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17 公爵家当主の許可

 朝、僕は頭痛で目が覚めた。


『お義姉様はボブバージル様を大切になさるおつもりがないのかしら?』


 これは昨晩の僕の夢でのダリアナ嬢のセリフだ。それは本当にありえないので僕は頭痛が治まるとマクナイト伯爵邸へ行く支度をした。執事に頼んでいつものように先触れの手紙を贈ってもらう。

 文配達係の使用人がマクナイト伯爵家が僕の来訪を了承したと伝えてきたので僕は昼食後に馬車に乗りマクナイト伯爵邸へ赴いた。


 僕を出迎えたのはいつもの場違いな格好のダリアナ嬢だった。僕はキョロキョロと見回す。


「ボブバージル様。応接室におりますわ」


 僕はホッとしてダリアナ嬢と執事服の男についていった。


 しかし応接室に入って驚いた。そこにいたのは……

 エイダ・マクナイト伯爵夫人で伯爵夫人は僕の顔を見て立ち上がる。


「ボブバージル様。ようこそおいでくださいました。

ですが、残念ながらわたくしは出かけなければなりませんの。ダリアナがお相手いたしますのでご安心くださいませね」


 満面の笑みを見せる伯爵夫人の出かける予定など僕は興味もない。


「それよりクララはどうしたのですか?」


「それも後ほどダリアナがご説明いたしますわ。まずは落ち着いてお座りになってお茶を召し上がってくださいな」


 僕は促されて渋々ソファーに腰を下ろした。テーブルの中央の皿には歪な形のスコーンが山のように盛られている。


『まずそうだな…』


 僕が腰を下ろす頃には伯爵夫人は退室していて僕の正面にダリアナ嬢が座る。


「ボブバージル様のお好みだと伺ったのでスコーンを作りましたの。召し上がってくださいな」


「昼食を食べすぎてしまってね。すまないが今日はいただけそうもない」


「それは残念ですわ。次はお腹を空かせて来てくだいね」


「公爵家の者として他家に空腹で訪問するなど矜持に関わる問題だ。公爵家は食料事情に問題が発生していると伯爵邸で奉公している者たちに誤認識されては沽券に関わる。それでも空腹での来訪を要望するというのなら公爵家当主宛に書面にて許可願いをしていただくこになるがそれでいいかな?」


 僕はわざとダリアナ嬢に理解できなさそうな語句を並べて一気に言い切った。ダリアナ嬢も執事服の男も口をパカリと開いている。態度の悪いメイドはトレーを持ったまま硬直していた。


『そこまでよく開くものだ。唖然とするのは構わないが淑女として扇くらい用意しておくべきだろう。執事とメイドは大人だろう? まさか僕の言葉が理解できなかったのか?』


 僕はわざとドンとソファーにふんぞり返り不機嫌さを表す。


「君、執事なのだろう? 公爵家当主宛の許可願いの書類をそろえに行かないのかい?

それから、その不味そうな香りのお茶は遠慮しよう。

それより、そろそろクララに会いたいんだけど」


 執事は公爵家当主と言われて顔を青くして震えるだけでメイドは顔を引きつかせて音を立ててワゴンにトレーを戻した。メイドが動いたことでやっとダリアナ嬢がハッと我に返った。


「あ。あの。クラリッサお義姉様は今は屋敷におりませんの」


「なぜ? 僕は午前中に訪問の先触れを出して訪問の了承を得たはずだけど?」


「ボブバージル様からのお手紙にお返事したすぐ後にお義姉様のお友達からお茶会のお誘いがありましたの」


 ダリアナ嬢が自分の手元に視線を送る。

 

「えっと、それで、わたくしはお義姉様にボブバージル様とのお約束がありますよと…言ったのですけど……

あの、それから、え……、そう! お義姉様はボブバージル様なら放っておいて大丈夫だと言って出かけてしまいましたのよ」


 ダリアナ嬢は決められたセリフをやっと読み終えたようで顔上げて笑顔になっていた。僕はため息を飲み込むような余裕はダリアナ嬢の次の言葉で吹き飛んだ。


「酷いでしょう?

お義姉様はボブバージル様を大切になさるおつもりがないのかしら?」


 僕は奥歯を噛み締めて目眩に耐えた。



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