫めいた言葉を未だに受けている現実に遠くを見ていた私をどこかで見たのかも?
「そうよー。彼にあんなに、優しい眼差しで見られているというのに、ねぇ?」
「は、……優しい? そんな、馬鹿な、嘘でしょ?」
「目は口ほどに物を言うって言うじゃない。もし仮に、ここで初めて会った人にあの目で見られてるとしたら、それこそ運命的な一目惚れがあったとしか思えないわ。私は偶然にも初恋の相手……に再会したんだと踏んだけど。ほんと、どうしようもなく愛おしむものを見るような、優しい目線に見えたわ」
「いやいやいや、そんな事ないよ。だって、えぇ?」
ちょっと意味が分からない。万が一仮にそう見られていたとしても、全然優しい扱いはされてない。それにこの話だとあいつが私の事好きみたいな……、やはり分からない。
ああ、そういえば昔、私たちが付き合ってるのかなんとかで、あいつのことを好きな女子に問い詰められたけど、私も偶然その場にいたあいつもこの事は否定したなぁ。
数年ぶりにこの会社で再会した後でそれが変わったの? うーむ、そんなに人間変わるものなの?
「本題に入りましょう。二人は昔から知り合いだったんでしょ?」
「は、いや、その」
「知り合いじゃなくて元彼とか? 中学校ぐらいに清い付き合いだけしていた感じの」
「なっ!? そんな!」
グイグイ追い詰められる。もう白状しようか。私が正直に言ってもそれはそれで鈍いと言われる気がするし……。
「おい、ちょっと来い」
「あら……来たわね」
急でも誰だか分かる。そいつに腕を引っ張られて同僚から強制的に引き離された。急に打ち切られた尋問だったが、彼女はそれを不快に思うでもなく、むしろ確信を浮かべた笑みであっさりと見送ってくれた。
「お前……! 今、バラそうとしてただろ。ついでに俺の評判下げようと狙ってたろ!」
「し、してないしてない!」
離れたところで違う尋問が始まる。私はこのまま変な勘ぐりをされ続けていたら、いっそ自分が哀れな被害者だと盛りに盛ってバラそうと思っていたので指摘に焦ってしまう。
おのれ、何故分かった? あーやっぱり不機嫌そうな顔だ。あの子はこれのどこに優しい眼差しがあると思ったのか。少しはご自慢の営業スマイルを私にも向けてくれ。
「……あのさ、バレてもいいんじゃないの? 隠してもにじみ出る本性ってあると思うん」
「あ?」
「すみませんでした」
こっちは幼馴染だと知られたってなんの問題もない。自分が未だにいじめられてるというのは恥だがどうでもいい。隠せと言われたから従っているだけだ。
いい歳して同い年の女にマウントとってるなんて死ぬほど恥ずかしいという理由は分からなくもないが、隠す方が恥ずかしいと思う。
というか、こんなのそもそもしなきゃいいのでは?
「……クッソ、こっちもまさか大人になっても素直に従うとは思ってなかったんだよ」
「え? 聞き逃した。なんて?」
「あ?」
「再びすみません」
「いい加減キャラ変えづらいんだよ、馬鹿」
「なに? 馬鹿って言ったの?」
「はぁ、馬鹿は死ななきゃ治らないって言うが、ここまでか……」
よく分からないけど、もしかしたら私は自分が変わっていないからそう思い込んでいただけで、彼は昔とは変わっていたのかもしれない。
……じゃあなんで一緒にいるんだろ?
普段は怖いから見られない彼の目を不思議と見てしまう。一瞬ぎょっとした彼の目はじっと見つめると思ったより怖くなかった。




