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59 ダリアナの最後の旅

 腕の痛みで目が覚めた。

 宿だろう。ベッドの上だった。腕には包帯がされていた。


 ものすごく頭も痛い。何か夢を見ていた気がするけど思い出せない。


「目が覚めたの? これを飲みなさい。眠るほどじゃないけど少しは痛みが減るわ」


 私は水と一緒に渡された薬を飲んだ。


「あいつらは何も言わなければこれを手の甲にでもやるのよ。こんなのが手の甲にあったら外にいけないでしょう。だからこちらから肩を差し出したの」


 薄暗くてお母さんの顔はわからない。声の感じは普通だった。


「これは何?」


 泣きながら聞く。


「あの国に入れないって印よ。一生消えないわ。あんな国には一生行かないけどね。フンッ!」


 お母さんは侯爵夫人だったときとは全く違う人になっていた。でもなぜか今の方が生き生きしているように見える。


 夕食は部屋でとり痛みに耐えながらベッドに入った。


『頭の痛くなる夢は見たくないな』


 頭を抱えて蹲ると涙が止まらなくなった。


 朝食をとりここ数日と同じように馬車に乗る。腕はまだ痛い。


「今日の夕方にはオルグレンへ着くわ。ブラッドさんに会いに行くのは明日にしましょう」


 お母さんがウキウキしていることがわかる。私は窓から外を見て呟いた。


「お父様が亡くなってからいろいろと変なことになってしまったね」


『お父様は本当のお父様じゃなかったけどすごく優しかった気がする。もうあんまり覚えてないや……』


 街道が森に挟まれるようになった。


「そうね。私たちが元侯爵家の者だなんて誰も信じないでしょうね。ふふふ」


 お母さんが本当に楽しそうに小さな女の子みたいに笑っていた。


「面白い?」


「そりゃそうよ。私たちは自由なのよ」


 お母さんは両手を広げて大きな声で『自由』という言葉を使った。


「自由かぁ」


 お母さんと笑いあった。


 お昼過ぎた頃、急に道が悪くなったようで、馬車がガタガタと揺れだした。しばらくして馬車が止まる。


 馭者が扉を開けた。


「車輪がイカれた。取り替えるから、降りてくれ」


 そう言われて馬車を降りて数歩歩く。そこは鬱蒼とした森の中だった。


 誰かに腕を掴まれた。


 私が首をナイフで切られ倒れることが頭に浮かぶ。


 私がびっくりして振り向くとナイフが高くあげられていて私に向かって真っ直ぐ落ちてきた。


 私は遠い旅に出た。


〰 〰 〰


  不味いパンの食事になってから三日後の朝から先日の聴取部屋に連れていかれた。


「刑罰が確定した。国外追放だ」


「は? 何それ? 私たちが何をしたっていうのよっ!」


 私は立ち上がって反論したけど近衛兵は睨みをきかせ立ち上がって私の肩を下に押して私を無理やり座らせた。

 

「王家への殺人教唆だよ。その割には軽い罰だろうがっ!」「何も知らないって言ったはずだけどっ」


 顔を近づけて被せるように文句を言ってやる。


「それを証明できてないだろう」


「ないものは証明できないわよっ!」


「王族への反乱行動は疑惑や未遂で充分なんだよ。それが王国ってもんだ。

これでも嬢ちゃんがまだ学園に入る年にもならんから軽罰で済んだんだ。嬢ちゃんに感謝しなっ」


 小馬鹿にしたような下卑た笑いをしてきた様子を見ると何を言っても無駄なのだろう。


「ちなみにゲラティル子爵家も爵位降格の上で領地半減だ」


「あそこは関係ないじゃないのっ!」


 一応反応はしてみたがよくよく考えれば私には関係のない話だ。


「貴族の管理責任ってのはそんなもんなんだよ。そのために優遇されてるのが貴族ってもんだろうが。その年まで貴族でいたくせにそんなことも知らないのか?」


 そいつがシッシッという手付きをすると部下と思われる奴らが私の両脇を抑えて外へと連れ出された。


 それから数分後には馬車に乗せられて馬車の中で寝泊まりしながら子爵家に到着すると荷物も持たせてもらえた。さらには兄が帰って来る前に家を出られたのは僥倖だ。


 子爵家からは雇われ馭者だったから金を渡せばある程度融通は聞いたし確かに王族に危害を加えたと思われたなら破格の扱いなのだろう。


 私はこの金を使って隣国のオルグレンでバリーと店でもやろうと考えた。ダリアナはもう平民なのだ。気にすることはないだろう。


『オールポッド侯爵家からの迎えが待てなかったことは残念だけど噂が広まって困窮するって数年はかかりそうだものね。しかたがないわ』


 私はバリーとの生活を考えてウキウキした。


「本当にお金を貯めておいてよかったわ」


 馬車の窓から見える空は突き抜けるような青空だった。

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