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記憶

 

「ねぇ、桃の花の花言葉を知ってる?」


 夢の中でそんな言の葉が聞こえた。


 誰が囁いたのかわからない。だけどその言の葉を聞いた時、またこの夢が始まるのだと実感する。


 小さい頃の記憶。

 今はもう思い出せない。

 永遠にこの中に閉じ込めて欲しいと願う。



 暖かな潮風が肌をかすめ、私は自分の手を引かれながら白い色合いの建物が多く並ぶ路地をゆっくりと進む。


 男の子の手だ。


 ほんのり顔を赤く染めながら俯きながら歩く。階段でつまづきそうな所を支えてくれたり、退屈しないように振り返りながら微笑んでくれて他愛のないおしゃべりでクスクスと笑い合う。


 あと少し、この道を抜ければ。


 海の見える丘に到着するとそこには大きな桃の木がある。

 太陽の光が真上から降りそそぎ、キラキラとしたその場所は特別に見えた。

 

 私と彼のお気に入りスポット。


 木の下で持ってきたサンドウィッチを一緒に食べながら色んな話をしていた。話の内容は曖昧であまり覚えていないけどとても楽しかった。


 ただ……顔や名前を思い出そうとするとモヤが架かったように思い出せない。唯一覚えているのは、目がとても綺麗だと言う事。


 ザァーザァー


 特別に感じたのは、その景色だったのか、それとも……彼と一緒だったからなのか。


 短いようで長く感じたあの瞬間。

 ずっと続けばいいなと思っていたあの時間。


 気付けばいつも彼の事が頭から離れない。

 今思えばその感情が何かわかるのに。




 嗚呼、私は恋をしていたんだ。




 彼が立ち上がり私に背を向けてスっと歩き出す。突然の事で私も慌てて立ち上がり後を追おうと手を伸ばす。


 だが掴めずにどんどん離れていく。必死に声を出そうとするけど声帯が無くなったみたいに声が出ない。


 待ってっ!

 置いてかないで!

 ねぇ、待ってよ。

 ねぇ――



 夢の目覚めはいつだって突然。




「待っ……」


 ――チクタク、チクタク

 秒針が進む音が聞こえる。


「……またあの夢かぁ」


 まだ少し肌寒さが残る朝方だと言うのに、まるで運動をした後のようにじっとりと汗をかいていた。


 この夢を見るのはこれが初めてじゃない。数えるのもおかしくなるほど見た気がする。


 その度にいつもあの場面で夢は終わる。


「はぁ〜」


 ズキズキと痛む胸を押さえながらゆっくりと深呼吸をする。夢を見たあとは毎度の事ながらズキズキなのかドキドキなのか分からないくらい胸が苦しくなるのだ。


「あの子は誰なんだろう……」


 私は独り言を呟きながら時計を見る。

 時刻は午前6時。


 学校まではまだ時間があるけどもう二度寝するには微妙な時間。


「とりあえずシャワー浴びよ」


 私は着替えとお気に入りのピンクの下着を持って部屋を後にした。



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