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桃の花をあなたに〜花言葉をキミに贈ろう〜  作者: トン之助


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紅葉

 夏休みが終わり学校が始まった頃、正直不安でいっぱいだった。だけど、そんな不安を打ち消すように彼は何事も無かったように学校に登校している。


 クラスメイト達は驚いていたけど、彼が親身になって話した事で納得している者も多い。それに彼の物語を聞いて涙ぐむ人もいた。以前より明るくなった彼の雰囲気もあってかクラス内がグッと近づいた気がした。


 学校にも慣れて来た頃、彼のリハビリも本格的になり私も一緒に病院に行く事が多くなる。


千姫せんきどう?」

「うん、前より感覚が鋭くなったかも、ちょっとつねってみてよ?」


「えぇいいの?」

「うん、雪音ゆきねになら」


「その返しは微妙なんだけど……えいっ」

「痛てっ! 強すぎるよ雪音」

「ふふふっ、感度は良好みたいだね」


 希望が見えたバーベキューから私と彼はだいたいこんな感じで日々を過ごしている。


 学校での昼食は5人で毎日一緒に食べるようにした。まるで忘れていた過去を埋め合わせるように。

 晴れの日は外で雨の日は教室や学食で……そうした日々を過ごしていくと、秋の訪れを報せる木枯らしが吹く。


「今日は何食べたい?」

「そうだねぇ、冷蔵庫に何があったっけ?」

「えっと、椎茸と牛肉と白菜だったかな?」


 病院からの夕暮れの帰り道、彼の車椅子を押しながら今晩の献立を相談し合う。


 なんだか夫婦みたい。私はもうすぐ結婚できる年齢だけど、千姫はあと2年もあるのか……2年。


 その数字を思い出した時に私の心がチクリと痛む。なるべく考えないように頭をブンブン振って話を戻す。


「今日は少し肌寒いから鍋なんてどう?」

「いいね鍋! 闇鍋にする?」


「千姫に任せたら、ありえない食材入れそうだから却下」

「えぇ、僕そんな事しないよ〜」

「桃太郎にスナック菓子あげようとしてた人が何を言うか〜この口が言うんだな〜」


 グ二グ二。


「いふぁいよ、ゆふぃねぇ〜」

「あっはは、へんな顔」


 じゃれないながらスーパーに行き足りない食材と鍋の元を買い揃える。


「ねぇ雪音」

「どうしたの?」

「ソラ達も呼ばない?」


 学校でも良くしてくれる幼馴染達に何か恩返しをしようという事かもしれない。


「確かにふたりで鍋もいいけど、みんなと食べた方が楽しいもんね!」

「ごめんね、ふたりで食べたかった?」


「まぁ、ちょっとは妬けちゃうけどね」

「ふぉふぉふぉ……雪音は素直になったねぇ」

「おじいちゃんか!」


 私はスマホのグループメッセージでみんなの予定を聞いてみる。ソラは一瞬でOKと返ってきた。ちなみに桃太郎にお土産を買ってくるとか。


「どんだけ桃太郎の事好きなのよ」

「ソラって動物に好かれやすいのかな?」

「普段は寡黙で近寄るなオーラが凄いからね。ギャップかも」


 食材を買い足していると、咲葉さくはとかおるからも食べたいとの返事があった。


「よーし帰って仕込みますか!」

「おぉ!」


 ――――――


「おう! 食べに来たぜ」

「お待たせ。食材足りなそうだから買ってきたわ」

「桃太郎はどこ?」


 相変わらずドタバタな3人組は自由だ。


「みんなお疲れ様、わざわざ来てくれてありがとう」


「なに、私と千姫の仲だろう?」

「お父さんも来たいって言ってたけど、お母さんに怒られてた」

「フフ……タダ飯が食えると聞いて」


「ソラからはお金を取るわ」

「そんな横暴なっ! 雪音の鬼、悪魔!」


「ふっふっふ。いずれ鬼神雪音おにがみゆきねになるのよ! それくらいじゃ動じないわ」


