Ruin world
「なんだあの1年生は!?それにあの武器は何だ!?彼はそこまで強くはなかったはず!?」
私の隣でハーマン=ケリガンが喚き散らしている。仕方がないことだと私は思っている。何故ならば、
「....アルフ様に勝てる人間など何処にもいないのだからな.....」
と私は俯きながらポツリと呟く。私の隣に座っている人間があのお方にやられたのだからな。
「シャロンは何か思わないのですか!?あんなEクラスに負けることなど...」
「ハーマン先輩、私ですらわかりますよ?あのアルフという方には手を出したら負けと。...それに、今の私の状態のことは会長が良く知ってるんじゃないですか?」
私は虚を突かれて一瞬だが方が跳ね上がる。このことはシャロンには伝えていないはず。気を落ち着かせろ私。そうだ、ここは
「そのことに関してはアルフ様に口外禁止と言われてるのだ。申し訳ないが私の口からは言えない。」
「やっぱり会長でもダメですか....まぁ、想像はついているんですけどね。彼、スキルの効果を無くすっていう感じの『ユニークスキル』を持っているんでしょう?現に今私は最善の一手が見えていませんし。はぁ~、困ったもんですね~、これ。」
私はシャロンが彼の一部しか見えていなかったことに安堵する。流石にあの『ユニークスキル』は一発では見抜けないからな。
そう思って私は緩い感じで
「そういうことかもしれないな。ハーマン、お前がそんなに心配することではないだろう?まぁ、お前の次の相手なんだがな。お前は、『ユニークスキル』がなくても魔術士の才能があるじゃないか。」
「そうですね会長!!僕が一発で仕留めてきましょう。それでは!!」
そう言ってハーマン=ケリガンは生徒会用観客席から走り出ていったのだった。
「...はぁ~申し訳ないことをしてしまったな...ハーマン、精々生きていてくれ...」
「どうしたんです会長、そんな遠い目をして。やはりハーマン先輩が心配なのですか?それにローゼンさんは何であんなにも楽しそうな表情をされているのでしょうね?」
そう言われて、私はローゼンの方を向く、先ほどからよく見てみれば、彼が出ている試合をずっとニマニマしながら見ているような気がするのは気のせいだろか。
私とシャロンがローゼンの方を見ると、ローゼンはこちらが見ていることに気づいたようで、
「はい?会長、どうされました?」
とキョトンとした顔でこちらを見つめ返してくる。私は意を付くように、
「ローゼン、何故先ほどからアルフ様の出る試合ばかり見入っているのだ?」
と思いっきり聞いてみると、ローゼンは花が咲くような笑顔で、
「はい、アルフ様には良くしていただいたので、...なんででしょう?何故かアルフ様を見ているとこちらが自然に嬉しくなるのです。」
こやつ...まさか私の敵か!?それに「良くしていただいて」ってなんだ!?
私はこの感情を心の奥深くにねじ伏せ、にっこりと笑顔で、
「そうかそうか、まぁ良い。さてそろそろ試合が始まるぞ。」
そう言って私は気を転換させて、コートを見下ろした。隣でシャロンが何やら面白そうな顔をしてみているが、私は知らないこととしておこう。
待機室で俺は見飽きた何もない机を見ながらサリナから貰ったクッキーの残りを食べようと思って待機室へ向かったのはいいのだが、
「なんだこりゃ...何で俺の待機室にこんな豪華な軽食が置いてあるんだ....いつもならないのに...」
そう、俺は机の上に整頓しておかれた豪華なサンドイッチを見て唖然とするのだった。よく見ると手紙までセットで置いてあるようだった。ん~と、何々?
