第1部 絶望の始まり ⑧古代の忘れ形見
長かったような数秒だったような、王とティルが入っている個室は下降を止めた。ピーンという音と共に勝手に扉が開いた。開いた先は暗かったが黄色く発光していた。
王が扉から出て左右を確認した後、ティルに着いてくるよう促した。着いていくと巨大な黄色の宝石が光輝いていた。そして、その宝石から12方向に、光の線が下方に発せられていた。そして、その黄色の宝石を中心に円を描くように12個の窪みがあった。
「今、下の世界には8つの玉という不思議な宝石があるらしいが、それには嘘がある。」
王が言った。ティルはピ~ンときた。
「本当は12個あるのですね。」
王はティルの勘の良さに驚いた。
「その通りだ。あと4つの玉が世界に見つからず認識されておらん。そして、その玉を、そこの窪みに埋め込むことにより初めて力が発揮することも知られていない。」
王は巨大な黄色の宝石を指差した。
「その宝石は12個の玉を呼んでいる。その12の光線の先に、それぞれ玉があるにちがいない。」
「もし、ドラゴンシティーに12個の玉が揃うと、どうなるのですか?」
ティルは訊ねた。
「こっちに来なさい。」 王はティルを促した。
王に着いていくと、沢山のスイッチやレバーがあり、沢山の椅子も置いてあった。その中の真ん中には操縦席のようになっており、ハンドルが付いていた。
「これは、まさか?」
ティルは王の方を見た。
「そう。この城、いやドラゴンシティー全体が実は古代に作られた巨大な戦闘機だったのだよ。しかも、この戦闘機は宇宙に行っていた可能性がある。いや、宇宙に行き戦争をしに行っていたと言った方が正しいかもしれん。」
驚いているティルを見ながら、王は続けた。
「あの黄色の宝石は太陽を表しているらしい。その周りの12の窪みは12星座を表しているようだ。この戦闘機は、まだ生きている。あの窪みに全ての玉が入れば、この戦闘機の機能が全て動き出すと考えられている。この乗り物は何千年も前から、静かに眠りから醒めるのを待っているのだ。」
「ちょっと待ってください。広大な草原や標高4000メートルもの山も入れてドラゴンシティーですよ!?考えられないくらい広大な乗り物だということになります。しかも、なぜ宇宙に行ったとか戦闘機だとか分かるのですか?」
ティルは思わず質問した。王は答えた。
「お前から見たら3代前の王が禁を破り、本当に信頼できると考えた臣下達に、このことを伝えてしまったのだ。その時に、探検隊が結成され、この巨大な乗り物の探索がおこなわれた。もちろん探検隊に選ばれた者は口の堅い、各方面の専門家達であった。しかし、帰ってきた者は1名。しかも、その1名は右腕を失くし、瀕死の状態だったらしい。その1名からの情報では奥に図書館のようなものもあり、この戦闘機の資料室があったそうだ。そこに、この戦闘機の設計図のような物や宇宙での戦闘記録があったらしい。この戦闘機には巨大な大砲やら波動砲やらミサイルやらが、しっかりと搭載されているとのことだ。」
「他の探検隊のメンバーや設計図は、どうなったのですか?」
ティルは既に落ち着いていた。
「この広大な戦闘機の中に、古代に作られた戦闘兵器がいる。その時の探検隊は、ゴーレムと言っていたようだ。そのゴーレムに遭遇し、探検隊は壊滅し設計図を持って帰れなかったそうだ。この戦闘機が生きている証拠だ。古代のゴーレムが、今だに外敵から守っているのだ。」
ティルは最後の質問をした。
「なぜ、この話を今、してくださったのですか?」
王は目を閉じ、少し考えてから答えた。
「私は今回の件で悪い予感がしてならない。もしかすると現代の戦闘能力では太刀打ちできない可能性がある。その時に、この古代の戦闘機が必要になるかもしれん。そう考えている。そして、私が生き残れない可能性も考え、お前に伝えた。」
王は真っすぐにティルを見た。
その頃、上空では、黒く変貌した勇者バルトは苦しんでいた。
「グッ、ガッギッ。」
バルトの口から言葉ではないものが漏れていた。今までバルトは城を攻めなかったのではく、攻められなかったのだ。バルトの中に、まだ良心があり、歯止めをしていたのである。しかし、その良心の欠片も闇に溶けようとしていた。