21 ダリアナの誘惑
クララのお見舞いに行くという提案をした僕にダリアナはびっくりした表情をした。
「あ、あ、でも!」
ダリアナ嬢は手に持っているハンカチに視線を落とした。以前もあったがきっとマクナイト伯爵夫人から渡されたメモを持っているに違いない。
「クラリッサお義姉様はボブバージル様に心配をかけたくなくって…
えっと…だから…わたくしに行けと言ったのですわ。
それで…ボブバージル様がお義姉様のお見舞いに行くと、
ん? あれ? あ、ここだ。お義姉様のお気持ちを無駄になさることになりますわ」
『文もまともに読めないのか? 読んでいることをバレないようにする配慮はできないのか? 独り言まで同じ音量とはどういう神経なのだ?
それにメモもひどい内容だな。心配なのはクララのことか? 自分がここにいられなくなることか?』
僕はダリアナ嬢の言葉を素直にとることはできない。
どちらにせよダリアナ嬢を公爵邸に招き入れるわけにはいかないし彼女と二人になるなんてとんでもないことだ。そんなことをすればどんな話に誇張されて噂を撒かれるかわかったものではない。
「そうか……。そこまでいうなら訪問は諦めよう。伝言ありがとう。お帰りいただいて結構だよ」
僕ははっきり拒絶してくるりと背を向けた。だがダリアナ嬢はこれまでのごとく全く気に留めることもなく僕の腕にからまってくる。僕は背筋がざわりとして硬直してしまった。
「もう! 真面目さんねっ!
ここにはお義姉様はいないのよ。あなたの気持ちを隠さなくていいの」
ダリアナ嬢が卑猥さを感じさせる上目遣いで僕を見てきた。
『あなたの気持ちを隠さなくていいの』
頭の芯がカッと熱くなり額から眉尻へと汗が伝う。
『僕が僕の気持ちを隠すだって?』
こんなにはっきり拒絶しているのにわからない相手に何をどう隠すというのだ。
『僕が会いたいのはクララだ。ダリアナ嬢とは一刻も早く離れたい』
それが僕の気持ちなのに……僕の体が思うように動かない。
「初めて会ったあの時にわたくしを見てあまりの美しさに驚かれたのでしょう?
あの時のボブバージル様ったらとても可愛らしかったわぁ。すぐにわたくしに一目惚れしたのだとわかりましたもの。
わたくしも一目見たときからボブバージル様のことをステキだなって思いましたのよ。
わたくしたちは惹かれ合っているのです」
昨夜聞いたセリフで見ずともダリアナ嬢の恍惚とした顔が脳裏に浮かぶ。
『誰が誰に一目惚れだ? 冗談じゃない!』
僕は一目惚れなどするタイプではない。相手を観察し相手の性格などに少しでも興味を持たないと付き合いができないタイプだ。
ダリアナ嬢に対しては興味どころか嫌悪しかないのだから付き合いなどできるわけがない。
それなのに……
『わたくしたちは、惹かれ合っているのです』
『その天使をどんどん好きになっていく』
僕の頭はグラグラする。これは夢? 現実? どちらの天使が言ってる言葉だ? グラグラ、グラグラ、倒れてしまいそうだ。
「やっとお義姉様の目のないところで二人になれたのです。
ボブバージル様のお部屋へ行きたいわぁ。
お部屋からはメイドにも出ていっていただきましょうね。
本当の二人きりになるのよ」
『ボブバージル様のお部屋へ行きたいわ』
夢の中でもそう言っていたがそんな勝手はゆるさない。
天使は僕の手を握りしめてきた。僕は天使を思いっきり振り払い側にいたメイドに抱きつくとメイドは僕の顔色の悪さに悲鳴をあげて執事は僕とダリアナ嬢を引き剥がし僕は部屋に運ばれた。
ダリアナは部屋までは来なかったから執事が僕の意思をわかってくれたのだろう。
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でも、ボブバージル様と運命の出逢いをしてから二ヶ月。ボブバージル様は諦めないお義姉様に嫌気がして伯爵邸にいらしてくれなくなった。そして、ボブバージル様はお義姉様を説得するために公爵邸にお義姉様を呼び出した。
「お義姉様の説得は私とお母様がしてるから大丈夫なのに。私が公爵邸へ行って、ボブバージル様を安心させてあげなくちゃ!」
そして、私は約束の日に公爵邸へ伺った。




