第1部 絶望の始まり ⑰進行する闇の勇者
少しだけ時間を戻そう。
城門前では黒いドラゴンライダーが降り立ち、全ての死霊達は跪いた。怖い物見たさに集まった兵士達は恐怖で足がすくんだ。
黒いドラゴンに跨がっている騎士は、ゆっくりと右腕を挙げた。その瞬間、全ての死霊達は一斉に立ち上がり、鞘から剣を抜き臨戦体勢に入った。
城門横にある窓から見える景色は、恐怖でしかなかった。黒いドラゴンの騎士を先頭に、数千の死霊軍団が広がり、行進し始めた。
城門前にいた兵士の一人が、やっと口を開いた。
「に、に、逃げよう。」
「うわ~。ど、どこにだよ。」
「調理室だよ!!あそこに抜け穴がある話だ!」
それを聞いた、一人の兵士は顔を引きつらせ言った 。
「さ、さっき、調理室に行ったら鍵が閉まってた。」
瞬間、言葉が止まった。
「うわ~~~。」
恐怖と絶望の声が漏れた。
この土壇場で、
『じゃ~、ドアをぶっ壊したらいいわ!』
のような、ティルが言いそうな意見が出る余裕のある者はいなかった。そして、ドアを壊す時間があるかどうかは疑問だった。既に黒いドラゴンライダーは城門前に歩を進めていたからだ。
兵士達は、まだ城門があり、逃げる時間が稼げるという、か細い心の支えがあった。が、一瞬でバラバラに切られ、城門の破片がサイコロステーキのようになった。その破片を見た兵士達は腰を抜かし、恐怖の叫び声を挙げた。
黒いドラゴンライダーが城門を通り、城の中に入ってきた。黒い恐怖が間近に迫った。それは、ゆっくりと兵士達の横を通りすぎた。視線を合わせることすらしなかった。巨大な黒いドラゴンを間近で見た兵士は、その獰猛で分厚い鱗、巨大な腹部に己の非力さを痛感した。
そして、黒い騎士が発している黒い霧が兵士達に触れた。その瞬間、兵士達に激しい頭痛が起き、その場で跪き嘔吐した。バルトが発する闇の瘴気にさえ耐えることはできなかった。触れられることもなく倒れていく兵士達。武器を持って戦うどころではなかった。
苦しんでいる敵に目をくれず、黒いドラゴンは前進した。そして、その部屋の中央で立ち止まった。後ろから断末魔が聞こえた。
「ギャ~~。」
「助けて~。」
戦意を既に無くした兵士達は、何の抵抗も出来ず死霊達の毒牙にかかっていた。
バルトは右人差し指を天に向け、地獄の底から聞こえるような声で言った。
「スコープ。」
『スコープ:自分の生命力をレーダーのように飛ばし、それを相手の生命力に触れることで、どこにいるかを把握する技。その為、生命のない者の位置は把握できない。また、魔法ではなく生命力を使う技術の名前。これを応用することで相手の生命力の強さや生命力が滞っている部位(患部)が分かる。』
※魔法力を飛ばし、位置を確認することも可能。しかし、その場合において戦士や武闘家など、魔法力のない、または少ない者には反応しないことがある。その為、生命力を使用することが多い。
その瞬間、右人差し指を中心にバルトの生命力が、1階から屋上まで球体の波紋のように広がった。その波紋で触れることで、城内にいる人間の数と位置を把握した。
一階には3人。(残りのお宝を探している兵士)
二階に26人(王、妃、ジエラック、魔法使い23人)しかも固まっている。
三階に1人
三階と西側の屋上の間の階段に1人
屋上に0人
『城内にいる人の数が少ない。』
それがバルトの感想だった。しかし、考える程ではない。逃げたとしも所詮、天空の島内にいる。バルトは、死霊達に城内にある不審な物を探すように指令を出した。そして、上空で旋回しているドラゴンライダーには四階屋上で待機するようにテレパシーを送った。
その頃、屋上に続く階段で、サークルカイトを持ち上げカルタは登っていた。カルタは後悔していた。ティルの階段を下りる後ろ姿を見て、一足遅れてカルタも気づいた。
王や妃が抜け道へ移動する時間がないということに・・・。カルタはティルに
「行っておいで。」
と自分から言ってあげれば良かったと思った。『今回も』、少女一人に運命を託すしかなかった己の非力さが悔やまれた。
屋上への入り口が見えてきた。入り口から光が差していた。汗だくになり、サークルカイトを担ぎながら登り切った。
屋上に出た時、気持ちのいい風が吹いていた。とても、見晴らしが良かった。何度も見た景色のはずだが今までで一番、美しく儚く感じた。その景色は、城外から少し草原が広がった後、崖になっていた。そこからは、ただ吸い込まれそうな青空がどこまでも広がり、まっ白な雲が所々にあった。カルタは息を吐き、左側に向きを変え言った。
「よぉ~!いい景色だろ?」
カルタは鞘に手をかけた。
「グワァ~~!」
そこには、体長3メートル強のグリーンドラゴンがいた。その上に黒い衣を纏った髑髏が黒く長い槍を携えていた。
<登場人物プロフィール>
レベル58
名前:カルタ・マース
種族:人間
性別:男性 年齢:58才
職業:部隊隊長
才ある職業:戦士
HP:220
MP:0
力:178
スピード:85
防御力:100
魔力:0
使える魔法:なし
スキル:カルタ流・斬鉄流剣術
(自分とはスタイルの違いがある為、ティルには基本のみ教授。)
装備品:鋼鉄の鎧・鋼鉄の籠手・鋼鉄の剣
アイテム:ポーション