第1部 絶望の始まり ②天空での戦争開始。
スカイドラゴンシティー上空に巨大な赤黒い魔方陣が描かれた。町の人達は上空を仰いだ。その魔方陣から沢山の黒い物が降ってきたように見えた。よく目を凝らしてみると黒い衣を着た死霊の軍団だった。
町中に悲鳴が飛びかった。
城内でもパニックになっていた。明らかに禍々しい魔力が魔方陣から感じられた。年老いた白髭の魔法使いジエラックは王様に進言した。
「王よ。あれは多人数瞬間移動系の魔方陣じゃ。あれ程、大きな物を作れるとは、フォフォフォ。とにかく沢山の招かざる客が降ってきますぞ。」
王は動揺を隠し指令を出した。
「まず、住民達に城内へ来るように狼煙で知らせなさい。兵は2部隊に分け、1部隊は城内を守り、もう1部隊は町中に出て、住民達を守りながら城内に誘導させなさい。」
スカイドラゴンシティーが戦火に巻き込まれるのは、勇者バルト率いる光の戦士達と魔王セルス軍団との壮絶な戦い以来、30年ぶりであった。若い兵士達には初めての実戦であった。
戦士・魔法エキスパート部隊を2部隊に分け、王の指示の元に早急に動いた。
《城内を守る部隊隊長にカルタ、補佐役に魔法使いジエラック。》
《町中に出陣する隊長にドラゴンシティー・随一の剣士ソルク、補佐役にジエラックの唯一の弟子ホスマ》
ソルク、ホスマが部隊を率いて町に出た時には、すでに火の手が上がっていた。
王は愛娘、ティルのことは一言も発さなかった。自分の娘よりも住民が大事、この姿勢を崩さなかった。本心は心中、穏やかではなかった。王の気持ちを察し、お妃からカルタに訊ねた。
「そういえば、今は冬休み。学校はないはずですね。ティルは今、どこに居るのでしょうか?」
カルタが答えようとする前にジエラックが口を開いた。
「フォフォ、御姫様は魔法図書館にいるぞ。」
カルタは意外そうな表情を浮かべた。ジエラックはカルタを見て
「今は魔法に興味がおありじゃ。子供の成長は早い。お主が思っている以上にお姫様は強くなっているぞ。」
カルタは笑い。王の方を向き進言した。
「今すぐ、魔法図書館に行ってきます。」
王は首を振った。
「ティルのことだ。城に向かっているはずだ。この非常事態に娘のことで、兵士を使うわけにはいかない。ましてやお前は部隊隊長だ。ティルを信じて待ちなさい。」
王は静かに言った。お妃も大きく頷いた。そして王の握り込まれたコブシを見た。
一方、ティルは王の言う通り、魔法図書館から単独にて城に向かっていた。文字通り、屋根の上を走り一直線に城に向かっていたのである。