第1部 絶望の始まり (21)西屋上の激闘の
ティルは王、妃、ジエラック、魔法使い達に別れの挨拶を済ませた。手を握り合い多くは語らなかった。命をかけて、自分を逃がし、希望を作ろうとしてくれている。その相手に、ティルは何て言葉を発していいのか分からなかった。
ティルは、最後に父と母の姿を見た。手を取り合っている二人の姿を誇りに思った。
魔霊室を出て、ティルは急いで西屋上に向かい走った。時間は、もう無い。
「お姫様、行っちゃいましたか~。」
「無事、下の大地に行けたらいいですな~。」
「後は、ここで化け物を足止めですね。」
魔法使い達は口々に言った。言葉の端々からティルに好意があることが分かった。その気持ちが王にも伝わっていた。
王は言った。
「お前達には、嫌な役割ばかりをさせている。申し訳ない。」
魔法使い達は、笑い首を振った。
王も寂しそうに笑った。その様子を見た妃が
「あの子は今、私達から巣立つことができたのです。喜びましょう。」
そう言いながら、王の手を握った。
ジエラックは驚いていた、明らかに他の魔法使い達の魔法力が上がっているのである。少女の覚悟を見て、最後の力を燃やし尽くそうとしていたのだ。
『若き蛇よ、竜になり、いつか、この城に戻ってきてくれよ。』
ジエラックは願った。
そして、その頃、命をかけて戦っている者が、もう一人・・・。
西屋上にてドラゴンライダーとカルタの激闘が始まっていた。
ドラゴンは、空中へ飛び、火炎を吐いた。意を決したカルタは、炎の中に防御もせず、その身を突っ込ませた。捨て身のカウンターを狙ったのだ。
カルタは闘いの中で
『前に出る!』
『先を取る!』
これらのことが、自分よりも強者との闘いでの活路になることを知っていた。
突っ込みながら、カルタは剣先に生命エネルギーを集め高く飛んだ。炎の中から出てきたカルタは全身に火傷を負っていた。が、かまわず剣を振り下ろした。
「斬鉄流 刃飛ばし!」
生命力の塊が刃の形に変わり、ドラゴンライダーに向け飛んで行った。
炎の中に自ら突っ込んでくる相手は初めてであった。その相手から思わぬ攻撃がきた。
ドラゴンに跨っている髑髏は思わず手綱を引き、ドラゴンを盾にして、自分の身を庇った。ドラゴンは逃げることもできず、まともに生命力の刃が身体を切り刻んだ。飛ぶことができなくなったドラゴンは落下するしかなかった。ドサッという巨大な肉が落ちる音がした。
黒い槍を持った髑髏は、ドラゴンから降り、躊躇わずドラゴンの頭を槍で刺した。ドラゴンは動かなくなった。
その様子を見ていたカルタは、冷静だった。相手の戦力を削れたことを喜んだ。しかし、自分の身から煙が出るぐらい火傷を負いダメージが大きかった。
懐に入れていたポーションを口に入れ、すぐさま構えた。回復はしたが、思った以上にダメージが大きく、回復が間に合わない。身体のあちらこちらの組織が焼け焦げていた。既に、素早く動くことも、力強い攻撃を繰り出すこともできる状態ではなかった。
髑髏は黒い槍を両手で構え、ゆっくりと近づいてきた。何をするか分からない相手に警戒していた。