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50 襲撃事件

 翌週、兄上は護衛を増やしてお祖父様に会いに行かれた。二日目に早馬が来たときには心臓が飛び跳ねた。

 父上が手紙に目を通す。


「お祖父様のところへ無事に到着したそうだ」


 ただ、それだけの連絡だった。


「ほぉ…」

 

 僕はため息をつき部屋に戻ってソファーに座り込むと涙が溢れた。メイドに見つからないように急いで洗面所へ顔を洗いに行った。


『なんとなく切り抜けられた気がする。

うん。大丈夫、大丈夫』


 鏡の中の自分を説得してパチンの両頬を叩いた。


 それから十日目に兄上が無事に戻ってきた。みんなと挨拶をして落ち着いたとき兄上から声がかかった。


「バージル。ちょっと話があるんだ。僕の勉強室へ来てくれ」


 兄上に付いていく。

 この部屋は将来兄上の書斎兼執務室になる部屋で机と本棚とソファーだけの調度品などがないシンプルな部屋だ。


「兄上。これが約束の辞書です。ご無事で何よりです」


「それは遠慮しておくよ。それより話をしたいんだ。座ってくれ」


 兄上はいつになく真面目な顔だった。つい先程までの明るく茶目っ気のある兄上ではない。

 僕たちはソファーに向かい合って座る。


「何か飲むか?」


「大丈夫です」


「うん。じゃあ、早速本題なんだけど。父上や陛下には早馬が行っているが実は行き掛けに野盗に襲われたんだ」


 まるで調査書を読むかのように言う兄上の言葉を僕が理解するのに少し間があった。


「………え!! 早馬は無事に到着した連絡だと聞きました」


「無事に到着したのは本当だし、父上が家族のみんなを心配させないための配慮だろう。

とにかく、それでな……。まあ、護衛が言うには『元の人数だったら勝てていたかわからない』というのだ。つまりお前に護衛を増やせと言われて助かったというわけさ」


 まさに僕が見た夢はそれだった。

 兄上が誰かに草の上で襲われている時少し遠くに馬車が見えた気がしていた。そして、早馬。夢の中の父上は早馬から連絡を受け取り僕たちに『アレクシスが死んだ』と告げるのだ。


 僕は相似点に少し震えてしまった。今まではクララへの暴言や僕とダリアナ嬢の逢瀬のシーンであったが、夢の中で兄上が死んだシーンでなくとも兄上が逃げていたシーンはこうして無事に帰ってきてくれても頭を離れない。


「そこで、な……。なぁ、バージル。お前は護衛の人数を増やせと言った……。

お前には私達が襲われることがわかっていた? ……かのようだ……。なぜなんだ?」


 兄上はとても歯切れの悪い言い方をした。


「話してもわかってもらえることではありません」


 これは僕の本当の気持ちだ。だって夢だなんて……。


「お前が疑われることになってもか?」


 兄上のあまりの一言に僕は頭がカッとなり顔が熱くなるのを感じた。それでも怒鳴ることなく言葉を紡ぐ。少しだけ声が震えてしまった。


「どういうことですか?」


「……あくまでも噂の一つだ。

第二王子が第一王子の命を狙っているという噂がある」


 僕には兄上の言い分が全く理解できなかった。 


「だから何なんですかっ!?」


 僕はまさかのことに少し強く言ってしまった。


「そんなに怒るなよ。もしもの話だ」


 兄上のバツの悪そうな顔を見ても僕の怒りは収まらなかった。


「僕は僕のためにも兄上に無事に帰ってきてほしかったんだ。なのに……」


 僕は兄上にも聞こえないような小さな声で愚痴をこぼした。そうしなければ爆発してしまいそうだった。


「……ん? お前のため?」


 僕は少し恨めしい目で兄上を見ると兄上は困った顔をしていた。


「ここからは父上も一緒に話した方がよさそうだ」


 兄上の提案で父上に相談することになり二人で父上の執務室に向かった。

 父上はすぐに僕たちを受け入れてくれて執務室のソファーで父上の向かい側に兄上と僕が並んで座る。


「二人でどうしたのだ?」


「今回のことで、少し……」


 兄上が父上にここまでのことを話した。


「なるほどな。まず、なぜバージルが疑われるのかを説明せねばバージルは考えの出どころを言わないだろうな」


「わかりました。バージル、私がお前を疑うことはないよ。それは頭に入れておいてほしい」


 兄上が必死に見えたので僕は頷いた。

 

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