第1部 絶望の始まり (23)自爆
カルタとドラゴンライダーとの壮絶な戦いが終わった頃、既に魔霊室でも死闘が繰り返されていた。闇の勇者バルトは、真っすぐに魔霊室に乗り込んできた。
戦闘始め、魔法使い達は攻撃魔法を繰り出していたが、闇の加護を受けているバルトに攻撃魔法が効かないことが分かった。
そうなると手段は一つであった。いや、元々その計画だったのかもしれない。肉弾戦に弱く、マジックポイントの少ない魔法使い達は、魔法力と生命力をブレンドさせればできる自爆を繰り返した。数人で一斉に向かうことで何人かは近距離で自爆ができダメージを与えることができた。それを、ただ繰り返した・・・。簡単に命が散った。
ジエラックは、自爆の爆発と爆風から王と妃を守っていた。残り少ない、マジックポイントを使い、魔法力でできた障壁を周囲に張った。王は気が動転した。何か分からないことを呟き、涙を流していた。目の前の出来事を受け入れることができず心が壊れかけていたのだ。そして妃は決して王から離れなかった。
爆風と煙の中から闇の勇者は出てきた。闇の勇者は明らかにダメージを受け、身体の損傷は激しかった。左側顔面は焼けただれていた。そして左腕にいたっては、左上腕から下は無くなっていた。損傷部位から黒い霧が出ている。その為、身体のあらゆる所から黒い霧が出現し、回復を促しているようであった。足を引きずりながら近づいてきた。
「ガッガガガ。」
闇の勇者から声にならない声が漏れた。
ジエラックは、その姿を見て悟った。自分が今、ありったけの魔法力と生命力を使い自爆すれば・・・。勝機が見える。
しかし、後方を振り返り、王と妃を見た。自爆をすれば、確実に彼らを巻き込む。ジエラックは瞬間、悩んだが諦めた。
「王よ。妃よ。本当に最後まで、この爺のこと信頼してくれて感謝しますじゃ。わしは、どうしても、その優しい王様を生かしたい。」
ジエラックは、王と妃に近づき、二人の手に触れた。
王は焦点があっておらず、ジエラックに気づかないようであった。
「ジエラック?」
妃が訊ねた。
ジエラックは笑い
「未来で希望を待っていなされ。」
そして、自分の全魔法力を使い二人を抜け道にまで瞬間移動させたのである。
魔霊室に残ったのはマジックポイントも魔法力も尽きたジエラックと満身創夷の闇の勇者だけとなった。
ジエラックは23人の魔法使いに詫びた。
しかし、彼らは、これだけのダメージを与えてくれた。このことで、闇の勇者はもう、ティルに手が届かない。自分達の希望を地上に放つことができる。不思議だった。最後の場面でジエラックは満ち足りていた。自分の全てを使いきることができた。それだけは確信できた。このことがジエラックの心を安らかにさせた。そして目を閉じた。
闇の勇者バルトはジエラックに近づき、剣を振り下ろした。