秋の桜子さまより『ロールケーキです、こんばんは』SS
オフ会@東京のお土産・フルーツロールケーキを忘れてしまった砂礫
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しかし、嘆くことはなかったのです!
かのロールケーキは、こんな顛末をたどったのですから……
『ロールケーキです、こんばんは』秋の桜子
ロールケーキを食べる時、僕はドキドキとする。それは過去にいけない事をしたから……。
「ねえ、あなた?ロールケーキ食べるのに何時も真剣になるのはなぜ?プロポーズの時を思い出してるの?アハハハ、もう、結婚して何年になるのよ」
あは、ははは、と笑いながら妻が差し出したコーヒーを受け取った。目の前の皿の上には、フルーツたっぷりのロールケーキがひと切れある。
「あ!あああー!忘れちゃったよ」
僕はその時、あ~ん、はぁー!やっちゃったー!てな感じの忘れ物をした顔をちらりと見た。しかしその顔は動き去る車窓の人だった。
家族のお土産に買ったであろうそのその箱には見覚えがある、ホームの椅子の上に置いてけぼりの箱、それは駅員に届けるのが正しい行動なのだが、僕はドキドキとしながらその箱に手を伸ばした。
……「東京に出張?じゃ!ロールケーキ食べたいな」
結婚を考えている彼女の顔が浮かぶ。プリントしてある店の名前、長細い箱からすると、フルーツで有名なあの店のロールケーキに違いない。
買おうと思っていたから、それを手土産に彼女の元に帰り、プロポーズをしようと考えていたから……、でも僕は仕事中、うっかりミスをやらかしてしまい………、そう、買い忘れてしまった。
プラットフォームに来て、ようやくそれを思い出したと言う低堕落。これはプロポーズするなと神様が言ってんだな、うん、そうだよ、とポケットの中に忍ばせてあった、三ヶ月分の箱を握りしめた。
どうする?僕はそろりとそれを手に取った。辺りを伺うと、駅員の姿が見えた。
届けるべきか、届けざるべきかそれが人生の選択だ。
届けたら、どうなるのだろう……、食べて貰えれば良いが、賞味期限間で冷蔵庫で保管してその後、ならばこれが可愛そうになる。
「えへへ、楽しみに待ってるからね♡」
ああ、別れ際の朝、浮気はしないでね、とちゅー♡の後、きらきらとした君の笑顔が、僕に悪事を働けと唆す。
一緒に暮らし始めて一年、喧嘩もした、別れようと話した事もある、だけど仲直りをした。お互いのダメなところも良いところも、みんな知っている。
このままずっと一緒にいられたら、籍なんかいいよねーと、僕達は軽く考えていたけど、いたけど、やっぱりいけない、いけないんだ!と踏ん切りがついた僕。
ケーキを渡して、嬉しそうにする君を見て、そして指輪を渡そうと、欲しいと言ってたそれをバレてるだろうけど、こっそり準備して用意して、計画を考えて……、なのに忘れてしまったロールケーキ。
……、ゴクンと飲み込む。次の新幹線に乗らないといけない、駅員がこちらに来る、どうする、どうする?箱を持つ手が震えた。
スタスタスタスタ……、何事もなく僕の脇を通り過ぎて行く駅員、運命が決まった!こ、これは、これは、きっと……!
天使が落としたロールケーキなのだ!あの車窓の人が、僕に力をかしてくれた、そう!そういう事にしてもいいだろうか。
僕は心の中で、全身全霊を込めてあの人に聞く。
『赤い羽根募金にケーキ代を寄付します、だから、だから!このケーキ、譲ってくださーい』
後ろから次の車両が来る気配、先に行った新幹線に向かい僕は深々と頭を下げた。
忘れ物のケーキの箱を、大切に胸に抱きかかえて。
Fin.
秋の桜子さま、ありがとうございます!!
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