『アルフ様、私は応援しております。そしてアルフ様が決勝までお越ししていただくのを楽しみにしております』
名前の表記はなかったが多分これはローゼンの書いた奴だな。ってことは毒とか盛られていることはないだろうし、と思い俺はひと口。
「...うまっ、何だこりゃ、どこの高級食材使ってんだろうな。まぁ、でも残念ながらサリナの料理ほどはうまくはないが。相手はハーマン=ケリガンか...よっしゃやってくか。」
そう一人で呟き、ガッツポーズをキメる俺だった。
そして俺が実況と解説の話を聞いていると、
「試合開始5分前です....選手の2人は第4コートに来てください。繰り返します、試合開始5分前です....選手の2人は第4コートに来てください。」
とコールを食らったので、座っていた椅子からのそのそと立ち上がり、ノロノロと歩きながら通路を歩いて行った。
俺がコートに入るなり、実況が
「おおっと!?期待の1年Eクラス、最下位のダークホースこと、アルフ選手が入場して来ました!!対する向かい側からは風属性魔術の天才、2年生で生徒会副会長の座を奪い取ったハーマン=ケリガン選手が入場して来ました!!....いやぁエミリーさん、今回はどちらが勝ちそうですかね?」
「レイさん、ここまで来たらもう私でも分かりませんけど、実績のあるハーマン=ケリガン選手のほうだと
私は思いますね!!」
「おおっと、エミリーさんはやはり、資料を見て決めまていますけど、正直僕の方は1年Eクラスのアルフ選手だと思いますねぇ、特に何もなさそうな馬鹿な雰囲気に見せてまだ何かを隠してそうな感じがするんですよね~。さぁ、そろそろ試合開始です!!」
「また俺は変な期待をされちまったな...マジで俺ここまでこれたの偶々なのにな。」
俺は目の前にいるハーマン=ケリガンに向かってそう声を漏らす。無論これは釣りだ。見た目からしてこんなんに引っかかるような馬鹿じゃ...
「そうだね。じゃあここは君の墓場だ。Eクラスの人間がここまでこれたのは奇跡だね。今のうちに楽しんでおきな。」
嘘だろこいつも脳筋なのかよ!?流石にコイツはダメかなって思ってたけど...まぢかよ。信じらんねぇ。
まぁ、そうなってしまうのも仕方がないことだろう。だってこの学園ペーパーの比率3だしかな。一瞬で葬ってやろう。
俺はそんな考えとは裏腹に俺の口は
「そうですね。まぁ、できるだけ追いつけるように頑張りますね。さ、それでは試合がそろそろ始まりますし。それでは。」
そんな気持ち悪い敬語と満面の笑顔を浮かべながら俺は自身の位置に着いた。そして、ハーマン=ケリガンが一に着いたことを確認した審判は大声で
「始めっ!!」
と叫び試合は始まった。
「『porogram』...ハーマン=ケリガンの魔術を消し去れ」
『harman.csの項目class.magicを削除完了』
そう呟いて俺はハーマン=ケリガンの魔術項目を消し去った当の相手はそれが分かっていないようで、こちらに向かって、
「あれ?アルフ君来ないのかい?じゃあしょうがない。僕から行くよ、第8階梯マルチ・ウィンドウ!!」
だがしかし、ハーマン=ケリガンに風の魔術は一向に発生しなかった。ここらで一つ、俺はいつも毎回の煽り文句で
「あれぇ?ハーマンせぇんぱぁい?何で魔術うってこないんですかぁ?じゃあ、俺から行きますねぇ?」
そう非常にうざったい顔、かつ舐め腐った言葉遣いで言い放ちながら、俺はいつも通りに拳銃を生成させずに、俺はニヤリとにやけて、
「せぇんぱぁい、これが本当の魔術ですよぉ?第28階梯、ウィンドウ・Ruin world!!」
そう言って、コートに巨大な魔術陣が出現し、風圧の廃墟の世界を作り出す。そして、気が付くと、目の前にはコートのラインの跡が跡形もなく消え去り、既に人間の形をしていない生々しい骨と肉塊だけが残る
俺はその肉塊に向けて、
「先輩、とてもお強かったです。また今度手合わせさせていただけると嬉しいです。対戦ありがとうございました。それでは。」
と、爽やかな笑顔でお辞儀をしてコートを立ち去った。
俺が居なくなった会場は鎮まり返り、実況と解説が手に持っていた進行用台本を落とし、生徒会席ではシャロンが生気を失いかけていた。