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葛藤

 彼が戻ってきたのは授業が終わった後のホームルームの時、よそよそしく教室をノックした後にゆっくりと扉が開いた。


 体育前に噂話をしていたクラスメイトはいたたまれないのか彼から目を逸らす。数人の生徒と先生が彼の事を心配していた。


 微笑を浮かべた彼はゆっくりとした足取りで自分の席へ向かっている。やはりどこか体調が悪いのかも。自分の席まであと1歩という所で彼の足が力を失う。


 ガタンッ


 咄嗟に私は席を立ち彼の体を支えていた。


「っと……大丈夫?」


 なんて軽い体なんだろう。

 私が彼の体に触れた最初の印象。


 彼は一瞬ビクッとしていたけど、私の顔を1度見ると崩れ落ちそうな表情でお礼を言う。


桃宮ももみやさん……ありがとう」

「……うん」


「ごめんね」

「うん?」


 自力で机に掴まると私の肩に触れようとした手を引っ込める。なんで謝られたのかわからない私に彼は頬を掻きながら照れくさそうに。


「昨日の事も、今日の事も、それから……」

「昨日の……」


 昨日の事っていうのは私の水平線を眺めていた事。今日の事っていうのはもしかして今なのかな。「それから」の後の言葉は聞こえてこない。


「ヒューヒューおアツいねぇ」

「もう付き合っちゃえよ!」

「愛想のねぇ桃宮にはお似合いだぜ」


 ヤンチャな男子達が私達を見てはやし立てる。


「なんだとゴラァ!」


 恥ずかしくなった私は男子達に向かって少し素を出してしまった。


「あっ……」


 しまった。

 私は昔からこうだ。からかわれたり嫌味を言われたりするとすぐ噛み付いてしまう。かおるの事を喧嘩っぱやいとはあまり言えない。


「あははは……桃宮さんは面白いね」


 頬から火が出そうだ。


 朗らかに笑う彼は自分の席に着くと大きく深呼吸して更に柔らかな笑みを浮かべる。


「学校って、色んな人がいて楽しい所だね。心配してくれてありがとう桃宮さん」


 まるで初めて学校に来ましたって感じの言葉。それにそんな消え入りそうな声で言われたら何も言えなくなるじゃない。



 ――――――

 ――――

 ――



 モヤモヤした気持ちで帰り道を歩く。親友達は各々やる事があるので帰りは1人になりがち。


 今日の朝から今までの事を考えると色んな感情が渦巻いてくる。

 

 こんな気持ちの時はあそこに行こう!


 私は気持ちが落ち着かない時に、よく行くお気に入りの場所がある。


 その場所は丘の上に大きな木があり古い家が建っている所。街が一望できて夕日がとても綺麗に見えるのだ。


 しばらく歩いて目的の場所へ行くと大きな木が私を出迎えてくれる。


 やっぱり落ち着くな。


 その大木は変わる事なくこの場所に在り続ける存在。私の小さな悩みなんてこの木に比べたら。


「はぁ……やっぱりビンタした事ちゃんと謝りたいな」


 なし崩し的に彼と話す事は出来たけど面と向かって謝罪が出来ていない。一応彼から謝って貰ったのだからこっちも誠意を見せないとね。


 グダグダと考えていると坂の下から大きな声が聞こえた。


「お〜い桃太郎ももたろう!」


 ビクッと肩が震える。


 いきなり声をかけられるなんて……いやそれよりも、私の昔の悪しきあだ名を呼ばれた事にビックリしたのだ。


 誰なの?


 身を隠すようにしゃがんで声の主を探すけど、どうやら私に対して掛けた言葉じゃないらしい。


 古い家の柵の中に犬が見える。そしてその犬に対して坂道の下から手を振る一人の男の子。


「アレ? もしかして……」


 犬に手を振っている男の子は先程までの心の住人。鬼神千姫おにがみせんきその人だった。


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