異世界召喚、されなかった。
神は激怒した。
神の祀られている地域は中部地方の県境、山間をぬって拓かれた小さな集落である。
住人たちは皆知り合いであり、年々増える空き家と平均年齢をどうにかしようと外からの人を呼び込む努力の甲斐もあり、なんとか限界集落をまのがれていた。
そんな集落で数年ぶりに産まれた子供。
初参りに来た時にテンション上がりすぎて近隣の神々がちょっと引くくらいに加護を与えまくってしまった、そんな子が、さらわれそうになったのである。
話には聞いていた。
年に一度の寄り合いで注意喚起もされていた。
「最近……って言ってもここ十数年の話だけど増えてるから気をつけてね。特に最近は老若男女無差別になってきてるから」
深刻そうに頷いているのは誰もが有名な神社の担当ばかり。大所帯だと大変だなぁ、などと過疎地域神社主どうし他人事のようにしていたものだが。
近くを通りかかったからと神社に寄ってくれた愛しい子が鳥居をくぐって外へと出た途端に足元に広がる光で作られた召喚の陣。
「わしの可愛い子を拐かそうとは!」
一陣の風が吹き、鎮守の森からざぁっと木の葉が舞った。
輝く陣が木の葉の合間から差し込む日光によって描き換えられ、不意に消えた。
残るは突然の風に驚いて周囲を見回す少年が一人。
誰もいなくなった鳥居前、神によって描き替えられ遅延した召喚陣が再び現れて、五人の人影が出現した。
RPGの世界から出てきたかのような出立ちの彼らは混乱して周りを見回している。
「ふん、やるからにはやり返されることも当然じゃろて」
慌てふためく姿にわずかに溜飲を下げると、神は上司に報告をすべく本殿へと向かったのであった。
日本中の神々から敵視された彼らのその後に、神は興味を示さなかった。