第1部 絶望の始まり ⑤希望の光
ホスマがティルに伝えたことを整理すると、このようなことだった。
①死霊は頭に闇の核があり、頭を潰すか、首を跳ねれば動かなくなること。また光属性か火属性の魔法に弱いこと。
②現在、死霊は城の周りに集まっており、ここから城に近づくごとに死霊との遭遇率があがること。
③住民の被害が大きい。最初は剣士ソルク率いる部隊は、住民を城内に誘導していたが、城の周りに死霊が集まってきたので断念した。途中から王の命令が変わり、死霊の少ない草原やスカイマウンテンに、僅かな兵糧を持ち住民を誘導し始めているということ。
④城内に逃げ切れた住民は飛行船で逃がそうとしていたこと。
(飛行船が地上に降りることのできる唯一の方法であり、飛行船場は城の敷地内にある。)
草原やスカイマウンテンに逃げた住民達はサークルカイト で他の天空の島へ避難させようとしていること。
(※サークルカイト:天空の島でのポプュラーな乗り物。ボールに羽が付いた形状をしている。ボール状の中に人、1人が入り操縦をする。天空の島と島の移動に使用されている。)
そして、ホスマは続けた。
「5つ目があれです。」
ホスマは城の真上、上空を指さした。ティルはその方を見ると、1体の黒いドラゴンの周りを緑色のドラゴン2体が旋回していた。
「ドラゴンライダー3体です。3体とも、強力です。特に中央の動いていない黒いドラゴンライダーが非常に強力な闇の力を感じると師匠ジェラックから連絡がありました。今、城の外堀や庭は諦めて、城の建物のみを、城内に残った魔法使い全員で結界を張っているようです。」
ホスマは暗い顔で言った。
「ということは、飛行船場は・・・?」
ティルが訊ねた。
「はい。死霊に占領されていて飛行船は使える状況ではないようです。そして、あの黒いドラゴンライダーが攻撃をしてきたら、結界は10分ももたないとのことです。」
ホスマとその部下達から、絶望の空気が流れていた。ティルは、それを感じ取り、明るく振る舞った。
「とにかく、城内に戻らなければいけないわね。」
ホスマは返した。
「今、城内には結界が張っていて戻れません。結界が張っていなかったとしても、城内に行くまでに死霊との戦闘で、ほとんどの部下が倒れるでしょう。」
ティルは笑って言った。
「フフフフフ。あなたは、家の中に入る時、必ず玄関から入る人ね?」
「???家に入る時は玄関からですよ。」
ホスマは解せないという表情を浮かべた。
「考えてもみてよ。あんなに古くて大きな城、抜け道がないと思う?」
ティルはホスマの顔を覗き込んだ。ホスマの部下達がざわついた。
「まさか、あるのですか?」
ホスマは眼を見開いた。
「当~然!!とっくの昔に見つけてるわ。ダテに何十年も城の周りを徘徊してないわ!!」
ティルは腰に手を当てて得意そうに言った。ホスマの部下達から歓声が起こった。ホスマは眼鏡がズレるくらい驚いた。もしかしたら、城内にいる人を助けることができるかもれない。その希望が少し見えた。
「友達となかなか遊べなかったから、ウロウロするしかなかったんだけど。」
ティルは舌を出した。ホスマはティルの自虐に笑ってしまった。
その時、ガサガサと音がして草むらから、何かが出てきた。
「お姉ちゃん!!助けに来たよ!!!」
先ほど、助けた男の子が棒を持って出てきたのである。その後に、母親もフライパンを持って出てきた。それを見たホスマの部下達から笑い声が起こった。
ティルと部下達の様子を見てホスマは思った。
『こんな絶望に近い状況なのに、周りの人間を和やかにできるなんて・・・。私自身も、この少女といると、なぜこんなに心が落ち着くのであろうか。この少女がいれば、活路が見出せるような気がする。』
ティルは笑顔で男の子を抱き上げていた。