勇者ケイリッド
ケイリッドは何でもないただの村のただの農家の次男だった。
彼が魔王の重い税に反対の声を上げ、魔王軍に殴りかかったことも、ありふれていて特筆するには値しない。
だが、彼が素手で武装した魔王軍5人を倒したことから、彼の冒険は始まった。
各地で魔王軍の横暴を押し止めるうちに、彼には多くの仲間ができた。
剣士マサシ、魔術師ビアンカ、僧侶アゲハ、他にも賛同する人達を味方につけ、50人以上にもなるレジスタンスを作り上げた。
魔王軍幹部であるマルコシアスが度々訪れるという娼館を見つけ、
強襲した。
そして、敗北した。
「あ〜あ、せっかくの楽しみを邪魔しやがって、ったく。」
仲間の一人、辛うじて生きてる、を椅子代わりに座りながらマルコシアスはぼやいた。
先程まで50にも及ぶ敵と戦ったとは思えない気楽さであった。
「薄汚い身体をどけやがれ…。」
最後までマルコシアスに抵抗し続け、それでも地に伏せたケイリッドは、それでもマルコシアスに強い意志を持って睨みつけた。
「あん?敗けたくせに粋がんなよ。面倒くせぇな。」
勝利したマルコシアスは意にも介さない。
「仲間を…離せ…っ!」
左手は最初に折られた。両方の足も動かない。
満足に動かせるのは右手だけ。それでも仲間を足蹴にされて止まってるれるほどケイリッドは諦めが良くない。
右腕だけで身体を起こしたケイリッドに
「うるせぇって。」
マルコシアスは仲間の顔を蹴ることで答えた。
魔王軍幹部であるマルコシアスの蹴りをまともに入れられた仲間は悲鳴一つ上げることなく動かなくなった。
「な…何しやがるっ!」
「だからうるせえって。」
激昂するケイリッドに、なおもマルコシアスは仲間を殺すことで答える。
「お前が喋るたびに、てめぇの仲間を一人ずつ殺す。」
「ふざけるなっ!」
「頭悪ぃな、こいつ。」
マルコシアスが雑に木片を投げてまた仲間にぶつける。
もうまともに受け身すら取れない仲間が、まともに頭から木片を食らう。
いつもそうだ。こいつら。
徒に村を焼いた様に。
どこまでも理不尽に、意味のないルールを作りそれに則って人を殺す。
許せない!俺はー!
「命を!なんだと思ってー
「もう黙れよ!」
マルコシアスではなかった。それはーマサシだった。
「…へ……?」
「さっきからお前のせいで仲間が死んでるんだぞ!」
何を…。だって、殺してるのはこいつで、
「俺は…。」
「お、てめぇは物わかりがいいな。気に入ったぜ。」
マルコシアスが倒れていたマサシを起こしあげる。
「あ、ありがとうございます。も、うしわけありませんでした。歯向かったりして。」
「気にすんな。喧嘩して負けたやつが従う、それだけだ。ああ…とはいえ女将に謝りにいくぞ。店の弁償はしろよ?」
「ま…て!」
「喋るなって言ってるだろ!」
今度もマルコシアスじゃなかった。マサシだった。
俺を殴ったのは。
「ああ、今のはどうすっかな。まいっか、面白ぇし。」