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41 アレクシスに関する夢

 僕と護衛の一人は信用できるメイド二人のうちの一人に案内されて客室へ行った。本当に内鍵ができる部屋だった。


「只今お夕食をご用意しております」


「悪いけど後でここに簡易ベッドをくれるかい? 今日、護衛には無理をさせてるからね。交代で寝てもらいたいんだ」


「ボブバージル様。我々でしたら大丈夫です。一晩や二晩寝ずに護衛することなど何度もしておりますから」


 護衛が手を横に振り拒否する姿勢を表すもそれが僕のためであることはわかっている。だからこそ僕は強めに言った。


「明日もクララが無事かわからないでしょう? そんな時君らが動けないと困るんだ。僕からのお願いだよ。それに僕と同じ部屋に寝てれば安心でしょう?」


「それはそうですが……」


「じゃあ、決まりねっ!」


 最後は僕の子供らしい笑顔で締めくくれば護衛には拒否はできない。もしかしたらベッドがあっても寝ないのかもしれない。だが、主人である僕が休めと言っておけばベッドでくつろぐぐらいはしてくれるだろう。


 そこへ食事が届いてそれをソファー席に並べてくれる。


「ここはしばらくわたくしどもがおりますし鍵もかけます。護衛様は食堂で召し上がってきてくださいませ。食堂には信用できる者だけにしてきましたから。

お嬢様のお部屋の前にも信用できる使用人をつけております」


「では、有り難く」


 護衛が出ていくとメイドが鍵を閉める。それと同時に二人が僕に土下座した。


「坊ちゃま! 本当にありがとうございました。わたくしたちは! わたくしたちはっ! クラリッサお嬢様の専属を外され調理場と洗濯場の担当にさせられたのです。さらにそこの人数を減らされてあまりの忙しさにお嬢様のご様子をなかなか見にもいけず。わたくしどもが不甲斐ないばかりに申し訳ありません」


 メイド二人は頭を床に擦付け懸命にうったえてきた。僕は初めから彼女たちを責めるつもりはないし彼女たちにお礼を言われることはしていない。


「とりあえず顔をあげて立ってくれるかな?」


「は、はい……」


 二人は立ち上がり僕の顔を見た。


「君たちは使用人として働くから生活していけてるのでしょう。それなら仕方ないさ。

僕も前の執事の顔は覚えていたけど君たちの顔まで覚えてなくてごめんね」


 小首を傾げて謝ってみれば彼女たちは恐縮して手をブンブンと左右させた。


「と、と、と、とんでもないことでございますっ!」


「今日、クララが少しでも回復できたのはクララが君たちを信用していたからだろう。それは以前から君たちが築いてきたクララとの関係だよね。だからさっ、僕のお陰じゃないよ。

クララを支えてきてくれてありがとう。これからもクララをよろしくね」


 僕は満面の笑顔を彼女たちに向けた。


「「はい、はい、はい……」」


 二人は泣きながら頷いた。


「お腹すいちゃった。もう食べていい?」


「ふふハハ、そうでございますね。どうぞお召し上がりください」


 急に子供らしくなった僕に二人は笑っていた。


 僕が食べ終わる前に護衛の二人は戻ってきた。


「では、明日、お嬢様のお時間に合わせてお声掛けいたします。おやすみなさいませ」

 

 そう言って蝋燭の灯りを消した護衛の一人は窓際に椅子をおいて影に座っているようだ。もう一人は部屋の隅に用意されたベッドにいるはずだ。僕からは何も見えないけど。


「おやすみ。明日もよろしくね」


「「はっ、おやすみなさいませ」」


 左右から声が聞こえた。あんなへんな人たちがいる家だけど彼らのお陰で僕は安心して眠れるのだ。僕はどうやら気が張っていたらしい。彼らの声にホッしてすぐに眠りに落ちた。


〰️ 〰️ 〰️


 続きらしい夢を見た。兄アレクシスに関する夢だ。


『アレクシスが死んだ……』

『やっぱり、わたくしを迎えに来てくださったのね』

『ジル、お幸せに。わたくしは領地へ戻ります』

『ボブ様、わたくし、公爵夫人に相応しくなるために頑張りますわ』

『ああ、ダリアナ。僕の天使。ずっと君を愛していたんだ』


 僕は、僕の愛の言葉に頭痛と吐き気を感じて目を覚ました。


「坊ちゃま。おはようございます。ご気分でもお悪いのですか? 眠れませんでしたか?」


 護衛が心配してくれるからそれほど僕の顔色はよくないのだろう。あの夢を見た後はいつもそうだ。普段はメイドが来る前に顔を洗って誤魔化すが今日は同部屋なので誤魔化せなかった。


「寝れたよ。大丈夫。

それより、兄上がお祖父様のところへ行かれるのっていつだったけ?」


 暗に『聞かないで』ということは伝わる。それだけの時間を彼らとは過ごしている。


「来週の頭です。我々も同行することになっております」


「わかった。顔洗ってくるね」


 僕は元気に見せるためにベッドから少しピョンと飛び起きてレストルームへ向かった。

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