第1部 絶望の始まり (24)大地へ
西側屋上では、ティルがサークルカイトを屋上の端まで移動させていた。
時々、下の階から爆音が聞こえ、その度に城は揺れた。闇の勇者バルトは2階で足止めをされていたが、死霊達は3階まで移動してきていた。
ティルは
『ライト。』
呪文を唱え、屋上の城壁を崩し、即席の発射口を作った。カルタの遺体を見る。その後、今から飛び出す空を見た。青空から少し赤みがかかってきていた。旅立ちの始まりだが、物悲しさだけが胸に広がった。
『必ず戻ってくる。』
犠牲になった命と石化した住民達に再び誓った。サークルカイトに乗り込み、空へと飛び出した。
サークルカイトは少しずつ下降し始めた。どんどん、ドラゴンシティーから離れて行った。安心する間もなく、ここからがティルにとって正念場であった。赤みがかった空に吸い込まれていく。風が強く、機体が揺れ、引っくり返りそうになった。その度に操縦棒を持ち、バランスを取ろうと苦心した。どれだけ下降しただろう。
目の前に巨大な白い雲の塊が見え近づいてきた。
『バシュン』
サークルカイトは巨大な白い雲に激突し、中に入った。入れば白い霧状になっており、前が全く見えなかった。そして、白い雲の中は気圧が安定せず、強烈な風が吹いていた。ティルは操縦棒で、機体を安定させようと試みるが徒労に終わった。何回、何十回も機体が回転し上下左右が分からなくなる。時間が経ち、ティルは嘔吐した。吐物が機内にばら撒かれ異臭が漂った。それが長い時間、繰り返された。
ティルは既に何度も気を失い、気づき、気を失い、を繰り返していた。ティルは意識が戻る度に嘔吐した。もう胃液しか出なくなっている。サークルカイトの羽の音が悲鳴をあげ始めていた。機体がバラバラになるかもしれないという恐怖とも闘っていた。
どれだけの時間が経っただろうか、とうとう胃液ではなく口から血が出てきた。流石のティルも苦しさから、楽になりたいという気持ちが湧いてきた。その時、不思議と父、母、カルタ達の顔が思い浮かんだ。
『まだ、駄目だ。まだだ。まだ死ねない。』
何度も自分に言い聞かせた。不思議と機体はもった。まるで何かに守られているかのようであった。
そして、更に時間が流れた。永遠に続くかと思うほど、長い時間に感じられた。とうとう、巨大な白い雲を突き抜けたのである。
白い雲を突き抜けた途端、風の強さが緩やかになった。ティルは残された力を振り絞り、操縦棒を握った。機体が真っすぐとなり安定した。ティルは安心したのか、再び気を失った。
ティルは夢を見た。父や母、ドラゴンシティーの住民達が
「姫様、お帰りなさいませ!」
自分の帰りを歓迎してくれている夢であった。気絶しながら、ティルは微笑んでいた。
ティルは儚い夢から目が覚めた。頭がクラクラしたが、なんとか身体を起こした。
目の前には夕焼けが見えた。そして、眼下には、どこまでも広がる大地が、森林地帯が夕焼けで赤く染まるのが見えた。
その瞬間、自分の胸から抑えがたい衝動が走った。大地に向かい、思わず泣き声とも分からない大声を出してしまった。止まらなかった。ここまで来る為に犠牲になった者、石化した者、父と母の想いを考えると止めることはできなかった。
その頃、大魔王セロキオやボルグが、元々いた世界では闇の力の影響が減少していることに気づき始めていた。
この世界はゼウス率いるオリンポスの神々が住んでいる世界であった。大聖堂に神々が集まり会合が開かれようとしていた。
第1部 ~完~
この小説に少しでも関わって下さった方、有り難うございました。
特にブックマーク、評価、感想を下さった方、本当に有り難うございます(^^)
今回、初めてファンタジー小説を書かせて頂きました。書いているうちに、もう一度最初から書きたいという気持ちが抑えられなくなってきました。
第2部にいく前に、ライト&ダークファンタジー~序章~という題名で、もう一度書き直したいと思っています。もし宜しければ、次の月曜日に「魔法剣」で検索すれば出てくると思います。良かったら読んでください。勉強し、構成を練りなおさせて頂きます。
宜しくお願いします。