表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライト&ダークファンタジー  作者: 天使の中ちゃん
20/24

第1部 絶望の始まり  ⑳ティル覚醒!!


 魔霊室に飛び込んできたティルは王と妃に飛びついた。王と妃がくっつくような格好になり二人から離れなかった。


「お父様、お母様、私は離れたくありません。ずっと、おそばにいたいです。」


振り絞るように吐き出した。涙があるのなら泣いていただろう。しかし、ティルは泣くことができない。空気の少ない水槽に入れられている魚のように口を開け、ただ嗚咽していた。その姿をジエラックや魔法使い達は不憫に思った。



王にも込み上げてくる物があった。この娘は分かっているのだ。おそらく永遠の別れになることを・・・・。王も抱きしめたかった。しかし、王は知っている。ティルに期待して石になった住民達の姿を・・・。王は意を決した。ティルの身体を離し、ティルの顔に思いっきり平手打ちをしたのだ。


 

 王がティルに手を上げることは初めてであった。ティルは頬を押さえ、驚いた表情をしていた。魔法使い達も、驚きを隠せなかった。ただ、妃だけは静かに佇んでいた。 


「目が覚めたか?ティル。お前は住民達の前で大切な約束をした。必ず、下の大地に行き、援護を連れて帰ってくると。お前はその約束を反故にするのか?」


王は肩で息をしながら言った。王は、もう動揺を隠せなかった。自分の気持ちと使命感が矛盾していることに気づいていた。ティルが3才の時に、王は、この娘を犠牲にして涙を奪った。その罪の意識をずっと持っていた。状況は違うが、今も同じことを、この娘に強いているような気がした。


ジエラックが言った。


「申し訳ございません。姫様。これを見て頂けますか。」


ジエラックは水晶を指さした。水晶の場面は、狭い抜け道で石になっている沢山の住民達の姿が映しだされた。悲惨な光景だった。そして最後に、石になった子供達2人を抱きしめて石化した母親の姿が映し出された。


「これは、姫様が提案された作戦の結果でございます。住民達は沢山の想いを姫様に託しています・・・・・・・。ただ、私達、ドラゴンシティーの住民は一度、姫様に助けられています。姫様が、どのような行動を選択しても、私達は否定することはしません。」


ジエラックは珍しく恭しく進言した。



 ティルは水晶を見たまま肩を落とし固まっていた。自分の身勝手さ加減を痛感していたのだ。妃は、その様子を見て静かに、ただ静かに言った。

「ティル。今、貴方がしなければいけないことを、ただ成しなさい。」


ティルは情けない顔で妃を見た。妃は頬笑み頷いた。妃の顔を見たティルも安心したかのように笑った。そして、王の下に行き跪いた。


「申し訳ございませんでした。覚悟が足りませんでした。もう2度と迷いません。」


そう言うと鞘から刀を抜き、自分の長い後ろ髪をバッサリと切った。刀を鞘に入れた後、


「お父様、これはお詫びの印です。受け取ってください。」


ティルは青い髪の毛を王に渡した。そして、後方に退き、もう一度、鞘から剣を抜いた。 左手を床に着けたと思った瞬間、ティルは剣を自分の左手に素早く突き刺した。


『グサッ』


耳障りな音が一瞬した。


「な、何て事を。」


王と魔法使い達から思わず声が漏れた。




ティルの左手から鮮血が溢れ出ていた。異常な光景だった。年端も行かない少女が自分の掌を剣で刺しているのである。その後も圧巻であった。

「これは私の罰です。」


ティルは何事もなかったかのように涼しげに言ったのだ。その時、ジエラックは見た。ティルの瞳の中の狂気を・・・。



その様子を見て、妃は喜んだ。


「その意気です。ティル。今の貴方の表情を見て私は安心しました。」


妃は、そう言いティルに近づいた。左掌にポーションを直接かけ、自分のスカートの布を千切り、包帯にして巻いた。



ジエラックには、二匹の蛇が寄り添い合っているように見えた。


『この二人は、わし等と違う。蛇じゃ。』


ジェラックは恐れる半面、頼もしく感じた。


ティルは立ち上がり言った。


「皆さん、ごめんなさい。今、目がはっきりと覚めました。私は必ず使命を果たし、ここに戻ってきます。今度こそ誓います。」


そう言ったティルからオーラのような物が感じられた。さっきまであった少女臭さが無くなっていた。



 そして、その少女臭さで消されていた、元々持っていたカリスマ性が出始めた瞬間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