ギルド本部へ
キャラ紹介を兼ねて、ギルド本部へ行く話になります。
王都ハーフェンには城にも匹敵する程の巨大で壮麗な建物、
ギルド本部があり、そこには腕利きの冒険者や能力者が駐在している。
そいつらの大半が本部直属の精鋭ギルドメンバーに当たり、能力者のランクにして大部分がAランクに近い実力の持ち主ばかりと言われている。
そして俺達は、そんな猛者たちがうじゃうじゃ居る場所へ足を進めていた。
「なあセリウス、本当に俺みたいな弱っちい奴が本部に入る事なんて出来るのか?」
そう唱えたのはランスロッドだった。
俺達はランスと呼んでいるが、本人もまんざらでもない様子だったもんだから
いつの間にかこの呼び名が定着した。
大柄な男で、戦闘に関しては考えるよりも体が先に動くタイプだ。
仲間思いの良い奴なのだが、
無茶ばかりするおかげで毎度毎度世話を焼かされている。
外見はというと、まあ普通だ。
ほどほどに整えられ、長すぎず短すぎず目に優しい薄緑色の髪。
その巨体に見合うような肉体と声量と肝のデカさ。
顔はそれなりに整っていて、何気にモテる。
そんなランスだが王都に訪れ、本部に行くのは初めてらしい。
「仕方ねえな、じゃあ俺が自信をつけさせてやるよ」
俺はランスに3年前、
一人でギルドの本部に言ったことを話した。
「そう心配するなよランス。 俺は12の頃に一人で王都に出向いて
ギルドを持つために本部へ一直線に向かったんだ。 12の俺に気持ちで負けてるようじゃあこの先が不安だぜ、ランス!」
バンバンとランスのアーマーを強く叩きながら気持ちを和ませる。
「そう言えば、そんな話もしてたっけな」と
過去の話を聞き、ランスは先ほどの緊張した顔から
ホッとした顔になり、いつものうるさい声で
「なら大丈夫だな!」と機嫌良さげに腕を大きく振りながら歩き始めた。
「うえぇ……、さっきまで静かだったのにうるさくなっちゃったよ」
メリアがさっきの状態がいつまでも続いてくれたらな~と、
言いたげな顔をしながらそう言った。
「ははっ、まあいいじゃないですか。 いつものランスさんが戻ってきて
私は体の緊張がほぐれましたし、助かりましたよ」
「あ~、グラちゃんもランスと同じで弱虫だー!
ダメだよー! 男の人はもっと気持ちを大きく持たなきゃ!
誰かさんみたいに弱虫になっちゃうよ~」
「あ!? メリア、お前 この勇敢なランス様が弱虫に見えるのか?」
「事実弱虫じゃないのさ! この自称勇敢おとこ~!」
「んだとコラ! 一発頭殴らせろ!」
ゴチンという音という音が聞こえてきた。
音が鳴りやむと同時にメリアが怒鳴り、
それに負けじとランスも怒鳴る。
この二人はいつも仲悪いな、全く。
「あ、そういやグラウディ、お前って確か王都出身だったよな?」
「そうですよ。 まあ、殆ど住んでた場所から動く事がなかったので
王都自体は良く分かりませんけどね」
グラウディは寝ても覚めても剣の修業にあけくれていた為か
自分の住んでいた場所からどこかに出掛けた事も無ければ
剣以外に興味がなかったらしく、人との関りも無かった。
家は裕福だったので勉学は高い金を積み雇った使用人から習っていたと聞いた。
なんでそんな人物が今は俺の仲間に居るのか。
……出会いは偶然と言われているが、まさにその通りで、
俺とグラウディとの出会いは本当に偶然だった。
確か、俺が王都を飛び出して旅を始めようと決意した日だったか。
王都からさほど離れていない森の中から
悲鳴が聞こえたもんだから俺は急いでその場所に赴いた。
するとそこには弱小モンスターのスライムに
腰を抜かしている一人の子供の姿があった。
それこそグラウディだったのだが、
何ともまあ見るに堪えない戦闘をしていたのを思い出す。
スライムがプルプルと体を動かしながらグラウディに近づく度に
酷く怯えながら、がむしゃらに剣を振り続けるだけのせめぎ合いをしていた。
それに見かねた俺がスライムを追い払い、
助けたのが出会ったきっかけだったな。
「いや、別にお前に王都を案内して欲しいとか思ってないから安心しろ」
「なんならグラちゃんよりも私の方が詳しかったりしてね~」
半泣き状態になりながら、ドヤ顔でそう言ったのはメリアだ。
こいつは常日頃、何か厄介事を招くトラブルメーカー。
それに考えている事も俺達と大きくズレているからか、話が通じない事もあれば
意味不明な行動で混乱を起こす事もある。 一言でいうなれば、奇想天外な奴だ。
背丈は小さく、腰まで伸びている少し緑がかった水色の髪。
仕草などもいかにも女の子らしく可憐で、どこか落ち着いている雰囲気に
不思議な魅力を感じると言う感想を旅の先々で良く聞いた。
まあ、何も知らない人から見たらそうなのだろう。
……口を開かず、その場から動かなかったら だが。
「ねえ、セリっちまだ着かないの? 私もう疲れたー!
