電話
私は鬼神くんの連絡先を知らない。
非常にマズい。
かと言って今更どうやって聞けと?
よしパターンを考えてみよう。
【パターン1】
「そういえばさぁ、今度の花見の時の集合場所はどこにする? あっ、決まったら私のスマホに連絡してよ」
「わかった……あっ、でも僕桃宮さんの連絡先知らない……良かったら教えてくれない?」
ふむふむ普通だ。 これが自然じゃない?
【パターン2】
「なんで私の連絡先知らないの! 私ってその程度の女だったの? 酷いわ」
「いや違うんだ、雪音……僕は君のこと」
雪音って呼ばれた……えへへ。
いやいや違うそうじゃないよね?
これ昼ドラでよく見るヤツだわ。
【パターン3】
「おい鬼神、ちょっと面かせよ?」
「は、はい桃番長」
そして体育館裏へ。
「ったくよ、出すもん出せや!」
「お金ならこれだけしか……」
「ちげーよ、スマホだよスマホ」
「こ、これを壊されたら僕は……」
「いいから寄越せ!」
「あぁ桃番長! どうかスマホだけは」
ピポパポ。
「ほらよ!」
「桃番長?」
「言っとくけど、男に連絡先教えるの……初めてだから」
「……桃番長」
「勘違いすんなっ」
誰よ桃番長って!
これも無しなし!
「うぅ……どうすれば〜」
私は頭を悩ませながら学校に到着してしまった。前回ソラがあんな事を送った後、彼の家には行けてない。学校でもなるべく話さないようにしているけど、それが返って恥ずかしさを倍増させていた。
誤解は解けた筈なのにこの緊張感はなんだろう。
「おはよう〜」
「おはよう雪音! 珍しく遅いじゃん」
「フフ……雪音は最近お寝坊さん」
「誰のせいだと思ってる、コノヤロー」
「ゆふぃね……いふぁい」
私はソラの頬をつねりながら愚痴を零していた。チラリと彼の机を見るとまだ来ていない。彼も彼で最近やたらと遅れて来るけど、かおる達に聞いてもよくわからないらしい。
ホームルームが始まっても彼の姿は無かった……それどころか、今日1日彼の姿を見ることが無かった。
――――――
「……ねぇソラ」
「なに雪音、もうほっぺたはやめてほしい」
「いやほっぺたはやんないけど」
「けど?」
言っていいのかなぁ。
でも背に腹はかえられないし、さっきの今で頼みずらいし……ええい言ってしまえ!
「鬼神くんに連絡取れないかな?」
「……フフフ」
「なんで笑った!?」
ソラはほんとによく分からない性格をしている。普段からあまり表情を表に出す子じゃないけど、私達といる時はまだマシな方。特に私をからかう時は1番いい笑顔をする。
「これをこうして……はい」
「ん?」
私は突然ソラからスマホを渡されたので、何をしているのかという思いでソラを見つめる。
すると。
「もう繋がってる」
「は?」
繋がってるとは?
「現代文明は鬼ヶ島までワンプッシュ」
サムズアップして言われても。
「早くしないと切られるよ?」
その言葉で理解した。
「電話かい!」
「ドヤァ!!」
私はメールか何かで連絡するとばかり思っていたから、突然の電話にツッコミを入れていた。ホントにソラはタチが悪い。慌てる私を見てクスクス笑っているのだから。
待たせるのも悪いし急いで耳元へ持っていく。
「も、もしもし鬼神くん?」
「あははは……ごめんね桃宮さん」
彼の第一声は穏やかな笑い声。それだけでなんだかホッとしている自分がいる。どうやら私とソラの会話がツボに入ったみたい。
「もうっ! そんなに笑わなくてもいいじゃん、恥ずかしいんだけど」
「ごめんごめん。普段の桃宮さんの印象とだいぶ違ったからおかしくて」
「そんなに違う? 変かな?」
私は少し意地悪な言い方をしたかもしれない。しかしそんな私の質問に彼は笑みを孕んだまま答える。
「いやいや、そっちの方が自然でいいと思うよ……ゴホッ……エホッ」
「ちょっと大丈夫?」
彼はありのままの私が素敵だと言ってくれた。電話ってなんて素晴らしい発明なの。気になるあの子の声が耳元で聞こえるなんて……だけど今はそんな事を気にしちゃいられない。
「ごめんね……ちょっと風邪を引いてしっまって、土曜日までには治すから」
「……うん」
たがら今日は学校に来れなかったのか。
それから暫く、ソラのスマホだと言う事も忘れて彼との会話に夢中になる。
今日学校であつた事や桃太郎の事、普段何を食べてどんな音楽を聞いてるのか。
電話だと自然と話せるんだけどな。
「――じゃあ、またね」
「うん……また」
彼からの別れの言葉はどこか寂しそうでこのまま切るのが申し訳なく思ってしまった。
「桃宮さん?」
「……ん?」
「もう切っていいよ?」
「鬼神くんが切ってよ」
「いや、でも」
「私からは……いや」
私はいつからワガママな子になったのだろう……そんな事も気にならないくらいに彼の事を考えてしまう自分がいる。
電話って不思議だ。
逢いたい人の声が聞こえるのだから。
でも私は。
無言の時間が続いた時、忍び寄る影に気づけなかった。
「天誅っ!」
プチッ
ツーツーツー
「あぁぁぁぁ! なにすんのよソラ!!」
「それはこっちのセリフ……人の携帯で話しすぎ、通話料を請求する」
「ぐぅぅぅぅ」
グゥの音も出ないとはこの事。
今回ばかりは私が悪い……けどいきなり切らなくても良かったのに。
もう少し……声が聞きたかったな。
それからソラは部活へと行く為に消えてしまった。私は手持ち無沙汰になりながら自分の家へと歩を進める。
「具合、悪そうだったなぁ」
独り言を呟きながらも考えるのは彼の事。
この感情の高鳴りはきっと彼を心配する親心なのよ!
そう言い聞かせて私は元来た道を引き返す。
これからする事もきっと親心!
いわば母性を刺激されての事なの!
私は無理やりに理由を付けて自転車を漕ぐスピードを上げていた。途中のドラッグストアで彼が欲しそうな物を買って。




