第1部 絶望の始まり ⑮怒涛の一撃
上空でバルトが臨戦態勢に入った時、魔霊室では、ジェラックが膨れ上がり破裂しそうな闇の力を感知していた。
「来ますぞ。」
ジエラックは23人の魔法使いに声をかけた。凄まじい闇の力の前に緊張が走った。ジエラックの表情に余裕はなかった。魔霊室にいることで底上げされた魔法力。その全てをかけジエラックと23人の魔法使いは詠唱を唱え、強固な維持結界を張った。
上空でのバルトの攻撃態勢も完全に整っていた。
「ふは~。」
最後に腹から口へ呼吸を出し、全身の無駄な緊張を失くした。その瞬間、下丹田に黒いオーラが集約された。バルトは自分の跨っているドラゴンの横っ腹を蹴り再度、合図を出した。その瞬間、黒いドラゴンは猛烈なスピードで下降し真っすぐ、結界に突っ込んだ。まるで黒い流星のようになった。
「うおおおおおおお~。真風流 奥義 グレイト・ダーク大切断!!」
バルトは鬼の形相で叫んだ。
真風流・大切断。脊柱、肩甲骨、両腕を12分にしならせ、上段の構えから思いっきり剣を振り下ろす大技であった。
この大技をドラゴンの猛烈な下降速度に合わせ、これ以上ないタイミングで結界へ怒涛の一撃を加えた。
結界とバルトの必殺技が激突した。
『ガッシャ~ン。』
今まで聞いたことのないような破裂音と共に特大の衝撃がスカイドラゴン城、いやスカイドラゴンシティー全体に走った。地震のようにガタガタガタガタと激しく揺れた。城内に居る者は、立っていることもできなかった。
結界に一撃を加えた瞬間、黒いオーラや霧が結界を一瞬で覆った。そして、間を置かず、結界は真っ二つに文字通り、切断された。さらに振り下ろした剣圧で城の一部分が破壊された。
ジエラックの計算では10分は保つと予想されていた結界は一瞬で消えた。同時にジエラックの作戦は破綻した。
黒いドラゴンと黒い勇者は、ゆっくりと下降し、城門前に着地した。その瞬間、城内を囲んでいた全ての死霊達は片膝をつき、頭を下げ始めた。異様な光景であった。数百、数千の死霊が前から後へ、横に広がるように片膝をつき始めたのである。まるで全ての死霊が闇の勇者の降臨を待っていたかのようであった。
その光景を城門内で見ていた者たちがいた。逃げずに城のお宝を物色していた者達だった。怖いもの見たさに近づいてきたのである。しかし、黒い勇者と黒いドラゴンの姿を見ただけで、ここにいる自分達に後悔した。
間近で見れば、5メートルはある黒いドラゴン、その巨躯だけで圧倒された。そして、その表皮についている鱗は分厚く、黒い鋼鉄のように黒光りし、自分達の刃が届くとは到底思えなかった。口からは唾液と黒い炎がチロチロ出ていた。爬虫類特有の冷たい獰猛さが全身から醸し出されていた。
それに跨っている黒い騎士は、黒い霧に覆われ、正気の表情では無かった。その威容からは絶望と恐怖しか感じられなかった。足が竦み逃げることもできなくなっていた。