セリっちがおぶって運んでよー!」
メリアが俺の後ろに回り込み
両肩に手を乗せ、体重をかけてきたと同時に俺は
その両手首を掴み、そのまま前方に勢いよく腕を振った。
メリアが俺の頭上で綺麗な弧を描きながら通り過ぎ、着地した。
「セリっち何これ! 新しい遊び?
すっごい楽しかった、もう一回して!」
「違う、違うぞ。 おんぶするのが嫌だから
反射的にお前の手を振り払っただけだ」
「? おんぶが嫌なら抱っこがいい?」
「は?」
俺がそういう事じゃないと言おうと思った頃にはすでに遅く
メリアは俺に歩みを進めそのまま勢いよく俺に抱き着いた。
「抱っこが良いならそう言ってくれれば良かったのに~
もう、素直じゃないなぁ」
「あらまあ、最近の若者は大胆ねぇ」
「ちっ、真昼間からイチャイチャすんじゃねえよ」
「このやろー! 見せしめかー! 呪ってやるー!」
周囲からの声が俺に刺さる。
やめてくれ、恥ずかしすぎる。 恥ずかしさで死んでしまう。
「おい、いますぐ離れてくれ。 俺を殺す気か」
「え!? セリっち死んじゃうの!?
ダメだよ、まだ死なないで!!」
さらに強く抱きしめてくるメリアに対し
俺は両手をグーの形にしてメリアの頭にぐりぐり攻撃を仕掛けた
「俺の精神を殺す気か」
「あだだだだだだだだだ、セリっち痛いよ……」
俺のぐりぐり攻撃に耐えられなかったメリアは観念して
俺から離れてくれた。
全く、何してくれてるんだ。 恥ずかしくてしばらくは
周囲を見渡す事も出来なくなってしまった。
「ははっ、メリア、おめぇ何で本部に行くだけだってのに
身体にダメージ負ってるんだよ」
「うるさいなぁ! 大体あんたが私に何か言ったのが原因でしょ!」
「アホか、先に何か言ったのはそっちからだろうが!」
「なんだとー!」
「また頭どつかれてぇか!?」
「それはいやー!」
「二人とも、やめろ。
もうそろそろ本部に着く。 印象は大事だから少しおとなしく…… いや、喋るな」
「え? なん」
「メリア、特にお前だ」
「むぅ……」
顔をプクっと膨らませたメリアを横目に
俺はだんだんと見えてくる本部の入り口に目を向けていた。
「セリウスさん、あれがギルドの本部ですか?」
「ああ、そうだ。 ここの城にも負けないくらいデカい建物だろ?」
「すっげぇな! まさかここまで大きいとは予想してなかったぜ」
「……」
さっき喋るなって言ったからか、言葉では感動を述べていないが
その小さな体をぴょんぴょん跳ねさせ、俺の顔をみながら目を輝かせ
本部の方に指を指しているメリアが居た。
なんか面白いからこのままにしておこう。
「ここまで長かったが、遂に今この時から俺のギルドマスター生活が始まるんだ。 ランス、グラウディ、メリア、俺はお前たちと一緒に最高のギルドを目指していくつもりだ! お前たちも一緒についてきてくれるか?」
みんなはもちろんだと言わんばかりに大きく頷いてくれた。
そして門を開け、俺達は本部へと足を踏み入れた。