「なっ!」

「雪音が本気だ」

「今日はお赤飯の方が良かったかしら」


 私は彼と暮らし始めて自分に正直に生きようと思う。


「ゆ、ゆきねぇ……まだ早いよ〜」

「だって、夏休み最終日に誓ったじゃん!」


「あ、あれはふたりだけの秘密にしようって」

「いいじゃない、結婚式にも呼ぶんだから」

「ふしゅ〜」


 千姫は初心うぶなのでこういう話題に弱い。もちろん私も恥ずかしいけど、この絆を確実なものにする為にためらわないことにした。


「じゃあ、いい感じに出来た所で食べようか」


「「「「「いただきま〜す」」」」」



 やっぱりみんなで食べる鍋は、賑やかで楽しい。


 ――――――

 ――――

 ――


 鍋を囲った翌日の土曜日。私と彼は近くの公園に足を運んだ。

 昨日の夜テレビを見ていると紅葉が見頃なのだとか。そんな事を聞いたら来ない訳にはいかない。


「わぁ。秋ってこんなに綺麗なんだね」

「ふふ、秋って何よ秋って」


「いやぁ秋ってなんだか物悲しく感じちゃって」

「わからなくもないけど、この景色はこの瞬間にしか見れないものよ? 藤園で千姫が言ってたじゃない」

「た、確かに……」


 池のほとりを歩きながら彼の車椅子を押す。


「最近にしては暖かくて良かったね」

「うん、今日は体の調子もいいから楽しめるね」


 鳥たちが愛を奏でるかたわらで私と彼のはランチボックスを開く。


「ねぇ千姫、このサンドウィッチだけどさ」

「うん」


「本当は藤園で持ってくるハズだったものなんだよね」

「……これが伝説の」


「もうっ! 茶化さないでよ」

「あははごめんごめん……でもそっか、なんか感慨深いね」


「味わって食べてね」

「うん。いただきます」


 彼は私が作ったサンドウィッチを空を見上げ噛み締めるように食べ始めた。



「……おいしい」




 囁く声の彼の目から幸せがこぼれ落ちる。


「な、泣かないでよ……わ、私まで」

「ほんとにおいしいよ、雪音」


 彼と過ごすようになって涙脆くなっている自覚はある。何気ないひと時に幸せを感じることができるから。それはきっと時間が有限で尊いものだと教えてくれた人がいるから。


 私の隣に。


「ねぇ雪音」

「なに?」


 私も同じサンドウィッチを食べて一緒の時間を味わう。


「ちょっと早いかもだけどさ」

「……うん」


「クリスマスの雪音の誕生日。何か欲しいものある?」

「……私の誕生日?」


 確かに今の季節は秋だけど、あっという間に冬が来る。


「千姫とずっと一緒にいたい」

「僕はずっと一緒だよ」


「うん、そうなんだけど……う〜ん」

「できれば形に残る物とかがいいかなぁって」


 彼が言った『残る』の意味をあまり考えないようにして私はしばらく頭を悩ませる。


「……あのね」

「うん」


「その……変に思わないでね?」

「大丈夫だよ」


 見上げた木には二羽のハクセキレイがじゃれ合っている。もしかしたら恋人かもしれないし夫婦かもしれない。


「ゆ、ゆゆ……」

「ゆ?」


 勇気を出すんだ雪音!

 私の名前は桃宮雪音!

 鬼神千姫の世界を桃色に変える女よ!



「指輪が欲しい……かな」

「ゆ、指輪!?」


「うん。 婚約指輪!」


 周りに人が居なかったから良かったけど、ずいぶん大きな声が出ていた。


「……ダメかな?」


 半分断られると思った私は恐る恐る目を開く。


「一緒に」

「ん?」


「一緒に選びに行こう……雪音」

「うん……大好きだよ千姫」



 赤と黄色が織り成す暖色の風景。そこには二羽のハクセキレイと、紅葉より紅いふたりの顔が重なり合う。

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