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桃の花をあなたに〜花言葉をキミに贈ろう〜  作者: トン之助


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18/52

昼食

 私が彼をお昼に誘った。


 この事実だけを見ればカップルのそれに思うかもしれない。

 だけど私はそういうのではなくもっと別の感情……そう、母性本能的な意味で捉える事で自分を納得させていた。


 その日は暖かな日差しが気持ちいい絶好のお弁当日和。ただ鬼神おにがみくんと一緒にお昼を食べる。その事が今の私にとってほんの少しだけ特別に思えた。


「かおる、今日のお昼はちょっと1人で食べるから」


 教室に到着すると私の席の周りにはいつもの3人の姿があった。


 てか、なんで私の席の周りにいるのよ?


 私は平静を装いながら1番良識があるかおるに話を振る。しかし、物事とは上手くいかないのが常である。


雪音ゆきね……怪しい」

「べ、別に怪しくないわよ」


 ソラである。

 いつもいつもいつもいつも私をからかう忍者少女。ことある事に現れる摩訶不思議な存在。


「だってこの前、私のスマホで……もがぁ」


 危なかった……口を塞がないとこの子はある事ない事言いふらす。見た目は口が硬そうな無表情だけど、その実ゴシップネタが大好きなゴシップガールなのよ。


「なるほど……鬼神か」

「鬼神君ね」


 なんでバレた?


「だってソラから愚痴聞いたし」

「がはっ」


 やはりお前かぁ!


「うん、雪音が鬼神君と他人のスマホでラブラブコールしてたって」

「フフ……時……既に遅し」


 いつの間にか私の束縛から逃れていたソラが2人の側に仁王立ちになり勝ち誇った顔をしている。


「ぐぬぬぬぬ……策士め」


 私はやり場のない思いと悔しさを悪態として口走っていた。


「まぁ2人の邪魔はしねぇけどな」

「そうねぇ、せっかくの機会ですし」

「フフ……今日は見逃してやろう」


 汗のように張り付く笑みがおぞましい。


 ダメだ。この3人は私を玩具にして楽しんでいる。


 それ以上の追求がくるかと思っていたけど3人は何も言ってこなかった。それどころかどこか私を見る目が暖かな光を宿す。


「どうしたのよ?」


 いつもならマシンガンの如く追求してくるのに今日は違う。不思議に思って尋ねてみたが返ってくる返事は曖昧なものだった。


「「「別に」」」


 そのタイミングで予鈴が響きいつものように少し遅れて彼が教室の後ろの扉から入ってきた。


 少し話しかけずらかったけど私はいつもの口調で声を出す。


「体調、良くなった?」


 彼はしっかり休んだようで血色が良くなり見た目では元気に見える。


「お陰様で良くなったよ。ありがとう桃宮ももみやさん」

「うん」


 彼からありがとうと言われるのはこれで何度目かな。言葉って不思議だよね。言われた内容よりも言ってくれた人で印象が変わるのだから。


 いつもは退屈に思う授業も今日という日はどこか特別に感じる。例えるなら、焼きあがりを待つパンの様に気持ちがソワソワしてしまう。


 トースターを見つめながらきつね色になっていく様を見るのが私は好きだ。しかし、今色づいてるのは私の頬かもしれない。きっとタイマーの音が近づくに連れて朱色に染まっていくだろう。


 キーンコーンカーンコーン


 どうやらパンが焼けたみたい。

 狐に化かされたような、さりとて真っ白な嘘のように時の流れに身を任せて私の色を染めていく。


 その合図と共に私は隣の彼に向き直る。



「お、おお……鬼神きゅん!」

「?」


 おかしい。

 全然いつも通りに喋れない。男子をお昼に誘うってこんなに勇気がいるものなの?

 ってかこの前はなんでさらっと言えちゃったの?


「あの……その」


 ダメだ一向に言葉が出てこない。世の中のリア充はどうしてサラッと誘えるのか。


 見ると彼は席を立つ寸前で固まっていた。そして私の後方へと視線を向けると何かに気付いたようで、慌てて口を開く。


「桃宮さん。お昼一緒に行かない?」


 私からの提案だったハズなのに結局彼に誘われる形になってしまった。


「う、うん」


 まぁ、これも悪くないよね。


 教室を後にする時には気付かなかったけど、どうやらかおる達が身振り手振りで教えていたそうだ。


 ――――――

 ――――

 ――


「綺麗だね」

「うん、学校でのお気に入りスポット」


「あの場所と同じだね」

「ふふ、そうだね」


 彼がいつも食べている場所へとやってきた。裏庭にカラフルなお花がいっぱい咲いている温かな場所。


「なんでこんな綺麗な場所に誰もいないんだろうね」


 話の導入としてふとした疑問を彼に投げかける。


「う〜ん……花粉症が嫌だから、とか?」

「ふふ何それ! あははっ」


 至極真面目に答えたのだろうその回答が私には面白かった。普段は物静かな彼だから突然のボケにやられてしまった。まぁボケてはないのだろうけど。


「案外合ってるかもね」

「でしょ?」


 私はひとしきり笑った後にお弁当の包みを開ける。ベンチの隣にいる彼はコンビニで買ったとおぼしきお惣菜パンとコーヒー牛乳だけ。


「まさかそれだけ?」

「えっ? あーうん、まぁね」


 元々体が弱いとは言っていたけどまさか食べるのも少食だとは……だからこそ私は1つの結論に辿り着く。


「多く作ったから一緒に食べよう?」


 頑張れ雪音!


「えっと……いいの?」

「……うん」


 ナイスだ雪音!


 厳密には私が作った訳ではないけど……お母さんに8割ぐらい手伝ってもらったけど!


 それでも手作りだと言い張りたい。


「鬼神くんはさ、しっかり食べないとダメだよ?」

「あはは、ですよね」


「また体調崩したらどうするの?」

「ほ、ホントですね」


 私の変なスイッチが入ってしまった。これが母性本能というやつか(ちょっと違う気もする)


「手は動かせるの?」

「うん、今日は調子がいいから。ほらっ」


 と言って彼は両手をグーパーして見せてくる。その仕草と満面の笑みはちょっと子供っぽくて可愛い。


「……ちょっと残念」


 何言ってるの雪音。


「えっ何か言った?」

「ううん、何でもない……」


 何でもないと口では言いつつ彼の家で食べさせた行為をもう一度したい、と思ってしまった私はずるいのかな。


 私は彼にお弁当を分けながらお互いに最近のアレコレを話し合う。主に私の3人に対する愚痴だったけれど彼は楽しそうに笑って聞いてくれた。



「お花見……楽しみだね」

「うん! すっごく楽しみ!」



 教室に戻る前に色とりどりのお花で出来たアーチを潜りながら私と彼は土曜日に迫った花見に思いを馳せる。


 それまでにサンドウィッチのレシピを覚えよう。


 暖かな風に揺られた花の香りが心地よく、同じ目線の彼と一緒に花の絨毯につま先をそっと置く。


 風と花びらが2人を包み込む午後の昼下がり。




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